第17話 魔猪の塔4F
「凄い、全然身体疲れない。寧ろ力が漲ってくる」
階段を登りながら、自分がどれだけ疲れていたか自覚する。
“食事って偉大やね”
“ちゃんと食おうな”
“食えてたら餓死寸前にはなってないんだよなぁ…”
「そういえば、同接200人くらいいってましたね。先輩、スレ民の皆さんありがとうございます」
“winner:礼には及ばない。私の後輩が有名となるのは既定路線だから、その手伝いをしたまでさ”
“うーんこれは先輩の鑑”
“後輩自慢したいだけでは…?”
“初見だよー!ダンジョンアタッカーの新人なら俺の後輩でもあるじゃん。よろしくー”
“winner:あ?”
“先輩ステイ!!”
“どうどう”
“初見の人の意見が正しいから落ち着いてくれww”
“先輩マウントで戦争は草生えますよ”
「さて、いよいよコアモンスターか」
コアモンスター。今まで倒したモンスターと違い、人で言う心臓の様な核となる部分を持つモンスターの総称。
“winner:4階層に出てくるコアモンスターは、オークソーディアンとオークソーサラー。前衛でソーサラーを守りながら長大な剣を振り回して突撃してくるソーディアンと、遠距離からマジックスキルを放ってくるソーサラーのコンビは、パーティの基本戦術であるが故に非常に厄介”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩!”
“コアモンスターはスキルを使ってくるから気を付けろよ”
“ちゃんとコアを壊せよ”
“コア破壊は実際大事。油断するなよ”
“新人の死亡率、コアモンスターのコアを破壊せずに回復されて殺される件が1番多いからなあ”
そうなのだ。コアモンスターが他のモンスターを一線を画すのは、スキルとコアの有無にある。
コアモンスターにとって、コアは人間における心臓とマナ臓の両方の器官を兼ね備えている。その為、モンスターが通常使用しないスキルなんかもバンバン使ってくるのだ(イジェクションボアの牙飛ばしを『生態』と言ったのはこれが理由)。
更に厄介なのは、コアモンスターは、体内の何処かにあるコアを取り出すか破壊しなければ、例え首を刎ねられても数分後には回復してしまう点にある。しかもコアの位置は個体毎に違う為、コアモンスターに出会った場合はひたすら全身を叩きまくってコアを破壊する。これが基本的な戦術となる。
コメントを見ながらそんな事を考えていたら、いつの間にか扉が近付いてきていた。
「情報ありがとうございます先輩。強いのは大歓迎ですよ」
“お、おう……”
“コイツ本当に新人か?”
“何でこんな自信過剰なのか。これが分からない”
“良いからはよ行けや”
“ボコされて身の程を知ってくれ”
「オッケー。んじゃ、逝きますか」
とはいえ、こちらはこのダンジョンで2回も不意打ちをくらってるし……よし。
軽くダッシュして一気に扉に近付く。そして……。
「オラァ!!」
思い切り扉を蹴り、吹き飛ばした。
“ファッ!?”
“はああああああああ?!”
“何してんの?!何してんの!?”
“wwwww”
“いけースイッチーー!!www”
“ここにきて脳筋プレイかよwww”
“憂さ晴らしの時間だああああああああ!!!”
「フゴッ!?」
「死ねェッ!!」
ジャンプして吹き飛ばした扉を空中で掴み、扉の近くにいた、2m程の体躯に、それと同じくらい大きな剣を構えた二足歩行の肥えた肉体の豚顔のモンスター……オークソーディアンに叩きつける。
肉と骨が一気に砕ける音がして、オークソーディアンが一瞬にして床の染みとなった。
“つっっっっっよ”
“え、スイッチこんな強いんか!?”
“winner:カッコいいじゃないか”
“先輩!?”
