第3話「旅一行2」
~2日目(昼)~
昨晩はヒノビ作の獣肉スープで体を温め、その後はオークスが持ってきていた毛布を3人で一緒にくるまり、焚火の近くで夜を明かした。その間、ヒノビはずっと焚火の番と見張りをしていたらしい。いくら危険が少ない場所とはいえ、いつも夜が安全であるとは限らないからだそうだ。
ヒノビに起こされたのは、まだ太陽が昇っていない時間帯。東の空すら星がはっきりと見えてるほど夜明けには程遠い。
焚火の処理をして、大きなリュックを背負い、まだ暗い草原を半分以上眠っている脳みそに自声を掛けつつ、トボトボと拙い足取りでヒノビの背中を追った。
やっと太陽が顔を出し初めた頃に、うっそうとした森の入り口に到着していた。
そして、現在一行は、キャンプとして停留していた小高い丘を離れ、木々が生い茂る薄暗い街道を歩いていた。
基本は街道に沿って歩けば『アンブルグ』に着くことができる。それなりに整備されている道ではあるが、サイドに広がる木々から伸びた太い蔦によって足元が不安定でバランスを崩しやすく、幼い体のエリス達にとっては歩きにくさこの上ない。プラスして、彼彼女らを苦しめるのは、背負っている大きなリュックだった。
その大きさ故に、枝に引っかかったり蔦を乗り越える際に重さに負けてこけかけたり、振り返った際に意図せず前を歩いている誰かをリュックで吹っ飛ばしてしまったりと、非常に旅路を邪魔してくるうっとうしい存在だ。だが、このリュックの中身がなければ学校に行くことができないのだから、簡単に捨てることができないのがもどかしい。
森の中では、鳥や虫の声が痛いほどに4人の鼓膜をたたいている。静かなイメージのあった森とはかけ離れて、うるさい以外の言葉が見つからない。
実際の森を見たのはこれが最初で、三人の印象は最悪だった。
「森って、こんなに騒がしいんですの?」
「先生が言っていた森は、小鳥のさえずりや木の葉が風に揺れてカサカサと鳴るような優しい音が支配していると聞いたんですが……」
エリスは耳を軽く押さえながら、ロイスは頭を抱えながらこの状況に悪態をつく。
「確かに、結構やかましいかも……前来たときはもっと明るくて、静かだったんだけど……」
ヒノビも自然体でいつつ、エリスやロイスと同様に煩わしさは感じていたらしい。
「ヒノ先輩、そろそろ休憩いたしません? さすがに喉とお腹と足が限界ですわ」
「エリスの言うとおりだ。ヒノさん、少し休憩にしましょう」
「そうだね。じゃあ、ちょっと狩りに行ってくるから、少しあそこの大きな木の陰で休んでて」
「「「はーい」」」
朝から歩きっぱなしというのは幼体によく堪える。日中散々街中で遊んでいるとはいえ、慣れない道を歩くことの疲労は想像を絶していた。
元々ヒノビが合流するまでのルートはこれ以上に過酷だったことを考えると、かなり彼女が加わってくれたことで助かっていると感じられる。
ヒノビは颯爽と森の奥に消えていった。その姿を見ることなく、一目散に木陰を目指していたエリス。返事をしてはいたが、おそらくほとんど言葉は聞こえていない。
エリスはヒノビ指定の大きな木の根元に到着すると、重邪魔かったリュックを投げ捨て、どっかりと腰を落とす。
「はーーーーー。とっても楽しいのですけど、その倍以上にキッツイですわ」
先についたエリスは珍しく愚痴をこぼしつつ、額に汗を光らせている。
「………………」
「エリス、ロイス大丈夫か?」
エリスに続いて到着した二人。ロイスの方は、あまりにも疲れすぎていたため、オークスが肩を貸して彼女の隣にゆっくりと座らせた。
それぞれの体調を気にしつつ、オークスは自分のリュックから大きな水筒を取り出して、
「ほら、ゆっくり飲んで」
と言って、2人に水を渡した。
水を目の前にしたエリスは電光石火のごとくそれを受け取り、オークスの忠告を聞くことなく、乾ききった喉から干からびそうな体へと流し込む。ロイスに関しては、疲れすぎていて一言も発することなく、ゆっくりと飲んでいた。
「ぷっはぁ! 生き返りましたわ! 水ってこんなにおいしいでしたのね」
「今にも死にそうな表情だったけど、今はすごく生き生きしてる」
