第16話 魔猪の塔3F・スキル
「では、こちらのカードをご覧下さい」
手の平サイズの黒いカードを取り出し、裏面を画面に映す。
「これはスキルカードと言って、俺が今持ってるスキルを確認する事が出来るんですよ」
“winner:補足。スキルを獲得する事をレベルアップと言い、それにはモンスターを倒しマナを吸収しなければならない。パーティでモンスターを倒すとマナは分配される為、ソロで潜る方がレベルアップ効率が良い”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“スイッチ君顔色良くなったね”
“こんなん唯のイケメンやんけ……氏ね”
“魔眼は確定だろうけど、他にスキル持ってるんだろうか”
「先輩ありがとうございます。俺も、これ貰った時はお腹減ってて全然見る余裕無かったんで、一緒に見ましょうね」
“草”
“草”
“ああ…w”
“お前自分の能力把握せずに挑んでたのかよww”
笑いながら、カードを表にする。
『覚醒』『魔眼』『適応力』
「えーっと、スキルは獲得順に追加されるから……俺『覚醒』なんて持ってたんだ」
“覚醒?”
“覚醒って何ぞ?”
“winner:『覚醒』。平たく言えば、全てのステータスを底上げする。先天的に獲得している者もいるが、もしくは命を落とす程の死線を何度も潜り抜けた者が獲得する事が多い”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“え、強くね?”
“それ最初から持ってたんか。ならあの動きも納得だわ”
“尚底上げされるステは個人によって違う模様”
“スイッチの動きからすると、かなり底上げされてんじゃね?”
“やっぱ魔眼あるのか”
“どんな効果?”
“DAGにいってエクストラ登録しなきゃ……”
「先輩ありがとうございます。魔眼はエクストラ登録しなきゃいけないのメンドイなあ」
スキルは基本的に、その人の生い立ちや経験を元に、マナがそれを学習するかの様に発現する。故に個人差はあれど、全員が『覚醒』や『適応力』といったスキルを獲得する可能性もあるのだ。身体能力を向上させるスキルをコモンスキル、自分の中に巡るマナを体外に放出するスキルをマジックスキルと呼ぶ。
エクストラスキルというのは、その人以外には持てないスキルの事を指す。『魔眼』スキルはとりわけ特殊なエクストラスキルで、『同じ魔眼でも個人でその内容が違う』スキルなのだ。人の寿命が見える魔眼、目が合った対象を石化させる魔眼、面白い物では食材の鮮度が分かる魔眼など、本当に千差万別なのだ。
そういったスキルは、DAGで発現報告した後、聞き取り調査、効果の確認、類似したスキル有無etc…多くの精査を経て、やっとエクストラスキルだと認可される、とても面d……ゲフンゲフン、ユニークなスキルと言える。
“で、効果は?”
“ダンジョンを見て綺麗と言ったりしてたけど”
“効果はよ”
“マッハショットの攻撃避けてたって事は未来視とか?”
“未来視!?”
“数秒でも未来視える魔眼なら国宝クラスやんけ”
「うーん……効果なあ。まだ俺も慣れてないから分からないけど、推測で良いですか?」
“はよ言えや”
“勿体ぶるな”
“未来視っぽいけどなあ…”
“何が視えるんや?”
「コレ、マナとか相手の気を視る事が出来るんだと思います」
“は?”
“は?”
“winner:は?”
“先輩も混乱しとるw”
“マナはさっきから視えてたやろがい!”
“気を視るってマ?”
“武術の達人とかが持ってそうな…”
「ダンジョンとかモンスターってマナで出来てるんですけど、今俺にはそれが青い光として視えるんですよね。ダンジョンだけじゃなくて、俺の体に流れているマナとかも視えてます。
気を視るっていうのは、相手が何をしたいのか、どう動くかが黄色い光で視える事……だと思います。この辺は要検証ですね」
“綺麗って言ってたのは、ダンジョンが青く光ってたからか!”
“マッハショットの攻撃避けてたのはそういう事ね”
“ほーん”
“敵の攻撃が黄色い光で視えるってほぼ未来視じゃね?”
“まあ便利やね”
「便利ですねー。最後は『適応力』か……コレも良いですね。葉っぱとか食べてもお腹下さなくなります」
“最初に出てくる感想がそれは草生える”
“生やすな食われるぞ”
“いやん、スイッチ君に食べられちゃう……//”
“winner:あ?”
“先輩ステイ!”
“ジョークジョークww”
『適応力』は環境に合わせて、自分の体を文字通り適応させるスキル。これで寒空の下で野宿しても風邪を引かなくなったりするから、俺にピッタリのスキルだ。
「なるほどな。このスキルの構成は悪くないな」
“本人の体質とかもあるらしいしな”
“マナが宿主が簡単に死なない様に肉体を変化させるって説も出るくらいだし、マナも意思とか持ってそうよな”
“どうなんスイッチ?マナとか視えるんやろ?”
「あー確かに。今マナは俺の身体を護るみたいに膜を張ってる感覚がありますね。俺の意思で動かす事も出来るっぽいです」
“ん?”
“は?”
“マナを動かす?”
“ファイアボールとか出せるの!?”
“ソーサラーが喉から手が欲しくなる程の魔眼なのでは……?”
「ああ、ソーサラーの人は自分のマナを使って攻撃するんですもんね。もっと正確にマナを操る事が出来たら確かに便利なのか」
マナは一度吸収すると、マナ臓というマナを身体で生成する新しい器官が生まれる。この器官は、モンスターを倒してマナをどんどん吸収する事で、マナ生成の上限を上げることが出来るのだとか。だからソーサラーの人は普通の人より多くモンスターを倒すのが重要だとか。
これは、日本トップダンジョンアタッカーの伽藍堂という名字の男性が発見し、世界でも注目を浴びているらしい。
「でも動かせるって言ってもなー。マジックスキルみたいに撃ち出すのは普通に無理だと思います。気とマナが融合してる…?みたいな感じで、意思があるとか言われても全然分からない」
“まあ、流石に分からんか”
“エクストラスキルだしな。他に何か無いか詳しく調べないと”
“次の階層で試運転してみるか”
“この調子で4階層いける?”
“もう誰も魔猪の塔ソロに何も突っ込まないのは草なんだ”
“コイツはもう……止まらねえからよ…!”
“だからよ……止まるんじゃねえぞ…!”
「ははは、そうですね。休憩も終わりにして、そろそろ逝きますか」
“っしゃああああああああああ”
“こっからが本番よ”
“楽しみにしてるぞスイッチ”
“空腹デバフが無くなったなら、唯のイケメン新人サイコパスダンジョンアタッカーしか残らないな”
“まだ属性ゴリゴリに盛られてて草”
“いよいよコアモンスターか”
「あっと。その前に」
次の階層へ続く扉の前で振り返り、中央に向けて手を合わせる。
「マッハショットのお肉、ご馳走様でした。おいしかったです」
“えらい”
“命に感謝出来て偉いね”
“良い子やん…”
“命を救われたからね”
“何でこんな良い子が捨てられたんや?”
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