第14話 贈り物

 お会計を済ませイタリアンレストランをでる。そしてショッピングモール内を胡春とうろうろしている。


「あっ、胡春。あそこに行ってみようよ!」


 私が指をさしたのはアクセサリーショップだ。

 特に欲しいものがあったわけではないけど、商品を見て回るのもまた一興。きっと胡春と一緒なら楽しいはずだ。


「アクセサリーショップね…。いいわね」


 胡春も賛同してくれたので、アクセサリーショップに向かう。店内はネックレス、ブローチなど、品揃えが豊富でキラキラと輝いている。

 まるで一国のお姫様になったみたいだ。


「きれい…」


 そんな光景に私は思わずそう呟いてしまう。

 アクセサリーとかは普段つけないけど、見ていると圧巻だ。


「ねぇ、亜希。これとかどう?」


 胡春が私に手渡したのは、ブレスレット。藤色の宝石の模造品が、銀色の枠にはめ込まれていて、可愛らしい。

 模造品だから値段もそこまで張らない。


「いいね!つけてみるよ」


 左の手首につけてみる。つけ心地もそこまで悪くない。あまりアクセサリーとかはつけないけど、オシャレをしているという感覚はいい。


「亜希…あの…なんと言うか、似合ってるわ」

「ありがと。いい感じだよ。あっ、じゃあ…」


 私は近くにあった、ブレスレットで桜色のものを手に取る。


「胡春はこれ、どう?」


 それを胡春に手渡すと、つけてみてくれる。


 白くて細い手首に、桜色のブレスレットが調和して、清楚なイメージに上品さを付け加えたような印象だ。


「いい感じね。亜希は、どうかしら?」

「うん、似合ってるよ!まぁ胡春は何をつけても可愛いけどね!」

「だから…そういうことを堂々と言われると恥ずかしいというか…」


 なんでそこまで照れるかな…


 胡春は私より褒められ慣れていると思う。勉強だって、運動だって、容姿だって私よりも優れている。

 それなのに、特に最近は私が褒めると照れるのだ。それも顔を真っ赤にして。


「私、これ買おうかな…。そこまで値段も高くないし。胡春のも貸して」


 色々と見て、最終的に初めにつけてみたブレスレットを買うことにした。

 藤色、ってどこか懐かしい気がしたのだ。


「えっ、どういう…」

「私が買ってあげるよ!日頃の感謝的な感じで…」


 私は胡春から、桜色のブレスレットを取る。


「じゃあ…亜希のは私が買うわ」

「なんでよ…」

「日頃の感謝よ」

「私のほうが、お世話になってますけどね…」

「そんなことはないわ」


 なんて胡春は私が持っていた、藤色のブレスレットを取る。


「というか、同じ値段だから、それぞれが自分で買っても値段は変わらないはずだけど…」


 どちらも、色が違うだけで、種類は一緒だ。だから値段も全く同じなのだ。


「そうじゃないわ。亜希が買ってくれたという事実が嬉しいの」

「確かに、そうかもだけど…」


 私とて、胡春になにかを貰うのは嬉しい。でも私が両方とも買うと言った手前、ここで引くのは、少しだけわだかまりが残るのだ。


 私たちは、別々にレジに並んで、ブレスレットを買う。先に買った私がお店の外の端っこで待っていると、胡春も戻って来る。


「じゃあ、亜希につけてもらおうかしら…」

「えっ」

「いいじゃん。折角だからお互いにつけようよ!」


 誰かにブレスレットをつけた経験なんてない。そういうのは、なんというか、付き合っているカップルが贈り物をするときにするという認識だし、胡春がやりたがる理由もわからない。


 でも…。


「胡春が望むなら、いいけど…」

「やった!」


 何が嬉しいのかはわからない。けど胡春が喜んでいると私も嬉しいような、そんな気がしてくる。

 それに、最近は胡春の表情が豊かだし、感情を共有しているという感覚が幼馴染らしくて好きだ。

 お互いにプレゼントを贈るのは、誕生日とクリスマスくらい。あとはたまに

 ちょっとしたものを贈り合ったり。

 胡春はぬいぐるみとか、文房具とかたくさんのものをくれる。それは今でも部屋に飾ったりして大切に使っている。

 唯一問題があるとすれば、私の部屋が胡春からのプレゼントで溢れかえっているということだけ。


「じゃあ、つけるよ…」


 私は、紙袋から胡春に買った桜色のブレスレットを取り出す。

 胡春は腕を差し出して、真っ白な手首が私の目の前にさらされる。


「胡春って肌が綺麗だよね」

「そう…かしら」


 私が思いつきでそう言うと、胡春は少しだけ頬を染める。

 そういう思わせぶりな態度は本当にやめたほうがいいと思う。現に私だって、何か変な勘違いをしそうで怖いのだ。


 幼馴染だから、という枕詞を使って自分を落ち着かせたことは数え切れないほどだ。


 カチッとつなぎ目を外す。ブレスレットをしたことなんてほとんどないから、少しだけ戸惑った。

 胡春の手首に巻きつける。金属製だから、万一にでも角が肌に刺さらないように細心の注意を払う。

 再びカチッと繋いで、ブレスレットをつけるのはおしまい。


「ありがとね。亜希」


 胡春の白い肌に、桜色のブレスレット。それは控えめに胡春の可愛らしさを際立たせているという感じでものすごくいい。


「どうってことないよ。胡春も私につけてくれるんだよね…」

「うん」


 胡春も私にブレスレットをつけてくれるとのことなので、手を差し出す。胡春はそれをまじまじと見て…。


「亜希の手、すべすべね」


 触ってきた。


 運動をしていない私の手首は細い。それを胡春は親指で優しく撫でてくる。


「ちょっと、くすぐったいから!!」


 私は、腕を引っ込める。

 私はくすぐったがりな方なのかもしれないなと最近思うのだ。胡春にちょっと触られるだけで、他では考えられないくらいピクッとしてしまうのだ。


「そう…ごめんね」


 気を取り直して、胡春はブレスレットを取り出す。


「じゃあ、お願いします…」


 誰かに、ブレスレットをつけてもらうなんて、始めてだと思う。少なくとも記憶の中にはそんなものはない。

 だから少しだけ、緊張している。

 手首の周りをコソコソと。くすぐるという意図が胡春になくても、こそばゆく感じてしまう。

 それに藤色のブレスレットは、胡春の髪に似ているな、なんて思ったりも…。


「亜希の肌を傷つけたくないと思うと、手が震えて…」

「私も、そうなったよ」

「そう…」


 胡春の手は少しだけ震えている。そんなことで動揺するのは珍しいけど、それも私の知らなかった胡春の一面。見ていると嬉しくなってくる。


 なんとか、胡春は私の手首にブレスレットをつけてくれた。


「ありがと。こはる!」


 私は精一杯感謝を伝える。

 なんというか頑張ってつけてくれた胡春がいつもと違って、なんか良かった。


「破壊力強すぎ…」


 何かを言って胡春は目を逸らした。


「えっ、胡春。なんか言った?」

「うんん」


 私は手首についたブレスレットを見て、思わず笑みがこぼれた。

 いままで胡春にたくさんものを貰ったけど、今回はどこか特別な気がしたのだ。

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