友人との談話
次の日。猫田さんは僕に気があるのか、それとも単なる勘違いなのか。いまいち確信のもてなかった僕は昼休みに屋上で、弁当を食べるついでにこの事を友人たちに相談してみる事にした。
「それフラグ立ってんじゃない? 正則、彼女ができるチャンスだ! 告白しちゃえよ! 俺応援するからさ!」
そう言って僕の背中をバンバン叩いて応援してくれるのは
ニックネームの由来は「鳩ぽっぽ」からだ。黒髪短髪で眼鏡をかけており、やせ型の男である。
その見た目から暗いと思われがちだが意外と熱い性格をしており、友達が何かやろうとすると全力で応援してくれる良い奴だ。
ポッポは僕の話を聞いて猫田さんとの間にフラグが立っていると判断したようで、イケイケドンドンで告白しろと鼓舞してくる。
「こーちゃんはどう思う?」
ポッポは僕をとばして反対側にいるもう1人の友人に声をかけた。
「うーん…」
僕の左隣で眉間にしわを寄せ、唸っているのは
丸坊主に刈り上げた頭に高校生らしからぬオッサン顔。そしてポッポがやせ型なのに対し、こーちゃんは縦にも横にも広い。身長190センチで体重は100キロを超える巨漢だ。
冷静な性格をしており、どんな時もクールに助言をくれる頼れる友人だ。彼はポッポとは逆に、猫田さんが僕に気があるという事に懐疑的なようだった。
「確かに正則がさっき言った事はどれも脈がある時のサインのように思えるが…」
「でしょ? 絶対猫田さんは正則の事が好きだって!」
「いや、実はさ。俺…猫田さんは密かに犬岡と付き合っているって噂を聞いたんだ」
「えっ…猫田さんが犬岡と?」
こーちゃんの言った「犬岡」というのは、フルネーム・
しかし彼は自分が見下している人間をぞんざいに扱ったりと少し人として性格に問題があった。特に僕たちのような陰キャには厳しい態度を取るので、僕は彼の事が嫌いだった。
あの性悪の犬岡と猫田さんが…にわかには信じがたい話だった。
「噂は所詮噂なんだけどさ。もし本当に付き合っていた場合、正則はピエロになるぞ。あの性悪の犬岡の事だ。絶対にそれをネタに正則を馬鹿にしてくるはず。だから行動に移すのはもう少し猫田さんの周りを探ってからでもいいんじゃないか?」
冷静なこーちゃんらしい意見だった。彼の意見ももっともである
でも僕はこーちゃんの意見を聞いてもなお…猫田さんは僕の事が好きなのではないかという考えを捨てられなかった。
猫田さんが彼氏がいるにもかかわらず、僕に気のあるような事をしてくるだろうか。
「恋は盲目」という言葉があるが、そう盲信するまでに僕の心は猫田さんに傾いていたのである。
そこまで話したところで昼休み終了のチャイムが鳴り、僕の相談は一旦保留という事になった。
○○〇
その日の帰り。僕は猫田さんと一緒に帰ろうと思って声をかけた。ところが彼女は本日用事があるらしく断られた。
ならば友人であるポッポと一緒に帰ろうと声をかけたのだが、彼は放課後そのまま学習塾に行くらしく、これまた断られた。ちなみにこーちゃんは僕とは帰る方向が逆だ。
仕方がないので僕は1人寂しく帰宅する事にした。冬の風が吹きすさぶ道をトボトボと歩いていく。
結局その日は移動教室などで休み時間に2人と話す機会が訪れず、僕の相談は途中で中断したままだった。
猫田さんは僕の事が好きなのか?
恋愛に奥手で経験のない陰キャの僕にはその判断がつかなかった。頭の中で何度も何度も同じ話題がループする。
突然「ブオーン」という轟音がして僕は顔を上げた。
2メートル程前を車が猛スピードで通り過ぎていく。どうやら考え事をしているうちに自宅近くにある交差点まで帰って来ていたらしい。信号はまだ赤く光っていた。
危ない危ない…考え事に夢中で危うく車に引かれる所だった。
僕は横断歩道の白線の後ろに立ち、信号が変わるのを待つ。ここの信号は赤から青に変わるまでが長い。
待っている間暇つぶしにと対岸の歩道に目を向けた。
仕事中のリーマン、買い物をしている主婦、友達の家に遊びに行く途中であろうちびっこ。様々な人々が信号が変わるのを今か今かと待ちわびていた。
その中に一際目立つ存在がいた。大きな荷物を風呂敷に包み、それを背中に背負ったおじいさんだ。荷物がかなり重たいらしく、時折フラリとよろめいている。
僕はそれを「危ないなぁ」と思いながら見ていた。
もしかすると荷物の重さで倒れて怪我をするかもしれない。ご高齢の方は軽くこけただけでも骨が折れたりして大惨事になるのだ。
僕の祖父も趣味のランニング中にこけて頭を打ち、それが原因で亡くなってしまった。
お年寄りには親切にするべきだと思った僕はそのおじいさんを手伝おうと声をかける事にした。
信号が変わり、青になる。人々が一斉に対岸に渡ろうと動き始めた。僕はおじいさんに声をかけるべく近寄っていく。
「ああっ!」
「危ない!」
案の定、そのおじいさんは横断歩道を渡っている最中に再びよろめいた。僕はそれを慌てて支える。
「大丈夫ですか?」
「すまんのぅ。助かったわい」
「目的地はどこですか? 手伝いますよ」
「いやいや、そこまでしていただく訳には…」
「困っている人を放っておく事はできません。荷物貸してください。持ちます」
「…若いのに感心な方じゃ。最近は困っている人を見かけても我関せずという人が多いからのぅ…。うちの孫にも見習って欲しいぐらい。では自宅までお願いしようかの。なぁに、すぐそこじゃ」
「分かりました」
僕はおじいさんから荷物を預かると後に着いて行った。
○○〇
「ここまでで大丈夫じゃ。ありがとう。助かったぞい」
「いえいえ、大したことはしていません」
おじいさんの目的地は町の神社だった。僕は預かった荷物をおじいさんに返す。
ここがおじいさんの自宅…という事はこの人は神主か何かだろうか?
「では、僕はこれで」
「ああ、ちょっと待つのじゃ。礼を渡すからの」
おじいさんは神社の奥の建物に入っていくと、今度はスポーツドリンクとお菓子を持って出てきた。あそこが社務所兼住居なのかな?
「荷物を持ってくれてありがとう。これは礼じゃ」
「ありがとうございます」
僕は貰ったスポーツドリンクとお菓子をポケットにしまった。
ふぅ…良い事するとやっぱり気持ちが良いな。
そして今度こそ帰ろうとする僕の顔をおじいさんは何やらじっと見つめてきた。
「うーむ…お主から何やら神聖な気配を感じるの」
「えっ?」
何やら魔訶不思議な事を言い始めたおじいさんに少し困惑したが、僕はすぐにあの事ではないかと思い至った。神職の方にはやはり分かってしまうらしい。
「その縁、大事にしなさいよ」
「はい、もちろんです!」
僕はおじいさんにそう言うと神社を後にした。
◇◇◇
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