「水のおかげですわ」
「持ってきておいて正解だったよ。もういっぱいいる?」
「もらいますわ」
空になったコップを回収し、新たに注いで彼女に渡す。
復活し明るい表情のエリスとは対照的に、暗く絶望的な表情のロイス。彼は日頃、本や先生との会話を好んで行っていたため、外を歩くことにあまり慣れていない。1日目の夜もスープを飲みほした後、一番に眠りについたのは彼だった。
三人の中で一番子供らしく走り回って遊んでいるエリスがこの様子だと、彼がこうなるのも自明の理である。
「オークス……もう一杯お願い」
ぐったりした様子のロイスは、ゆっくりと飲み切ったコップをオークスへと渡した。
「はい、どうぞ」
受け取ったコップに並々と水を注いで、再び彼に渡す。
その様子を見てエリスはポツリとつぶやいた。
「もし私が魔法を使えましたら、こんな時風を起こして涼ませたり、水を出して喉を潤わせてあげられますのに」
彼女はもどかしさを顔に滲ませながら、額の汗をぬぐう。
「エリスの言う通りですね……」
水があふれそうなコップを見つめながら、放心したままの表情と無気力な声で彼女のつぶやきに肯定の意思を表す。
「でも、僕はヒノビさんのような強力な魔法は欲しくありません。今の僕たちが助かるような、こういう状況に役立つ魔法を習得したいです」
「私は、あれぐらいの魔法を使えた方がいいと思いますの。だって、いつ危険な目に合うかわからないですもの。護身用に身に着けておいて損はないはずですわ」
「俺は……みんなについていくよ」
昨晩起こったヒノビとオークスのひと悶着を聞かれていたのだろか。二人は初めて魔法をまじかで見たことへの胸の内を語った。エリスは魔法を自己防衛のために、ロイスは魔法で三人のサポートをするために、オークスは二人の進む道を支援する方向に考えていた。
「魔法にはとても興味がありますわ。それは先生から教わる前から思っていたことですの。それに、魔法の恐ろしさは最初に先生に教え込まれたものですし、覚悟はしていましたわ」
「確かにそうですね。おそらく一番恐ろしかった授業だと記憶しています」
休憩してからさほど時間は経っていないが、徐々に表情が明るくなってくるロイスが少し身震いしながらそう言った。
勉強熱心で、貪欲に質問を投げ続ける彼にとって、先生との授業は至福の時間だった。しかし、そんな彼が一度だけ恐れた「初回」の授業。それは先生とかかわりを持ってからしばらくたち、一般的な内容の授業をある程度終え、『魔法』という特別なものへ移行する段階での最初の授業。ある種の最終警告的なニュアンスを持ち、これから習おうとしていることがどれだけ普通とは違うのかを教えられた。
しかし、それを教わっていた時は今よりもずっと子供で、先生からの忠告も子供心で理解していた。
「それでも、実際にヒノ先輩の魔法を見て、やっぱり先生の言っていたことは本当だったと思いましたし、あれを私たちが習得してどうするのかは私たちが決めなければいけないことだって思ったんですの」
理解しているつもりになっていたと、今、本当の意味で理解できている。早目に魔法を披露してもらえたからこそ、学校で習う前にその事柄自体の持つ危険性を体感できたと思っている。
いったいどれだけの人が魔法を習いに来て、それを身に着け、どう使っていくのか。それを制限する方法がない今の状況はやはり―――
「僕も、確かに魔法は恐ろしいと感じましたね。でも同時に、これは大きく時代を変えるもので、人類にとって有用になるものだとも感じました。どちらに転ぶかはやはり本人たちが魔法をどう使うのかに託されている気がします」
魔法を習い、それを誰かに自慢する程度だったら、さほど問題は起こらないだろう。しかし、そんな人の方が少ないはずだ。長らく魔法商品としてしか、魔法と触れ合う機会がなかった中で、魔法商品の作り方を知るのではなく、魔法を習うことができるのだから。
邪な心は嘘で固めればバレにくくなる。それを見抜くのは並み大抵の事ではない。
仮にそれを見抜く魔法があったとすれば、先生が入学させようとしている学校にそういう魔法使いがいるのならば、今後の大きな課題となりうる『魔法の用途』を見抜くことができるかもしれない。
