悲しみに暮れる僕は神様に慰めて貰う
気が付くと僕は廃神社の床の上で寝ていた。
猫田さんに嘘告されてからここに来るまでの記憶が無かった。どうやら僕は無意識のうちにこの廃神社に来て、床で寝ていたらしい。
外はもう暗くなっているようだった。スマホで時間を確認すると19時を少し過ぎていた。
「(正則、気分はどうじゃ?)」
神様の声が聞こえた。心なしか、彼女の声はいつもと比べて少し疲れている様に感じられた。
「神様。うん、もう大丈夫。ごめんね、心配かけちゃった」
僕は自分の状態を確かめる。あの時はショックで死んでしまいたいぐらいの気持ちだったが、今は比較的落ち着いていた。
「(良かった…。死にそうな顔をしてここに入ってきた時は肝を冷やしたぞ。…済まぬ、わらわにかつての力があれば、お主に悲しい思いをさせずに済んだものを)」
僕はそこで猫田さんから嘘告された時にかすかに神様の声が聞こえたのを思い出した。もしかすると彼女はその不思議な力で一連の流れを見ていたのかもしれない。
…参ったなぁ。彼女には恥ずかしい所を見られてしまった。
「いや、神様は何も悪くないよ。僕が馬鹿だったのが悪いんだ。可愛い女の子にちょっと親し気にされたからって浮かれて、自分の身の程をわきまえなかった。冷静に考えれば猫田さんのような女の子が僕のような陰キャに惚れるはずないって分かったはずなのにな。ハハッ。こーちゃんの言う通り、僕はとんだピエロだよ。みんなに笑われる愚かな道化さ」
僕は自分のあまりの愚かさを自嘲した。
情けない。実に情けない。猫田さんの好意が嘘だと見抜けるヒントはあった。なのに僕は恋に盲目になって、それを気づかないフリをしていたんだ。
「(それにしてもあやつら…。正則を笑い者にするためだけにワザと気のあるようなフリをして弄びおってからに。わらわはこのような事は決して許せん!)」
神様は犬岡たちの行動に憤慨している様だった。
神様は「縁結びの神」だ。だからこそ今回のような人と人との「縁」…繋がりを踏みにじる行為が許せないのだろう。
「でも今回の件はいい勉強になったよ。…高い勉強代だったけどね。やっぱり僕のような陰キャは異性に興味を持たず、静かに生きて行くべきだったんだ。これからは分相応に生きるよ」
ただでさえ性格的に恋愛が不得手なのに加え、今回の仕打ち。僕にとってそれがトラウマになるには十分な出来事だった。
だからもう女性とはできるだけ関わらない方がいい。そう考えていた。
「(正則、そう自分を卑下するな。お主にだっていい所は沢山ある。例えば…お主はわらわの教え通り、困っている人をみかけたら率先して声をかけているじゃろ? 人々の心が冷たくなった今の世で、あれは中々出来る事ではないぞ。わらわはお主のような優しい男児は好きじゃ)」
「ハハッ、ありがとう神様。でもね、今の時代は僕のような陰キャの優しさなんて価値がないんだよ。女の子たちが望んでいるのは強者からの優しさであって、陰キャからの優しさじゃないんだ」
「(わらわは縁結びの神じゃ。人と人とが結ばれるのを見るのが何より嬉しいし、縁が切れるのを見るのが何より悲しい。力の弱まったわらわにはまだ見えぬが…お主にもちゃんと縁はある。きっといつかお主の良い所を認めてくれるおなごが現れる。もうしばし頑張れ)」
神様は傷心の僕をなんとか励まそうとしてくれているらしい。
「うん、神様ありがとう。でももう恋愛はしばらくいいかな」
「(正則…)」
僕がそう言った瞬間、身体がふわりと…言葉では表現しづらいが、暖かい空気のようなものに包まれた。その暖かい空気に包まれていると不思議と心の傷が癒えるような…そんな気がした。
眼には何も見えない。しかし、もしかすると神様は僕を抱きしめてくれているのかもしれない。核心は無いが、そう思った。
神様はとても優しい女性だ。
人と人とが繋がり、お互いに助けあえるような、そんな世になればいい。人々を幸せにしたい、笑顔を見たいという感情が普段の彼女の言葉の節々から感じられる。そんな人々の幸せを願っている優しい神なのだ。
今も傷心の僕をなんとか励まそうと必死に言葉をかけてくれている。
「あぁ、神様のような優しい女性が彼女だったらなぁ…」
神様のような優しい女性とずっと一緒にいたい。
やはり僕は嘘告されたショックで少しおかしくなっていたのかもしれない。思った事をそのまま口に出してしまったのだ。
言葉を放ってすぐに「自分はとんでもない事を言ってしまったのでは?」と焦った。
だって僕は所詮ただの人で向こうは神様。高位の存在。とても「彼女になって下さい」と言って付き合えるようなものではない。文字通り格が違う。
おそらく神様に「この愚か者!」と叱られて、断られるだろうと思っていた。
しかし、神様の反応は僕の予想とは違うものだった。
「(少し…考えさせてたもれ)」
「…えっ?」
しばらくの間、神様の声が聞こえなくなった。
そして10分ほど経った後、再び神様の声が聞こえてきた。
「(決めたぞ! わらわが正則の彼女になってしんぜよう)」
僕は神様の返答に驚いた。
「ほ、本当にいいの? だって僕只の人間だし、陰キャだよ?」
「(古来より神と人間の恋愛話など山ほどあるし、わらわは正則の良い所をたくさん知っておる。何も問題はなかろう。これよりわらわと正則は恋人じゃ。よろしくの、正則)」
「よ、よろしく神様…」
◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます