第3話 魔猪の塔
「えー。腹の音がうるさくてすいません」
カメラ外でお腹を必死に抑えながら謝罪する。
“ほんとになww”
“イッチ中々イケメンやんw”
“でも顔色大丈夫かこれ…?”
“腹の音に対するクレームは初めて見たわw”
「スレでも言ったんだけど、多分1週間くらいは公園の水しか口に入れてないから…ごめんなさい」
“お、おお……”
“あ、うん…こっちこそごめん”
“謝らないでくれ。心が痛い”
「改めて、スレ民の皆さんこんばんはー。スレ主ことイッチ……あれ、イッチことスレ主…?」
“どっちでもいいわw”
“よく見たらムーブの垢もゲストやんけw”
“スレ主+イッチ=スイッチでよくね?”
「あっスイッチ良いですね!じゃあ俺はスイッチです。よろしくお願いします」
“よろしくー”
“性格明るいな。もっと俺ら寄りかと思ってた”
“まあワイ等みたいな性格の奴らは、そもそも安全な所で適当に言うだけやし”
“配信用の機材とかどうしたん?”
「あ、これはですねー。DAGにあるPR用の機材を後見人の人がレンタルしてくれました」
“マ?”
“ええ人やん”
“あー、DAGはいつも人材不足だからなぁ。あまにゃんみたいに強くて可愛い未成年を大々的にプッシュして客寄せパンダにしてるくらいだし”
“『君もダンジョンアタッカーとなって、彼女と共に戦おう!』ね”
「ほえー、今そんなCMが流れてるんですねー」
確かに、DAGのポスターとかが、公園の近くの掲示板に沢山貼り付けてあったなぁ。
俺はそれを見てこうしてダンジョンアタッカーになれたけど、TVやムーブのCMでも同じ様なのが流れてるのか。
「あ、じゃあ俺がレンタルさせてもらえたのって、もしかしてDAGの宣伝として体張ってこいよ、て…コト……?」
“草”
“良いように使われてて草なんだ”
“てかスイッチは話聞く限り両親いなくて孤児なんよな?親族でも後見人になってくれたんか?”
「あ、俺親族からも見捨てられたんですよね。今はDAGのギルドマスターさんが条件付きで未成年後見人、っていうのをやってくれる事になりました」
“は?”
“うっわぁ…”
“ギルマスが後見人!?”
“どこからつっこめばいいのか……”
“スイッチまだ10代なのに人生ハードモード過ぎんか?”
“糞やんけ親族”
いかん。コメント欄がお通夜ムードになり始めてる。当初の目的もズレてるし、軌道修正しないと。
「まああまりプライベートな事は置いておきましょう。それよりダンジョンですよダンジョン」
暗い空気を打ち消そうと、努めて明るい声を張る。
うっ、腹筋に力入れたらまた腹の音が…鎮まれ俺の腹の虫……!
“お、おお……お前がそう言うなら”
“すげえなスイッチ。ワイなら捨てられた時点で自◯してるわ”
“winner:初見。新人ダンジョンアタッカーかな?どこに行く予定なの?”
「あ、初めまして。スイッチです、今日はですねー」
おお。この反応、スレ民の人じゃなそうだ。ちょっと嬉しい。
カメラを回し、ダンジョンを映す。
そこには、まるで灯台の様に頂上で炎が揺らめかせている塔が佇んでいた。
「ここ。山櫛県の『
“winner:は?”
“は?”
“オイオイオイ”
“死んだわスイッチ”
「このダンジョンは二つ星ダンジョンですね。俺は今一つ星なので、自分と同じか、一つ多い数の星を持つダンジョンしか入れません」
これは近年、ダンジョン法によって可決された法案だ。
D災が与えた傷は深い。多く人材を失ってしまった国やDAGだけではなく、生きているダンジョンアタッカー達の心にも、『死』の恐怖が植え付けられてしまった。
その結果、三つ星以上の所謂中〜上位と呼んで差し支えないレベルのダンジョンアタッカー達が、二つ星以下のダンジョンに篭る様になってしまったのだ。自身の命が脅かされない程度の場所で、安全且つ楽に稼ぐ為に。
当然、二つ星以下のダンジョンアタッカー達はたまったものではない。自分達の主戦場が、他の強者達に占領されているのだ。その様な場所では、育つものも育たなくなる。
そうした事例が相次いだ事で、政府はダンジョン法を改正。一部を除き、ダンジョンアタッカーが自身の星と同数か一つ上のダンジョンにのみ入れる様に制定される事になった。
「だから一つ星の俺でも、このダンジョンに入れるんですよねー。ちゃんと勉強したんですよ、ダンジョン法」
“違う、そうじゃない”
“マジでダンジョンアタッカーの資格取ったんか?不正じゃないよな?”
“winner:キミは新人ダンジョンアタッカーだから分かってないようだけど、自分の実力を過大評価してる。今すぐ別のダンジョンにした方が良い”
“スイッチお前ソロだろ!?”
“ソロでそのダンジョンだけはやめとけよマジで”
あれ、意外に止めてくれる人多いな。もっと『逝ってヨシ!』くらいのコメントがスレ民から来ると思ってたのに。
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