“先輩嬉しそう”
“おいおい瞬殺だよ”
“マジで空腹デバフってデカかったんだな……”
オークソーディアンのコア破壊を確認する暇も無く、黄色い光と青い光が俺に伸びるのを視る。光を追うと、壁際にいたオークソーサラーが俺に杖を向けていた。
「ブォアッ!!」
杖から青い光が迸り、炎がとぐろを巻いて俺に飛んできた。
「フレアサイクロンか!」
脚で扉を起こし、炎の竜巻を受け止める盾にする。
「届くかよ!」
再び扉を、オークソーサラーに向けて蹴り飛ばす。
「フォガッ?!」
オークソーサラーが驚きの声を上げる。フレアサイクロンを受け熱々の鉄板となった扉は、呆然と立ち尽くしているオークソーサラーに直撃し、肉を焼く音と匂いをフィールドに充満させる。
「ブオオオオオオッッ!!?」
「あっ、良い匂い……」
“何やこの化け物……”
“スイッチいきいきしてるなぁ……ww”
“コアモンスターってこんな簡単に倒せるんか…?”
“な訳ねーだろ。この新人がおかしいだけだぞ”
“やべえ。俺二つ星だけど自信無くなってきたわ…”
“後方古参面dちゃん民ワイ、スイッチが楽しそうに嬉しい”
“初配信で古参勢湧いてて草”
「今から君はチャーシューだ」
壁と灼熱の鉄扉に挟まれたオークソーサラーに笑いかけ、脚で全力で鉄扉を押し込む。
「ブギャアアアアアッッ!!」
地獄のプレス機から逃げる様に体を動かそうとするオークソーサラー。しかし、俺の脚力を押し返すだけの力を振るう事は出来ず……
バジュッ!!
「あ、コア壊れたな」
“ちゃ、チャーシューウウウウウウウウ!!?ww”
“命名「チャーシュー」享年、12秒”
“嘘だろ?コアモンスターを秒殺……?!”
“これ、超大型ルーキーだろ……”
“どっかのパーティがこれ見たら即勧誘されるだろこんなん……”
“即戦力どころか第一線で活躍出来るわwww”
全身が焼豚になる前にコアが壊れたようで、体がマナとなって俺に吸収された。オークソーディアンを見ると、同じくマナとなって俺に吸収されていった。
「やりましたよー。どうでした?」
久しぶりに、疲れてない身体を動かせたから楽しかったなー。湧き上がる喜びを抑えられず、カメラにピースしながら勝利報告する。
“え、あの……”
“初見。コアモンスターって、普通のモンスターより手強いんだよな?何でモンスター相手に苦戦してたんだ?”
“これがスイッチの全力……”
“うーんこの化け物”
“winner:君は素晴らしい素質を持っているね。予想以上だよ”
「あ、先輩ありがとうございます。ダンジョンアタッカーの先輩にそう言ってもらえて嬉しいです」
“winner:こちらこそ、教え甲斐のある後輩が出来て嬉しいよ”
“あの、2人だけの世界に入らんでもろて…w”
“先輩ってもしかして凄いんか?”
“スイッチやるやん!スレ民として誇らしいで!!”
“スレ民を誇るなwww”
“草”
“最初からスイッチを知ってるスレ民も後方腕組みしてるでー”
「あっ、ありがとうございます!もしかして、初めから俺のスレにいてくれた人ですか?…………嬉しいなあ」
“照れ顔スイッチかわヨ”
“可愛いかよ……”
“でもコイツ、さっきモンスターを一方的に虐殺してたんだよな……w”
“スキル込みとは言え、やる事が新人のそれじゃない”
“イケメンの照れ顔からしか得られない栄養がある”
“分かる”
“分かるマーン!”
“【悲報】先輩、好感度でスレ民に負ける”
“おいばかやめろ”
“煽るな煽るなww”
“オイオイオイ、死んだわスレ民”
“勝手に戦え”
赤くなった頬を誤魔化す様に、体に付いた埃を払う。ついでに、素材ガチャの結果を見に行こう。
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