「それをある程度まで導くのは、その学校の先生であり、かつ生徒同士であるべきだと思います。どれだけ親や大人から言われたって、やりたくないことや自分の意思に基づいた行動を変えることはできないはずですから」
「友人や家族のため、家柄のため、自身の功績を立てるため、いろんな用途に使えてしまうのが魔法だしな。『特別』を持つってことはそれだけ先を考えておかないと、この世界が瓦解しかねないな」
魔法は今までの普通を壊す概念である。何もない場所から炎や水などを生み出すのだから。それが現代で浸透すれば、おそらくいくつかの産業商業が廃れることにもなる。
しかし新たなものが生まれるのも確かだ。廃れたとしてもそれが完全に消えることはあり得ない。
新たなものを生んでくれる種をまくことはとても良いことだ。それに上手に水を与えて芽を出し、立派な花を咲かせるまで世話をし、花が咲けばまた次の世代のタネをまく。その循環の第一歩目を踏み出そうとしている。
そんな少しばかり真面目に小難しい話をしていると、
「んぅ……ロイス、オークス、難しい話はよして。頭が痛くなりますわ」
頭を抱えながら話を聞いていたエリスが、苦悶の表所を浮かべて二人の間に割って入る。
「エリスごめんなさい。要するに僕は、この3人で魔法を学べることはとてもうれしいことですし、力の制御や修正を担い担わせてくれる大切な存在だとも思っています」
「そんな事当り前ですわ。友達なのですから」
力強いエリスの言葉、それは当たり前の言葉のようで誰かに言われることが難しく、望んでもらえるものではない。
だからこそ、エリスのまっすぐな言葉はとてもよく響く。
「俺もエリスと同意見。この3人の中で魔法に関しての知識はロイスが一番だろ? 魔法に関しての疑問に答えられはしないけど、一緒に考えさせてくれよ」
「オークスはもう少し魔法に興味を持ってくれると僕と張り合えそうなのに」
しかめっ面で不平を呈する彼を、笑いながら「ロイスには敵わないよ」と冗談めかしく流した。
「ロイス、たまにはエリスみたいに気を抜けよ」
「……面倒を増やしますねオークス」
やれやれと言った感じの表情を浮かべながらオークスの肩をポンポンと軽くたたいた。
「今、いいこと言われてないわよね。ね!!」
「「あはは」」
ロイスは肩の力が入りすぎている部分が多かった。きっとオークスとは違った視点で3人の今後を心配していたのかもしれない。
今の彼の表情はとても穏やかで霧が晴れたような明るい表情になっている。きっと彼の中で何か解決したのか、しっくり来たのかわからないが、何かしら整ったようなので安心した。
エリスには悪いが、彼女ほど一直線に進むのは難しい。が、悩んだ時困った時ほど頼りになる存在はいないかもしれない。今後どれだけ彼女に助けられるだろか。その分を彼女に返すことができるだろうか。
一抹の不安はあるが、この3人だからこそできることがある気がする。否、きっとあるだろう。
今はまず、『アンブルグ』の到着を目指して支え合っていこう。
そんな話をしながら木陰で休み、ヒノビの到着を待っている。
お互いの話をしているときは全く気にならなかった虫の声も、いざくつろごうとすると非常に癪に障る。しかし、この大木の周りは程よく光がさしているためか暖かく、そよ風も吹いてくれて、影の多かった森の中とは大違いだった。
ヒノビと分かれてから1時間は経っただろうか、昨夜の狩猟風景を見ていたオークスは少し遅いなと感じていた。
ウサギ以上のスピードで動け、獲物を見逃さない集中力と的確に急所を突く彼女の技量をもってすれば30~40分ほどで仕留められると考えていたからだ。
彼女もミスすることがあるのかと逆に感心していると、遠くから微かにだが声が聞こえた
何を言っているのか完全には聞き取れないが、その声はヒノビだと確信はできていた。
「エリス、ヒノさんはなんて言ってるか聞こえる?」
「うーん……何かをして!!みたいなことを言っている気はするんですけれど、具体的な部分だけ雑音が邪魔でわからないですわ」
