第57話~魔王降臨~

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「隊長!斥候隊より伝令が敵の先行隊は死鬼数百」

ケンが奥歯を噛み締める音が響く

「昼に死鬼が数百だと!どこから魔力が供給されてる!?」

メネシスではダブネスの配下であるネクロマンサーが魔力を送り続けることで死鬼は昼でも一定の範囲であれば灰にならず行動できる

だが一人のネクロマンサーが力を与えられる死鬼は数体で昼に行動する数百の死鬼は想像を超えている

百人規模のネクロマンサーの集団が背後にいるのか!?

否ありえないネクロマンサーはダブネスの懐刀となるレベルの存在で数人以上の存在はありえない

数人のネクロマンサーが数百の死鬼を昼に使役するということは無限に近い魔力の源がなければ

ケンは知っていても表に出せない想いを心に強く念じる

頼みます彩美様!憎しみの泉の破壊を・・・


「考えてる時間は無い!魔法剣士隊のため我らは道を切り開く!」

ケンの掛け声で闇の国精鋭部隊数百人が湧きたつ

この内の何人がここに戻れるのか

ケンの心が葛藤する

彩美様達が戦線に立てば無傷の勝利なぜ我らは傷付く前提で戦場に赴く

ケンの横で見守っていたナンシーが耳元で囁く

「誰かの力でなく私達の力で明日を手に入れる為に」

そうだなナンシー誰かに与えられる誰かのいつ無くなるかわからない加護による未来でなく自分たちの手で確実な未来を手にすることに意味がある

それに共感を覚えたから犠牲が出る前提でも彩美様の計画に賛同したのだから


「皆!安心しろ私達も出るぞ!」

ガイアから戻ったまどかと真矢もケンに合流する

無敵チートを失ったといえ二人の戦力は数百人の隊員増強に値する

「まどか様」

「ケン全ては我らの手でだ!いくぞ!」

その意味する事を理解しケンを促す

「全員・・・命を賭けてでも」

違う彩美様は死してでもやり遂げますに生きて帰る事に意味があると繰り返し否定されていた

「元い!皆!生きて帰り祝杯を一緒にあげるぞ!」

続きセレンの声が響く

「騎士団の皆様!魔法支援隊も一心同体です!総力を挙げ支援いたします!」

セレンと並ぶ十数名が詠唱を始める

隊員達の体が七色のオーラに包まれ様々なバフが施される


「いくぞ!ケン達の切り開く道を無駄にするな!」

背後に従う十数人の隊員に向かいメイレーンが叱咤激励する

彩美やるよ私は私達の手で未来を


”思ったより楽に泉へ辿り着けそうだけどタイミングどうするかな”

「彩美は誰も死なないタイミングで壊したいのだろ」

”だけど・・・それでは意味が無い”

「破壊のタイミングと伴う業は私が背負うから耐えてくれ」


夢なんか久々に見たけど見た内容を思い出せない

でも妙にリアリティーが凄かった感覚だけ残る

寝着がずっしり重くなるほどの寝汗が夢の重さを物語るけど思い出せないんだよ

寝不足を感じる重い瞼を開くと吸い込まれそうな金の瞳が視界いっぱいに

「大丈夫?」

”今何時”

「まだ三時だよ」

寝不足を感じる訳だね

七海が起き上がりサイドテーブルの水差しからグラスに水を注ぎ手渡してくれる

上半身を起こしグラスを受け一口飲むと眠気が退き思考がはっきりしてくる

「なんか魘されて”憎しみの泉”とか苦しそうに寝言で言っていたけど」

”えっ!?”

驚きで手を離し落下するグラスを七海が受け止めてくれた


憎しみの泉はプロットだけで物語には出てこない

そのプロットすら今の今まで忘れていたよ

でももしメネシスに存在してしまうのであれば・・・

「本当に大丈夫!?顔が真っ青だよ」

思わず七海の胸に顔を埋める

七海が抱きしめてくれ不安が和らぎ思考が正常に戻りはじめる

”世界は物語だけでなく私の記憶もメネシスの現実化に使ってるの!?”

