第35話~復讐と失われた腕~

テントの布地を透けた朝日が眩しいく目覚めたよ

七海は先に起きて焚火横でジルとコーヒーをしてるね

”おはよう”

「「おはよう」」

七海が焚火に掛けていたケトルからカップにコーヒーを注いで渡してくれる

二人の横に座ってモーニングコーヒーを楽しむよ


「で三百人に対する作戦はどうするんだい」

”作戦かあ”

「最初に遠距離から一発打ち込んで混乱させてから突撃でどうかな」

”そうだね一発と同時に物理結界を展開して逃亡出来ない様にしちゃおうか”

「ちょっと待って結界ってそんな広範囲に!?」

”直径で1リーグ位までは余裕だよ”

「マジかあ」

「時間はどうする?」

”野営地を離れてるのが居ると逃げられる可能性があるから全員が集まる夕食のタイミングかな”

「定番の寝静まってからとかじゃないのか?」

”ほぼ全員揃ってればいいから待つの面倒だしね”

「セオリーとか関係無しかい」

”なんで朝御飯食べたら野営地の近くまで行って待機だね”

「消滅させちゃうと後で来る掃除屋隊が人数確認出来なくなるんで彩美は結界以外は魔法禁止だよ」

”私は剣で切り込み頭目を抑えるので七海はジルと一緒に残ったのを掃討お願い出来るかな”

「おっけー!」

「もうお任せだよ」


さて塩漬けにした薄切りロースを川に行き塩抜きだね

かなり塩が赤くなってるので残っていた血と一緒に臭みも抜けてるよ

一夜漬けなんで鍋の水を数回替える位で大丈夫かな

フライパンで胡椒を振って香りの強い野草を添えてカリカリになるまで焼くよ

ジルに焚火から弱火になる高さにフライパンをお願いしたよ

焚火にセットされた調理五徳で昨晩作ったスープを温めるよ

バケットを取り出して長さが六十センチくらいなので三等分にすると丁度いい感じの量だね


バケットに棒を差して直火で少し温めて軽い焦げ目を付けるね

バケットを焼くのは七海に任せて仕上げ準備には入るよ

食用油を買ったけど何の油なんだろう

”ジル!これ何の油かわかる?”

ラベルを見せると

「葡萄の種だね」

ワインがあるんだから葡萄は存在するよね

”ありがとう”

グレープシードオイルだねオリーブオイルと同じ感覚で使えるから大丈夫だね

カップにオイルと酢に醤油を入れて混ぜて塩胡椒で味を整えたら簡単ドレッシング

焼けたパンを縦方向に半分にして葉物野菜を敷き詰めてドレッシングを軽く野菜に掛けたらカリカリに焼けたワーウルフの塩漬けロース薄切りを並べて上のパンを置いて完成

スープは七海がカップに取り分けてくれていたのでサンドイッチとスープの朝食タイムだよ

「彩美は凄いな昨晩に続いてワーウルフをこんなに美味しくするなんて」

”塩漬けで臭み抜いたんだよ”

「ジビエ料理のレシピをいっぱい調べてたもんね」

”やっぱし予想通りで野生動物は癖が強いの多そうだから役立ちそうだよ”

朝食を食べ終え少しコーヒータイム

夕暮れまでに二十リーグなので時間の余裕はいっぱいあるしね


「今更だが二人は人を殺めたことはあるのか?」

”無いよ”

「初めて人を殺すことは怖くないのか?」

”こちらの世界で生きて行くって決めた時に覚悟してるから”