耳を傾けて聞いていると、次第に体を揺らすほどの振動が地面から伝わってくる。地震ではないようだが、体が縦に揺られる感覚がある。
「この揺れは……そうか!! 足音だ!!」
徐々に強くなっていく揺れによって倒れないように、大木につかまりながら立ち上がる。
ロイスの珍しく焦った表情と言葉で、何かがこちらに向かって猛スピードで近づいていることがはっきりと伝わる。それが、どんなものかはわからないが、これだけ体が揺らされるほどなのだから、きっと相当な巨体が近づいてきている。
「あっちから近づいてきてるな。しかも一直線に」
木につかまったまま辺りを見回すオークス。彼が見つけたのは、土埃とともに木々がなぎ倒されながら動く黒い影だった。
「近づいているのはわかりましたわ。でもこの揺れじゃどこかに移動しようにも私たちの体じゃ堪えられませんわ」
強くなる揺れによってバランスを保つことが困難になってきていた。支えがある状態でした移動できない。それほど揺れが強まっている。
「木に登ろう」
そう判断したのはロイスだった。
「僕たちが歩いていた森の木々は細めだったけど、この木はその3倍以上に太いから突進されても耐えられるかもしれない」
半日歩いた薄暗い森の中の木は確かに細かった。太陽光をうまく取り込めていないからなのか低木で、木よりも蔦の方が森を占拠しているようだった
蔦に関しては、歩いて見てきた木のほとんどの幹に絡まっていたことを考えると、あながち間違っていないのかもしれない。
「大木の後ろに隠れるのじゃダメなんですの?」
「それだと危険なことが二つあるけど、今それを説明してる時間はないと思うよエリス」
「ご、ごめんなさい、です」
エリスは謝った後木の上に視線を送った。一瞬とても不安そうな表情を浮かべていたが、自分の頬を叩いてその表情をいつもの真面目なものへと変化させた。
この大木には蔦が絡まっていない。しかも、枝もはるか上にしか生えていない。しかし、樹皮がいくつか反ったようにはがれていたり、掴めそうな凸凹があったりしているため、登れそうではある。
「僕が最初に登ってみますから、後についてきてください」
「わかった」
強い意志のこもった眼差しで、先陣を切って最初の一足を凸凹にかけた。状態を何度か上下させ、足場の安定感を計る。うまく足をはめることができればかなり安定して登れそうだった。
その後掴めそうな樹皮や凸凹を見つけつつゆっくりだが確実に登っていく。
「次はエリスが登って」
相変わらず揺れは激しさを増していくばかりだった。その衝撃を感じていると、だんだんと迫ってきているのは言わずもがな理解できる。その焦燥感を感じつつも、今はロイスの案を実行するときだ。
ロイスが少し登ったのを見届けると、エリスの方に視線をもどす。するとそこには、怯えた表情で立ちすくんでいる彼女がいた。
「わ、わたくし、高いところが苦手でして……」
言い出せなかったことの申し訳なさと高い所へ行けない不甲斐なさで、今にも泣きだしそうな顔をしていた。そして、震える手を必死に押さえつけるかのように強く握りこぶしを作っている。
彼女がどれだけ高所を怖がっているのかは一目瞭然。それを無理やり「登れ」など言えるはずもない。早急に代替案を考える。
「わかった。なら俺と一緒に―――」
「エリス!! オークス!!」
代替案をエリスに伝える直前、後ろから聞きなじみのある声がかかった。
後ろを振り向くと、猛ダッシュでこちらに迫ってくるヒノビの姿があった。その数百メートル後ろには、巨大な4足歩行の生き物が迫っているのが視える。
ヒノビの全速力でこれだけしか離せていない、もしくは人並外れた嗅覚や獲物を捕らえるための感覚があるのか、そこまで離れて見失っていないのが不思議だった。まさに怪物と称せる動物だ。
ヒノビが息を切らせながらオークスたちの元に到着すると、
「ロイスはどこ?」
辺りを二、三回見まわしながら尋ねた。
「この木の上に登ってる」
自分たちの後ろにある大木を指さしてオークスが答える。
「それは言い案かもしれない。登ろう!!」
まさにナイスアイデアと言わんばかりに納得のいった表情をして、二人の腕を引っ張った。
