第15話 伽藍堂叶の教育

〜〜以下、スイッチのダンジョンアタックを観る伽藍堂叶の反応集ダイジェスト〜〜


①イジェクションボアが牙を再生している時にスイッチに「先輩」と言われた時

「マナについてか。確かに勉強してないと知らない者も多いだろう、任せてくれ。んっ、中々良い動きをするじゃないか。そうだ、イジェクションボアは正面を避ける様に動き続けるのがセオリーだ」カタカタカタ


②スイッチが空腹で動きを止めた時

「あっ、大丈夫か?!腹の音……空腹か?マズい、牙で逃げ道を誘導されるぞ…!良しっ!良いカウンターだ、だが……!!ふぅ、何とか倒せたか。まあ私の後輩なら、空腹程度でイジェクションボアに負ける筈もないか」


③イジェクションボアを倒した時

「やはり、私の後輩の凄さを皆知るべきではないか?先程ゼッターで拡散しておいて良かった。しかしイケメンか……顔が良いだけで群がる害虫もいるのは少しいただけな………………(スイッチが苦しそうに水を飲んでいる姿を凝視している)」


④スイッチが苦しそうに階段を登っている時

「スイッチ君、そんな思いでこのダンジョンに……」

「おい、感動を返せ。私の言葉を無視するな。勝手に死のうとするな。殺すぞ?」


⑤ガトリングシェルと戦っている時

「バカ!何で無理して扉を盾に使うんだ!あ、ガトリングシェルの弾丸を……なっ!?ガトリングシェルのフェイントをかわした!?イジェクションボアと言い、本当に新人なの疑わしいな。いや私を先輩と慕ってくれているスイッチが私に嘘を吐く筈もないか」


⑥ガトリングシェルを倒した時

「よーしよし、スイッチ君は優秀だね。限られた状況下での戦いに対する試行錯誤と実行力が非常に優れている。すぐにでもトップダンジョンアタッカーの仲間入りを果たすんじゃないか?勿論、私の薫陶もあっての評価だが……大丈夫か?動かないが……餓死なんてしてくれるなよ!君は私の後輩だろ!?」


⑦スイッチが念願の食材をドロップし、泣きながら食べている時

「…………」←涙を流している後方腕組先輩面女子高生






「スゥーー……全く、手のかかる後輩だな」


熱と慈愛の籠った息を吐き、画面の向こうのスイッチを愛おしげに見つめる。

彼女の脳内に溢れ出したでは、スイッチとは中学で出会い勉強や部活等の世話を焼いてやり、色んな事を教えてくれた自分の事が忘れられず、高校まで追いかけて来てくれた可愛い可愛い後輩なのだ。


日本が誇る最強の一角と周りに持ち上げられようと、彼女はまだうら若き乙女。クラスメイトが話している少女漫画の様な出会いを「自分には無縁だな」と自虐しつつも、どこか憧れている部分もあった。

配信をしているスイッチは、正に自分が求めていた少女漫画の理想像の様な男だった。暗い過去、それを隠す様な明るさと優しさ、子犬の様に無邪気な好意。そしてルックスまで申し分無いとくれば、完璧と言わざるを得なかった。

そんな彼が、自分を「先輩」と呼び色々教えてくれと頼ってくるのだ。これはもう脈アリだろう、と彼女は既に彼からの告白に対する返事をどう答えるかまで考えていた。


尚、当然の事ではあるが以上は伽藍堂叶の妄想であり、スイッチは自身が教えて貰ったという感覚は無く。「俺はともかく、視聴者が何も分からないままダンジョン配信観てもつまらないよな……あ、先輩のダンジョンアタッカーさんがいる!俺ダンジョンアタックで忙しいんで、代わりに説明オナシャース」程度の軽い感覚だったし、そもそも彼は「いきなり馬鹿なノリで絡んだにも関わらず、それに付き合って説明してくれる良い人」ぐらいにしか認識していない。

コレを知った場合、彼女はハイライトが消えた眼でスイッチを自室に監禁し、自分がいかに先輩として後輩を大事に想っているか既成事実を作りながら耳元で囁き続けるエンドが待っているので、お互いの為にも知らない方が良いのである。


「………そうか。この手があったか」


そして彼女はその溢れ続ける感情のまま、父に電話を掛ける。


「もしもし、パパ?私、決めたよ。まず正体を明かさず、一人の先輩として一人の新人ダンジョンアタッカーを指導する。かr……その人が一流のダンジョンアタッカーとして大成するかどうか、少し時間をくれないか?大衆向けではなく、パーソナルレッスン。それを軸に、私の指導のやり方が正しいかどうか、試してみたいんだ。……ああ、新人の選別は事前に済ませているから大丈夫。うん、うん……ありがとう」


通話を切り、己の勝ちを確信する。

勿論、今の会話の殆どは方便だ。全ては、後輩であるスイッチを、先輩である自分が導いてやる為。そしてあわよくば、彼を自分好みに育て上げ伽藍堂家に婿入りさせる為に。


「スイッチ……いや、戸張とばり照真しょうま君。私が君を、家族の前に出しても恥ずかしくない程の男にしてみせよう」


頬を上気させ、熱っぽくスイッチを見つめる瞳には、恋というには仄暗い、ドロリとした粘り気が込められている事に、彼女は気付かなかった。

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