「こちら?」

「そのあたりは王都に帰ってからゆっくり話すよ」

「わかったよ」

私が洗い物をして七海とジルが野営の撤収をして出発だね


歩いた時間を考えるとそろそろ残り数リーグだね

そろそろ認識阻害で姿を隠すよ

目的地の半リーグ位手前に小高い山があったので七海とジルには待っていてもらい登ってみる

頂上付近は少し足音に気を付けてだよ

やっぱし頂上に野党の一人が見張りで潜んでるね

殺しちゃうのが簡単だけど交代が来た時に騒ぎになっても面倒なので軽く覗き込んで野営地のサイズは半リーグ四方で現在地からの方向と付近の地形だけ確認して降りるよ

夜もここで見張りとなると取り逃さないためには襲撃の直前に殺さないとで少し作戦考えないとね

二人が待つ場所に戻ると丘の上に見張りが居た事と野営地近くに深森があり充分時間まで隠れられる事を伝える


私の認識阻害が破られることはまず無いけど念には念をいれてね

森の中に移動して魔法遮音結界を張り認識阻害を施す

野営地まで0.2リーグ位で野営地が良く見えるよ

魔法遮音結界を張ったので打合せ開始


本当は認識阻害で見えないまま切り込めれば楽だけど魔力を発動しちゃうと認識阻害の効果が無くなるんだよね

透明になってる訳じゃないからね

見てる者の脳視覚野に魔力で細工をしてる状態だから私以外でも近くで魔力を発動すると逆に視覚野の魔力と共振して見えちゃうってね

ここも御都合主義が無かったよ本当に無敵チート以外はだよ

じゃあ剣で倒せばとなるんだけどスポーツに近いレベルまで体を動かすと自然発散する魔力が増えて同じ事が起きちゃうんで出来ないよ

だから認識阻害をしてる時は歩く程度しか出来ないよ

盗賊団の中に魔法を使える者が居て魔法を使うと見えちゃうんで認識阻害をしても念の為に隠れてる今なんだ

新宿では魔法結界で中の魔力を遮断して魔法結界の上に認識阻害をする事で魔法を使っても外からは見えなかったんだよ

今も魔法結界を張ってるので万が一でも三人の誰かが魔力を放出しても大丈夫なようにしてるの

激しい咳込とかでも魔力が放出されちゃう場合があるからね


”さて問題は山の見張りだね”

「男気で野営地に戻ってくればいいけど逃げる可能性の方が高いよね」

「先に殺ってからじゃ駄目なの」

ジルの疑問は当然だよね

”念通使いだと死までの一瞬で野営地に・・・そうか魔法結界で時間稼ぎでいいね”

「本当だ難しく考え過ぎたね」

「魔法結界で万が一念通が使えても遮断してしまうのか」

”うん!じゃ具体的な流れを決めてしまおうね”

今回は監視者に実力をPRしないといけないので少しドラマティックな仕込みを色々相談して打合せ完了


交代で昼寝したりで時間を潰したよ

空が暗くなってくると狩とかに出ていた団員も続々と帰って来たよ

「今回は殲滅だから明らかな人質とかでない限り女子供もジェノサイドになるけど本当に大丈夫かい」

”覚悟してるよ人の血は善人だろうと悪人だろうと同じ一度血に手を濡らせば相手がどうであれ同じ事”

「何かわからないが冒険者階級を上げて目的を果たす為には凄い覚悟だな」

だって盗賊団は将来の禍根を絶つため一緒に行動してる限り一族根絶やしは私が決めた設定なんだから

残された女子供は盗賊としての生き方しか知らないので他の盗賊団に入り子供は成長して盗賊になり女は盗賊を支える存在になる禍根を絶つ為に


夕飯を調理する煙が上がり始める

規模の大きい盗賊団の多くは女達が全員分を纏めて料理して広場で集まって食べることが多いよ

略奪してきた金品は役割に応じて分配されるけど食料品の分配は種類も分量もバラバラなので公平には難しく不平が出やすいの自然とこの形になるみたいだね

酒は略奪品が残ってる限りは飲み放題で足りなければ分配された金で個人的に買うこともある

まったくさ商魂たくましく盗賊の野営地に来る巡回商人もいるんだよね

武器や酒に日用品は盗賊でも必要なので自分達の野営地に巡回して来る商人は襲わないからね


ではそろそろだね

結界と認識阻害を解除して七海とジルは森の隠れるギリギリの位置まで前進

私は暗闇に紛れ気配を消して丘の下まで移動して丘全体に魔法物理結界を張る

これで気が付かれても念通で伝える事も丘の外に逃げる事は出来ないよ

脚部強化で一気に丘を駆け上る

山頂の盗賊団員が駆け抜ける足音に気が付き振り向いた瞬間

「金乃剣よ!」

抜刀して盗賊団員を唐竹割りにし脚部強化をしたまま野営地に目掛けて全力疾走を続ける

初めて人を殺めたけど色々考えてる暇はないよ

結界を解除して

”七海!”

念通を送る


隠れていた森から出て右腕を斜め上に向け大量の細い光る矢を腕の周りに出す

「光矢」

放たれた輝く矢は野営地の中心付近上空で分散して野営地全体に降り注ぐ

突然の出来事に盗賊の野営地から怒号が響く

「敵襲!」

「見張りはどうした!」

「敵はどこだ!」

脚部強化で金乃剣を片手に半リーグを十五秒位で駆け抜け野営地に切り込む寸前の二人に追いつき追い抜く

”物理結界”

結界で野営地全体を覆い盗賊団員の退路を断った

動揺して剣を抜き切らない出会いがしらの一人目を袈裟斬りで上半身を斜めに切り裂き続く二人目を返す刃で逆袈裟斬りにする


その時に何か視線を感じる鷹目で見てるのがいるね

鷹目は遠くを見るスキルで高い能力者なら数リーグ先まで目の前の様に見る事が出来るよ

視線は三リーグくらい離れた場所にある山の中腹だね

視線を感じた方向に軽くほほ笑んでウインクしーちゃお!