「エリスがこの状態なので、ヒノさんが背負ってくれ。俺はひとりで登るから」
「うん。任せて」
二つ返事で了承したヒノビは、震え怯えるエリスを背負うと、安心させるようにエリスに声をかけた。
「私に思いっきり掴まっててね。すぐ登り切ってあげるから」
エリスは高い場所が嫌いないのだ。その声掛けだと登ることに恐怖を感じていると勘違いしているのではないだろうか。
そんな不安もありつつ、今はその点を指摘する場面でないことはわかっている。
少女一人を背負ったヒノビは携帯していた短刀を、木の幹めがけて思いっきり投げた。
その威力がいかに強いかは、その短刀が木の繊維を無視して半分以上埋まっている所を見ると言葉も出ない。むしろ、それほどの威力で振り下ろせるのにもかかわらず、あの怪物から全力で逃げてくるほど太刀打ちできなかったのかと、怪物の恐ろしさに身を震わせる。
刺さった短刀を軽快なステップで登っていく。
二本のみ刺した短刀を足場にし、ロイスを抜いて先に一番下の方にある枝に到着した。
「さて、急いで俺も登らなきゃ」
それを見届けてからオークスもロイスが登ったルートを眺めてつつ、足をかける。
後方をちらりと確認すると、まだ少し距離はあるものの、怪物の容姿が鮮明になりつつ迫っている。だが、しっかりとその姿を見ている余裕はない。
足をかけて、掴めそうな場所をしっかりつかみ、また足をかける。その繰り返しで徐々に登っていく。
迫る地響きに緊迫感を体に与えられつつも、足場と手をかける場所に集中してゴールを目指す。
不安要素が頭の中をかき乱すが、それは今考える時じゃない。蓋に蓋をするように、木を登るという目的以外の思考と邪魔になる感覚を押し殺す。
齢10にも満たない少年にとって、この体験は異常だった。本来なら『ダイネ』の街では青年になるまで街の外への外出を準禁止にされている。そのため、これだけ若くして外の世界を知ることになるのは異例だった。
どんなに表面を取り繕うにも、心や精神はいまだに子供。それはどんなに隠そうとしても、大人や年上からすれば一目で見抜かれる。それが今だった。
昨晩のヒノビの件やこの旅路として計画していたルートなども、稚拙な考えだったと感じる。大人の真似事をしていても、子供ということは変わりないのだからもっと周りに頼るべきだったのだろうか。
それを考えたところで、自分が大人になれるのなら今すぐにでもそうする。しかし、様々な経験が乏しいまま大人になったところで、周りが認めてくれないだろう。
今はまだ、ヒノビに頼っていくべきだ。どんなに怪しくても、企みがあったとしても、頼れる大人は彼女だけだ。子供っぽい考えかもしれないが……
「よく頑張ったね。オークス君もすごいよ」
「ありがとう」
どうにか怪物が来るまでに登り切った時にかけられたその言葉は、子供心にはよく響く。
褒められた。
それがどれだけうれしいものか。
「でも安心はできないからね。あいつの動向を観察しよう」
褒める時は優しい表情だった。その表情も一瞬だけで、すぐに怪物の方に目を向ける。
「オークス、あんなの本にも出てきたことないよね」
「うわっ、あんなのが迫ってきてたのか」
眼前に迫ってくる土埃の発生源を見ると、そこには森の中に一つ異質なほどに黒い体の4足歩行の怪物がいた。それはトカゲに近い見た目だが、体毛が生えていることで不気味さが増している。
瞳は蛇のように瞳孔が縦に鋭く、一点を見つめているようだった。また、時折口から出てくる舌も蛇やトカゲらしさを感じる。が、知っているそれらとは明らかに違う禍々しさが漂っている。
体長はおそらく20メートル近くあるだろうか、木々をなぎ倒しながらこちらに迫ってこれるほど発達した手足を持っている。また、体の後ろについている巨大な尻尾を左右に振って走ってきているため、体によってなぎ倒される木よりも尻尾によってへし折られる木の方が圧倒的に多いようだった。
「わわわ、わたくしは見ませんわよっ」
「エリスはそのまま目をつむってて」
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