第4話 魔猪の塔1F
「いやいや。これにはね、深いふか〜〜い理由があるんですよ」
“なんやなんや”
“一つ星新人ダンジョンアタッカーがソロで二つ星ダンジョンに挑む深い理由…?”
“しょーもなさそう”
「色々あるんですけど…一つは、ここが立地の関係で人と殆ど会わずにすむ事。それと…1番近くて、お金かけずに行けるダンジョンがここしか無くて……」
“あー”
“あっ…(察し”
“そうか、魔猪の塔は割と変な位置にあるしなw”
“winner:は?意味わかんない”
“↑怒らないでやってくれ。彼は貧乏なんだ”
そうなのだ。
魔猪の塔は山櫛県の田舎の更に辺鄙な場所に現れたダンジョン。
周りに民家など無く、当然バス等もない。駅なんて以ってのほかだ。
近くの公園に住んで(野宿して)いる俺でも、最寄りのバス停から更に1時間近く歩かなければいけない場所にある、圧倒的不人気ダンジョン。それが魔猪の塔なのだ。
それでも、駅を使って山櫛の有名な一つ星ダンジョンに向かおうものなら、ダンジョンから戻ってDAGに行く前に俺の全財産が尽きてしまう。
「今、俺の全財産は200円……」
“200円まで減ってて草”
“ジュース飲んでんじゃねえよハゲ!w”
“また髪の話してる…”
「懐中電灯は高くて買えなかったので、灯り代わりのオイルライターと水を買って200円、行きのバス代で200円。後は帰りのバス代しか残ってないんです」
“winner:嘘でしょ…?”
“残念。これが現実…!現実です……!!”
“生きて幸せになってくれ……”
「という訳なんで、俺はもう後が無いんですよねー。このレンタルした機材も、ぶっちゃけギルドマスターに借金という形でレンタルして貰ってるので」
“何でコイツこんな明るいんだ?”
“スイッチ…もう、心が…”
“いかん、まだダンジョンアタック始まってないのに…スイッチの声が明るいせいで余計に泣きそうになる”
「だからタイトルに特攻って付けたんですよね。もう失う物は何もないので」
“待てスイッチ?!マジで死ぬ気か?!”
“嘘だろ……ホントに死ぬ為だけにダンジョンアタッカーの資格取ったのか…?”
“winner:何それ”
“スイッチが自分で立てたスレでそう書いてたんだよ。詳しくはーー”
「ああ、今は死ぬ気はないですよ。そういう条件なので」
“は?”
“何言ってだコイツ”
“地獄への片道切符持ちながら言うな”
“ギルマスとの後見人云々って奴か?”
「んじゃスレ民の皆さーん、逝ってきまーす」
“待てスイッチ!行くな!”
“いってきますのニュアンスおかしくなーい?”
“武器は何持ってくの?”
「あ、武器なんて贅沢な物ないです。拳で特攻かましていきますよ」
“はああああああ!?”
“素手で二つ星ダンジョン攻略出来ると思ってんの!?馬鹿か?!“
“この配信、スイッチの生前葬では…?”
ダンジョン。
形や中身は違うものの、人間世界には存在しない生物…モンスターが巣食う場所の総称だ。
ダンジョンは以下の2種に大別される。
・迷宮型…迷路の様な路を、モンスターとの遭遇を想定しながら最奥を目指していく。
・試練型…ダンジョンの攻略に、特定のアイテム、もしくは行動が必要となる。
魔猪の塔は、その中でも分かりやすいタイプの試練型ダンジョンだ。
直径50m程の円形のバトルフィールドに出現する猪型モンスターを全て倒す事で、次の階層への扉が開く。
それを塔の内部全5階層まで繰り返すだけの、非常にシンプルなダンジョンである。
「まあ、シンプルだから簡単かと言われると、全然そんな事ないんですけどね」
“分かってんなら引き返せと言いたいが…”
“もうスイッチには、このダンジョン攻略するしか生きる希望がないのか”
“winner:1階層のモンスターはイジェクションボア。巨大な牙を何本も射出して敵を追い詰めた後、突進して圧死させてくる”
「あ、情報ありがとうございます。もしかして、先輩ダンジョンアタッカーの方ですか?」
そういえば、さっき止められた時も新人アタッカーだから云々とかいう感じで止められたなぁ。思えばアレって、先輩からのありがたい助言だったのかもしれない。
「とか言ってる間にっと……」
目の前に聳える大きな扉。俺の身長の倍くらいはありそうな高さの鉄扉は、無骨ながらどこか禍々しいオーラを放っている感覚になる。
“有識者もよう見とる”
“安心しろ。お前の最期はスレ民が見届けてやる”
“スイッチの覚悟を見て、俺もグロ画像観る覚悟決めたぞ”
“骨は拾ってやるよ。DAGが”
“↑自分じゃなくて草”
「ははは、そうそう。所詮dちゃんで立ち上げたスレ民の集まりですからね。こういうノリで良いんですよ」
コメントを送ってくれるスレ民に、煩いくらいに鳴っていた心臓の鼓動が少し落ち着く。
「さあて、じゃあダンジョンアタックいきます……っ」
扉に手をかけた瞬間、悪寒が電流の様に全身を走る。
咄嗟に端っこに避難、直後…
ズダダンッ!!!
扉を剣みたいな鋭い何か…恐らく、イジェクションボアが発射した牙が突き出し、先程まで俺がいた場所を貫いていた。
「……っぶねええええええ」
“何してあああああああああ”
“始まる前に終わりかけてて草”
“ダンジョンのモンスターは平気で初見殺ししてくる”
こ、これがダンジョン……。
「やべ、ちょっと面白くなってきた」
“お、おう…”
“一つ星ダンジョンアタッカーの姿か……?これが…?”
“もう情緒ぶっ壊れてんだろコイツ”
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