山の中腹には男と女が居た

女は野営地方向に向き片目を閉じ開いてる目は赤く光ってる

男は双眼鏡で野営地を見てる

「はいいい!」

「どうしたララ?」

「あの銀級の彩美って私の鷹目に気が付いてウインクしてきたよ」

双眼鏡では人の影がギリギリ分かる距離

「この乱戦の中で鷹目に気が付いて余裕のウインクとか化け物か!?」


私は脇目を振らずに野営地の中心にある一番豪華な建物を目指し駆け抜けるよ

進路を邪魔する者は武器を持つ者も持たぬ者も関係なく切り裂いて行く

せめて武器持たぬ者は手間は増えるけど眉間を突き脳を破壊して死を意識すら出来ず旅立たせるのが私の慈悲と贖罪

何人切り倒したかわからないけど後五十メートルで目的地

私の後ろでは斬り残した盗賊達を七海とジルが始末している

七海は矢を射かけようとする盗賊には光矢で対抗しながらジルの隙を付き切掛ってくる盗賊を切り倒しフォローしながら私の後ろを追って来てるよ


目的地建物の扉が開き逆光で影しか見えないが長身でスレンダーだけど出るとこは出たプロポーションの良い長髪の女が出て来た

「無暗に切り込むな!敵は少数だ囲め!」

夜空に響く低音で迫力のある女性の声が響く

盗賊達は切り結びに来るのをやめ私達を囲うように陣形を作る

一応集団行動は訓練してるみたいだね

そして逆光に見える女が頭目だね


私は脚を止めず壁になった盗賊達を切り裂き頭目の目の前に辿り着く

頭目は既に剣を抜き構え応戦対応だけど気にせずに斬りこもうとした瞬間

「彩美待って!」

ジルの叫びが響く

頭目の手前で剣を構えた状態で止まる私

「その女がしてるネックレス!娘に私が贈った物なの!」

ジルが叫びながら私の横に並ぶ

「初依頼の報酬で特注して作って送ったルビーのネックレスだから同じ物はないから」

後で七海が睨みを利かしてるので突っ込んで来る盗賊もなく固着状態になったね

「ほう小娘の親か」

剣に自信がかなりあるのか頭目の女は私達の後ろに広がる惨状を見ても落ち着いている

「覚えているのか!」

「貧乏農家かと思い襲ってみたらが以外に金があったのと身分不相応のネックレスをしてる小娘がいたから取り上げようとしたら私の腕に噛みついてきたから斬った記憶だけはあるな」

「てめー!」

ジルが頭目に切掛るが頭目は剣で受け止める

「金級か剥奪されたといえ黒曜石級だった私に挑んで来るとは無謀だな」

今度は頭目が剣を瞬間的に引きジルに切り込む

ジルが剣で受け止め剣と剣が擦れ火花が散る

「彩美・・・頼むから手出し無用だよ」

”わかった娘さんの敵を取って”


