嘘告のネタばらし
「アハ、アハハ、アハハハ、アーハッハッハッハッハ! 超ウケるんですけどぉ。こんなに上手くいくとは思わなかったわぁ。アーハッハッハッハ!!!」
猫田さんはそれまで見た事が無いような邪悪な笑みを浮かべ、腹を抱えて大笑いし始める。
僕はいきなり豹変した猫田さんに混乱して状況をイマイチ理解できずにいた。
「えっと…? 猫田さん?」
「プギャーーーーーーー!!!!! 嘘告大成功~~~!!!」
「ギャハハハハハ!!! だから言ったろ? 陰キャチー牛は簡単に信じるって」
その時、突然後ろから僕を煽るような声が聞こえた。
振り向くと屋上に設置してある給水タンクの後ろから犬岡と猿木が大笑いをしながら姿を現した。今まであそこに隠れていたらしい。
「ギャハハハ! お前まだ分かんねーのかよ? いいぜ! 鈍いお前のために俺がネタバラシしてやるよ。これは嘘告! 樹里はお前の事なんざ好きでも何でもなくて、お前をハメるために今まで仲の良いフリをしてたって事だよ! すっかり騙されてやんの! バーカ! バーカ!」
うそこく…? 嘘の告白って事か?
つまり…猫田さんは告白するために僕を屋上に呼び出したのではなく、騙して笑い者にするために呼びだした…という事?
いやでも、あの猫田さんが嘘告なんて酷い事をするはずが…。
頭の中でグルグルと思考が回る。動揺しているせいもあって、考えが上手くまとまらない。
犬岡の言葉を聞いてもなお、僕は猫田さんが嘘告をしたという事実を受け入れないでいた。
僕はすがるような目をして猫田さんを見上げた。
…猫田さん、嘘だと言ってくれよ。猫田さんがそんな酷い事をするはずないよね?
だがその願いもむなしく、猫田さんは僕を無視して犬岡の方へ近づき、彼の腕に抱き着いた。
猫田さん、どうしてそんな奴の腕に抱き着いているんだ…? まさか本当に犬岡と付き合ってるの?
その光景に僕の脳みそが「キュッ」と締め付けられる。頭が割れるように痛い。これが俗にいう脳破壊という奴だろうか。
「もぅ~。いくらゲームに負けた罰だからって私にこんな事させるなんて酷すぎ。キモい陰キャチー牛の相手するの本当にしんどかったんだから」
「あぁ、ごめんごめん。後でたっぷりと可愛がってやるから機嫌直してくれ。それに…ぶっちゃけお前も結構楽しんでただろ?」
「えへへ、当たり。あの陰キャチー牛、私がちょっと思わせぶりな態度とるだけでその気になって面白かった」
「バレたら白けるからな。バレないよう樹里に演技させてたんだよ。お前に気があると見せかけるようにな。本当はもっと早くお前の方から告白してくると計算してたんだが、中々告白してこないからこっちから嘘告したって訳! 結果、見事お前は騙された訳だ。ギャハハハ! 馬鹿だなぁ」
僕の願いは木っ端みじんに粉砕された。猫田さんも僕を騙すのを楽しんでいた様だ。
頭の中で走馬灯のように彼女との思い出が再生される。あれが全部…嘘だったなんて。
僕に抱き着いて来たり、l〇neに速攻で返信したり、目が合うと手を振ってくれたり、「付き合うなら鷹野っちみたいな男が良い」と言った言葉は全て…僕を騙すために仕方なくやっていた演技だったのか。
そして何より、猫田さんに本当は嫌われていたというのが、僕の心にまるでハンマーで100発ほどぶん殴られたかのようなダメージを与えた。
恋心を抱いていた人物が自分を騙していた事への絶望、それを見抜けなかった自分の不甲斐なさ、様々な感情が交じり合い心臓が張り裂けそうになる。
僕は立っていられなくなって、その場に両膝をついた。