誰に問うわけではないけど答えの無い疑問を七海にぶつけてしまった

「ありえるね」

”・・・”

七海の話だと

物語に無い細かいディティールが妙に私の趣味に合わせ作られておりメネシスでの生活が快適になっている

疑問を少し感じたが偶然と思う事にしていたけど世界が私の記憶をメネシスの現実化で足りない情報の補完に使っていたとなれば整合性はとれる


”そうなると必ず憎しみの泉は存在することになる”

憎しみの泉が存在するのであればダブネスは物語に紡がれた範囲を超えた強力な力を手にしている状態に設定が変更される

駄目だ震えが止まらない

ああ夢を少し思い出したよ

違う夢でない

あれは将来の現実

私を抱き締める腕に力を入れ七海が落ち着せてくれる

七海の柔らかい体の感触が安心感となり荒くなった呼吸が落ち着いて来た


ベッドに座ると再び七海がグラスを手渡してくれる

水を一口飲むと完全に落ち着く事が出来た

「聞かせてもらえるかな」

”まだ紡がれていない物語の未来・・・”

まどかと真矢は結成された精鋭討伐隊と共にダブネスとの最終決戦に挑む

物語のまどかと真矢は無敵チートを失っていない

無敵チートで簡単では無いにしろ絶対的な勝利を確信した戦いのはずだった


遥か昔はダブネスの城が存在した遺跡に到着すると数百の死鬼が道を塞いだ

数百であろうと数千であろうと死鬼など無敵チートの前では意味の無い存在のはずだった

斬り倒し塵と化す死鬼だが斬っても斬っても数が減らない

理由は簡単だった斬り倒した塵は飛び散らず集まり塵の中から再び死鬼が復活して来る無限の繰り返し

精鋭部隊はすでに全員が死鬼に倒され死鬼となりまどか達を襲う側になっている

無敵チートの戦闘力でも体力は無限ではない

呼吸は乱れ砕けそうになる膝を気合で支えているがそろそろ限界だ

最後の刻は一緒にと背中合わせで密着しお互いの体を支え抵抗を続ける二人

もう腕が上がらない

死を覚悟した刻だった


眼前の空間が歪み出す

「転移!?」

歪んだ空間へ徐々に実体化する精霊級サイズのドラゴン

でもこんなドラゴン見た事無い

全身はクリスタルの様に透き通り目だけが赤く光る

死鬼達は突然現れたドラゴンに動揺し二人とドラゴンを囲むように円陣を作っている

ドラゴンの口が開き数発の光る球が死鬼の群れに打ち込まれる

光の球は破裂し光る波となり死鬼達を飲み込む

飲み込まれた死鬼は塵となり霧散し再び死鬼の形に戻る事はなかった

全ての死鬼は塵と化し当面の危機は去った安堵から地に崩れ落ちる二人

ドラゴンは正体不明だが敵意があるなら既に命は無いはずだから

気を失った二人をドラゴンは優しく前肢で抱き上げると徐々に透明になり消えて行く


気が付くとベッドの上の二人

ベッドサイドに人の気配を感じる

まどかは上半身を起こし気配を感じた方向を見る

姿形は二十歳位の美女だが人なのかわからない

全身が透けクリスタルで出来た人形に服を着せているのか

でも確かに命を感じる


「気が付かれましたか」

低く冷たいが慈しみを感じる声が人形の口から発せられ瞼が開く

開いた瞼の下にあった瞳はルビーのように赤く光ってる

人形ではなかった確かに人だが信じられない

真矢も声で気が付き上半身を起こす

クリスタルの女性はベッドサイドのグラスに水差しから何かを注ぎ二人に手渡す

グラスを渡される時に触れた手はガラスのような感触だが温かく女性が人形でなく生きていることを示している

渡されたグラスの中身が気になり飲まずにいる二人へ

「ただの水ですよ」

と告げる


二人は一息に水を飲み干す

「もう一杯もらえるかな」

「はい」

女性が水差しからグラスに注ぐ

二人はまたも一息で飲む

長時間の死鬼との戦闘で疲れ果てた体に水が染みわたり肩の力が抜ける二人


「助力を頂き命を繋ぎ留めることができました感謝いたします」

相手は自分達が誰か知って助けたはずだから王族の礼を持ち感謝を述べるまどか

「御二人のことは存じております闇の国皇女まどか様とフィアンセの真矢様」

「はいその通りです」

「私の名はアーク・・・ダブネスの娘です」

「伝説ではダブネスの世界征服に反対をし多重空間に封印されたはずでは」

