AFTER DAYS② ずっと離れない
「あきちゃん!今日はごめんね…」
「うんん。気にしないで!!」
私はニコッと微笑んで見せる。
待ち合わせをしていたカフェの前、偶然にも流れた北風に、愛結の金髪が揺れる。
申し訳無さなのだろうか。少しだけ愛結はうつむいている。
私としてはこうやって愛結とお出かけをするのは楽しいから好きだ。強いて言えば胡春には内緒で来てしまったから罪悪感はあるけれども…。
愛結の曇ったような表情を最近よく目にする。林間学校が明けてから、そういうことが増えたように感じる。
触れられたくないことがあるのかもしれないから、これと言って接し方を変えることはないけれども、気になるものは気になる。
だからこうして休日にお茶へ誘ったわけだけども…。
「じゃ、入ろっか。愛結!」
「うん…そうだね!」
やっぱりそう。こんな感じに暗くて、遠慮がちになった愛結と接するのは難しい。前みたいに明るくて、常に笑顔でいてくれる方が私の気も楽なのだ。
カフェ、と言っても近所にあるものだが、重たい扉を開けベルの音がなると、賑わった店内が見渡せる。
案内された席に着き、愛結と向き合って座る。
「うーん。何にしよっか!あゆ!」
メニューを開いて、二人で見えるように縦向きに変える。愛結の表情は変わらない。
「うーん…」
もう数ヶ月もこの調子だ。生きる気力を失ったかのようで、体育の授業でも部活でも調子が出ないらしい。
「あゆー!最近元気ないよね?どうかした?」
あくまでも自然に、深い意味なんてないよーと頭のなかで唱えながら、恐る恐る聞いてみる。
「うんん。なんでもないよ!ごめんね心配させちゃって…」
うーん。やっぱり調子が狂う。
しおらしい愛結は落ち着かないし、ずっと気がかりだ。
私は立ち上がって愛結の頬を両手でぎゅっと掴んだ。自分がこんなことをするなんて想像したこともなかった。
ただ突発的に、ちょっと感情的になったのかもしれない。
愛結が変わってしまったのが寂しくて、でもそれを否定することはできなくて、やるせなかっただけ。きっとそうだ。
私が納得できるかどうかに関わらず、そういうものなのだ。
「あっ…ごめん…愛結」
私は謝る。
ぷにぷにと少しだけ弾力とツヤのある愛結のほっぺたは温かくて、私が触れた跡は赤く染まっている。
「ね。それならさ、あきちゃんは、私のことどう思う?」
愛結は一呼吸置いて、そう呟いた。
「えっ、どうしたの?急に」
「気になるなーって。思ったからかな?」
「そっか。わっ、わたしにとって愛結は、一番の、うん、一番の友だちだよ!ちょっと向こう見ずで筋肉バカなところはあるけど」
こういうタイプの質問にはどう答えていいかわからなくなる。普通に恥ずかしいし、相手が求めている模範解答的なのが存在しそうだからだ。
「そっか。一番の友だちかっ」
そのセリフの最後の音が跳ねた気がした。私の聞き間違いかもしれないけど、少しだけ嬉しく感じる。
「ねぇねぇ。亜希ちゃん!こっち向いて!」
変わり身はや!!
「えっ、どういう…?」
私の顔は愛結の両手でロックオンされて、顔が近づいてくる。ふわりと金髪が揺れて、私の目を奪う。
「ちょ、ちょっと!」
私の唇と愛結の唇が重なる。胡春のものとは感触が全く違う。
驚いて、目は開けたままだから、愛結の綺麗な肌がすぐ近くに見えて、うっすらとされた化粧が視界に入る。
愛結は私とカフェにいく程度でお化粧までしてきてくれるのだろうか。
状況を理解し、耐えかねた私はとっさに唇を離す。
「なにするのさ!!私は胡春と付き合ってるのに…。ばかぁ」
少しだけ残念そうな表情をした愛結から目をそらす。
「ごめんって。仲直りの印的な感じだから!許して!亜希ちゃん!」
「ちゃっかりしてんな…」
「いいでしょ!ちゃんと胡春ちゃんには内緒にしとくから!」
「むしろ言いつけるよ!」
「あっ、それは…。私の命が危ういから…」
胡春の私への愛も結構大きい、のかもしれない。少なくとも愛結からみたらそうなのだろう。
まぁ実際はそうだし、周りからそう思われていることもどうでもいい。
「まっ、言わないからずっと友だちでいてね!愛結!」
いまはただ、前のような雰囲気に戻った愛結のことが嬉しくて、ただ一緒にいるだけで胸が踊った。
「うん!ずっと亜希ちゃんのそばから離れないから!」
「いやいや。そこまでは言ってないから!」
愛結は掴んだ私の腕をぶらぶらと揺らした。
幼馴染に「好きにしていいよ」と言われたので好き勝手にしたら好きになっちゃいました。 そうなんです!! @sonandesu
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