「なんか面白いことになったな」

「何が見えてる」

「彩美が斬れば一撃なのにジルが頭目に立ち向かってるよ」

「なんだあ~それ」

「会話が分かれば楽だが地獄耳でもこの距離は無理だ」

「それどころか彩美と七海が睨みを利かして二人の戦いを邪魔されない様にしてる」

「それだと逃げる奴が出ないか」

「レベチ過ぎて結界が見えないから確定は出来ないが物理結界を張って逃亡しようとしてる奴らを野営地から出れなくしてみてるみたいだな」

「ってぇ野営地全体に結界!?」

「本当に化け物だな」


さすが元とはいえ黒曜石級冒険者だね

ジルが全力で踏み込んでも余裕すら見せてるよ

でもジルが組み立ててる流れをみてると狙ってることは理解出来た

本当は止めたいけど今のジルでは相打ちでも倒したい相手なんだよね

冒険者を続けていたのも娘さんの敵に出会えるかもって思いがあったんだね

頭目の一撃を受け止めたジルの剣が弾き飛ぶ

剣を無くしたジルに余裕を持って剣を振り上げ袈裟斬りに仕掛ける頭目

私は金乃剣をジルに投げ水晶乃剣を抜く

金乃剣を受け止めたジルは袈裟斬りに来た頭目に斬り返す


頭目の鉄乃剣は砕け逆袈裟斬りで頭目は切り裂かれる

信じられないと物語る目をして二つに裂ける頭目の体

私はその瞬間にジルの右腕を肩から切り落としたよ

ジルの切り落とされた右腕は金乃剣を握った手から無散して消えて行く

「まさかこんな方法で私の消滅を防いでくれるとは」

そう自分のランク以上の魔剣を使った場合は魔剣が吸い取る魔力に耐えれなく魔力の替わりに肉体が吸収される

血が噴水の様に流れ出る肩を左腕で押さえ苦しそうにジルが呟く

「まさか肉体全体に無散が広がる前に腕を切り落とすとか本当にチートだな」

”ゴメン闇魔法だと止血レベルしか回復出来ない”

ジルの肩の切断面に回復魔法を使う


血は止まったけどかなり出血したジルの顔は青いよ

「私の策をわかってくれるとは信じていたが存在まで残してくれるとは」

”ここで待っていて残党を仕上げるから”

ポーチから包丁を取り出し残った左の手に渡す

残党に対してジルなら包丁でも身を守れる

「わかった・・・よろしく頼む」


「なんか信じられない光景だ」

「何が起きた」

「今説明できる情報量を超えている」


頭目の死を目にした盗賊達は蜘蛛の子を散らすように逃亡を図るが結界に阻まれヤケになり私達に襲い掛かってくる

ここからは完全にジェノサイドだった

私は水晶乃剣を仕舞い金の剣をとりジルの周りから斬り刻み始める

七海は結界の縁に沿いながら逃げようとする残党を追い詰め斬る

数分で二百名近い残っていた盗賊達は肉塊と化し依頼は終了した


「行くよ」

「おい俺たちが対象と接触するの規定違反・・・」

「今回は特例だこんな状況を見せられてはな」


完全殲滅を確認して七海とジルの元に戻る

少し回復したのか青い顔だけど片腕が無くなりバランスが取れないのか振らつく歩みでジルも私達に向かってくる

”ゴメンどんなに高位な回復魔法でも失われた肉体は回復できない”

切断なら繋げることも出来なくはないけど無散してしまっては無理なんだよ

「暗い顔しないで存在が残れただけで私は嬉しいよ娘の墓に敵を取った報告に行けるからさ」

七海が頭目の遺体からネックレスを外しジルの首に掛ける

掛けられたネックレスのトップを握りしめ

「やっと安らかに寝れるかなアヤ」

えっ・・・ジルとの出会いはやっぱし偶然じゃなかったと感じるよ


「おーい!結界を解いてくれ~」

結界の外に三十歳位の男女ペアが居る

結界を解除すると私達に駆け寄る二人

男は赤髪で革鎧を着た何処にでも居そうなナンパ好き色男風な感じ

女は深い青の鎖骨位のロングワンレン髪で上半身はメタルのビキニアーマーで革短パンを履いた冷たいイメージの美人さんだね


「私はララでこっちはシンで感ずいてると思うが監視者だ」

さっきの鷹目の人だね

「まずは掃除屋を呼べ」

ジルが依頼を受けた時に渡された呼鈴を鳴らす

これで依頼の邪魔にならない距離に待機していた掃除屋が全速で向かって来る

”監視者が対象と接触するのは禁止事項では?”

「今回は状況によっては特例をギルマスから認められている」

なるほどね

「評価を最終決定する上で一つだけ聞きたい彩美でなくジルが頭目に立ち向かった理由を」

娘の敵と偶然出会い元黒曜石級に相打ち覚悟で挑んだ話をしたよ

「そうか結果だけを見ると血も涙もない戦いの結果に見えるが・・・」

「何もかにも前例ない状況だがララはどう評価する」

「本当は全員を黒曜石級にしたいが三階級特進は死者のみに許された特権なので彩美と七海は白金級に飛び級でジルは黒曜石級を倒したので黒曜石級に飛び級を考えてる」

「過去誰も成し遂げてない飛び級だが今回は俺も賛同するよ」


ジルは七海の膝枕で眠りに落ちてるけど呼吸が落ち着てるの大丈夫だね

監視者の二人は惨劇の会場をチェックして最終採点をしてるけど聞こえてくるよ

「こんなことする意味あるのか」

「おまえコノ間を持たせる術があるのか」

「・・・ない」

「では任務をする振りでもして掃除屋の到着を待つしかないだろ」


しばらくすると掃除屋隊の馬車が向かって来る馬蹄の音が聞こえてきたよ

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