「父が三神龍との戦いでガイアに落ち多重空間を保つ魔力の供給が絶たれ封印から脱する事が出来ました」

アークは何時の日か父のダブネスがガイアから戻り世界征服を再開することは間違いないと封印から脱すると隠れ家を設け永き眠りについた

眠りにつく前に幻体を準備した

幻体は人の姿をし人とし振る舞い人の世を渡り歩きアークの目覚めの刻まで過ごす


「先ほど幻体が戻り私を目覚めさせ今まで見聞きしたこと私に伝えました」

「それで私達のことも存じておられたのですね」

「飾らなく言うと私の寝起きが悪くて本当に申し訳なかった多くの命を無駄に散らさせてしまい」

「お気になさらずに彼らも覚悟の上での戦場でしたので」

「本来であれば遺跡での戦闘が始まる前に伝えたかったのですが・・・」

遺跡には魔族へ無限に魔力を供給する源がある

この源を絶たない限り倒れても供給される魔力で復活してしまい無限の戦いとなる

源は「憎しみの泉」と呼ばれる小さな池

泉は人々の憎しみ怒り恨みを集め魔力に変換し溜め込む変換装置と貯蔵装置を兼ねている


「憎しみの泉は先史代の遺物です」

「人類が生まれる前に存在し滅びたたという伝説の時代」

先史代が存在していたことは証明されている

多くの場所に先史代の残した遺跡や地下迷宮が発見されているから

「正確には存在しただけで滅びてはおりません」

先史代の人々は肉体から魂を開放する事に成功した霊のような存在

肉体から解放された魂は永遠の存在となり知的追求を求めるだけの存在となった

母星の全てを理解してしまった先史代の人々は次なる知を求め宇宙へ旅立った

知の塊になった彼らにすれば光速で飛び続ける宇宙船を開発するなど造作も無い事


多くの星を巡り知を集める彼らだが定期的に生物が生息する星に降り立つ必要があった

魂だけとなった彼らだが生きる為にはエネルギーが必要だ

彼らが摂取するエネルギーは魔力

魔力は宇宙船の燃料としても必要だ

憎しみの泉は彼らが効率良く魔力を集める為に生み出された装置

まだ高度な文明は持たないが既に進化を終えた人類が暮らすメネシスは彼らにすれば最高の星だった

「えっ人類が生まれる前でなく」

「はい人類が文字をまだ持たず記録が残せない時代にやってきました」

感情のある生物は本能に従うだけの生物より多くの怒り恨み憎しみを持ちオーラを発する

メネシスの多くの場所に作られた憎しみの泉は今まで立ち寄ったどの星よりも効率的に魔力を彼らに与えた

知を集め終え十分な魔力を蓄えた彼らは人類が文明を持つ前に次の星へ旅立って行く


「知を求めるのであれば人類がこの先に得る文明には興味は無かったのですか」

「彼らの求める知はその星の神羅万象であり文明には興味は無いのです文明に関しては極限まで極めた自負がありますから」

「憎しみの泉が存在する理由は理解出来ましたがダブネスはなぜ先史代の遺物を使う事が出来るのですか」

「それは父と私は先史代の存在だからです」

親子であったダブネスとアークに母と二人の姉の四人で肉体から解放された魂だけの存在になり仲間と共に星々の旅に出た

長旅に疲れた四人は母星に似たメネシスを気に入り残る事にした

彼らの母星は魂だけの存在になり家も畑も不要となった彼らが旅に出る頃には文明の痕跡は無くなり緑豊かな星になっていたから

魂だけの存在と言え肉体に縛られないだけで心はあり疲れは溜まる

旅に疲れた仲間が立ち寄った星に残る事は多いので残りの人々は気にすることなく次の旅を始める


メネシスへの永住を決めた事で魔力を使い失った肉体を取り戻し生活を始める

可能な限り人類に接する事無く緑豊かな森で癒されながら肉体を取り戻したことでいつか訪れる死の日まで過ごそうと

だが文明を持った人類は森を切り開き畑を作り街を作る

何回も人類の開拓で安息の地を追われる日々

「ついに父が決断をしてしまったのです」

このままでは緑豊かで愛した星が人類の手で滅茶苦茶になる

であれば人類を滅ぼし何時の日までも緑豊かな星にする


「ダブネスが人類を滅ぼし君臨しようとしていた理由」

「先史代の思考パターンは人類と全く違いそのままでは御理解頂けないので今の私は幻体の見聞きしてきた人類の思考パターンに合わせて可能な限り近い思考に変換して御話しておりますが」