「どうして…。どうしてこんな酷い事を…? 僕は君に何かした?」
犬岡はどうして僕にこんな酷い仕打ちをするのだろうか? 僕には何の心当たりも無かった。 そもそも彼とはほとんど絡んだ覚えもない。
「決まってるだろ。面白いからだよ」
「え?」
「聞こえなかったのか? 面白いからって言ったんだよ! この世の最高の娯楽はよ、他人を馬鹿にする事なんだぜ? 上の立場から下の奴らを馬鹿にする。これほど気持ち良くて楽しい事はねぇぞ! ま、お前みたいな陰キャチー牛にはこんな高尚な楽しみはわかんねぇよな! あ、底辺には馬鹿にする相手もいないか? ギャハハハハハ!」
「そうそう! お前ら陰キャチー牛は俺たちカースト上位陽キャの喋るおもちゃみたいなもんだ。おもちゃが目の前にあるんだから…遊ばないと損だよなぁ!」
「ちょっと2人とも、そこまで言うのは可哀そうだよ。いくらこの陰キャチー牛がキモいゴミだからって…アッハッハッハッハ」
犬岡、猿木、猫田さんの3人は大笑いしながらそう言った。
人を笑い者にするためだけにそこまでやるなんて…彼らの心はどれほどねじ曲がっているのだろう。
「ひぃーひぃー、腹痛てぇー。いやぁ…傑作だったぜ! 樹里がネタバラシした時の陰キャの顔。スマホで撮って全校生徒に回したいぐらい面白かった。これだから陰キャをからかうのは止められねぇんだよな。マジでウケるわー」
「ギャハハハ、全くだぜ!」
「ああ、あああ、あああああ…」
泣きそうだった。でもここで泣くと彼らは更に僕を馬鹿にしてくるだろう。僕は涙をグッと我慢した。
「怒ったか? 怒ったんならチー牛が怒った時にいうあのセリフ言ってみろよ。ほら、あれだよ!」
「『チギュアアアア!!!』って奴。ギャハハハ!!!」
「言わないんなら俺たちが言うわ。あ、それ『チギュアアアア♪ チギュアアアア♪ チー牛♪ チー牛♪』」
「あ、それ『チギュアアアア♪ チギュアアアア♪ チー牛♪ チー牛♪』」
犬岡と猿木はうなだれている僕の周りをクルクル回りながら、北海道民謡『ソーラン節』のリズムに合わせて『チー牛キモイよ節』を踊り始める。
数分後、2人は一通り僕をからかって満足したのか踊るのをやめた。
「はぁー面白かった。あ、そうそう。これ早速クラスの連中の間でネタにするからな。感謝しろよ。陰キャチー牛君がクラスの人気者になれるチャンスをやったんだからさ。ま、お前は笑われてるだけだけどな。ギャハハハ!」
「ギャハハハ! やっぱ陰キャチー牛をからかうのは最高だぜ!」
犬岡と猿木はそう言って屋上を後にした。僕はこの数分間に起こった出来事がショックすぎて何もできずにいた。
「あっ、そうだ。卓也に本命チョコ渡さないと」
残る猫田さんもそう呟いて屋上を去ろうとした。しかし、何かを思い出したように僕の元に近寄って耳打ちする。
「ちなみに君に渡したあのチョコね、あれ私の手作りなんかじゃなくて、去年スーパーのバレンタインフェアで半額で買った賞味期限切れの既製品だから♪ 手作りだと思った? 怒らないで聞いてね。君みたいな陰キャチー牛に私が手作りのチョコなんて渡す訳ないじゃん♪ お馬鹿さん♪ 身の程を知りなよ。バイバイ、君と過ごした日々、ゴミのように嫌でつまらなかった」
猫田さんは最後に追い打ちをかけて屋上を出て行った。
僕は魂が抜けたようになり、その場でずっと悲しみに暮れていた。
◇◇◇
嘘告により、精神をズタボロにされた主人公。今後どうなってしまうのか?
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