三姉妹と母は父の考えに従うことなく父の元を去る事にした

いくら人類に比べ超常的な存在の私達でも一人で人類を滅ぼすことは不可能

そこでダブネスは禁断の手段に手を出す憎しみの泉の水を飲むという

憎しみの泉の水を体内に取り込めば感じる憎しみや怒り恨みが体内で魔力化され膨大な魔力を得る事が出来る

ただ感じた感情は精神を蝕み憎しみや怒り恨み以外の感情を持たない狂暴な存在になる

ダブネスは人類を滅亡させ愛する緑の星にメネシスが戻るのであれば我が身がどうなろうと気にしなかった

それどころか狂暴化で罪悪感無しに人類を滅亡させられることを望んだ可能性すらある


「ガイアに潜んでいたのは体内にある泉の水の力でガイアで生まれる憎しみ等を糧に回復をしていたのですね」

「魔力を使えば取り込んだ水も減るので三神龍との戦いで多くを消費してしまい残っている水が僅かなため回復に多くの時間を必要としていましたね」

ダブネスは仲間が旅立つ時に残していった装置を組合せ様々なモンスター達を産み出し世に放ち混乱をもたらした

そして装置の寿命が近づくと人の体を依り代とした意思を持つが自分の命令に絶対順応なネクロマンサーを産み出し始めた

装置は五人を産み出すと壊れ新たなモンスターは生み出されることが無くなった

五人のネクロマンサー達は泉の水を飲まされダブネスに次ぐ存在となり人類の虐殺に加わる

「私は父の勝手な理論で殺される罪も無き人々に耐えられなくなり戦いを挑みました」

見事に討ち負け死を覚悟したアークだがこれ以上の虐殺を見なくていい安堵も感じた

「最後に残った父の良心か娘を殺すことに躊躇いを感じ私は多重空間に幽閉をされました」

しかしダブネスはアークを死より残酷な状態に置いた

多重空間への幽閉はそこに存在するが存在しない状態

移動し見聞き出来るが世に一切干渉する事が出来ない空間の狭間

アークは虐殺される人々を見て悲鳴を聞き続けるが何も出来ない存在にされた


残虐の無残さに耐えれなくなったのと幽閉された娘を取り戻す為に母と姉達はダブネスを倒すことを決め挑む

「これが三神龍の戦いです」

「なんとも世界を救った戦いが実は夫婦喧嘩と親子喧嘩だったとは」

このあとは史実の通り激戦になりダブネスと五人の側近は想像を絶する魔法戦で空いてしまった空間の穴に落ちガイアへ

「母と姉達も瀕死の重傷を負い最後の魔力を使い空間の穴を塞ぎ無に帰りました」


「では憎しみの泉がある場所での戦いは絶対的に不利な状態なのですね」

「はい戦闘前に泉を壊すか泉の影響の無い場所で戦うしかないです」

泉の多くは神殿跡地にある迷宮の奥に設置されている

破壊は簡単で泉に魔力を送り込めば回路に魔力が逆流し破壊される

「拠点の周りに陣取り動きを封じ出てきたところを撃破しながら守りの薄くなった拠点の泉を見付け破壊をする」

「そうです泉が残る限りは父側は無限に回復し新たな死鬼などの念体型モンスターが生み出され続けます」

「念体型?」

「メネシスの死鬼は依り代の人を必要とせず父の魔力だけで生み出されています」


”ここまでだけど物語の続きは考えていたのラフだから設定が甘い場所や矛盾ヶ所は盛沢山だけどね”

「メネシスの現実化で彩美の記憶が補完に使われたとすれば今の話が組み込まれている可能性は十分にあるね」

”憎しみの泉が加わり五人のネクロマンサーと泉の水を飲み強化設定が追加されたダブネスとなると今考えてる方法では色々たりないよ”

「今度ゆっくり作戦を練り直そうね今晩は明日もあるし寝ないとね」

”うん”

「しかしダブネスが人類を虐殺するに至った理由が環境保護が目的だったとか」

”まだラフも超ラフだったのだけど組み込まれてしまったなら現実とするしかないなあ”

なんか日本語がおかしいぞ状況がこんがりすぎて表現出来ないよ


先にベッドへ寝た七海に引き寄せられ抱き締められる

まだ興奮が残り寝付けなさそうな私を優しく包み込み意識を闇へ誘う

しばらく七海の鼓動を感じていたら興奮も冷め・・・意識が闇に落ちて行く・・・


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