第8話 ガールズトークと理想の告白
お風呂から出て、服を着て、夕食をご馳走になった。
愛結と胡春はお風呂の時とは違ってギクシャクしていなかったので安心した。愛結が積極的に話しかけているというのもあるし、そもそも元々仲が悪いわけではないのだ。
最近は胡春が敵意むき出しだけど…。
「ねぇ、女の子同士が夜にすることってなーんだ!」
夕食後、愛結が布団を敷きながら聞いてきた。
「えっ」
「恋バナだよ!」
「そっか…」
私たちは敷いた布団の上に円状になって座る。
私は胡春といるとき、恋バナなんてものはしない。それには特に理由はないけど、そもそも恋愛対象としてみている人なんて思いつかないし、胡春にだってそういう雰囲気はない。
それに胡春が誰かに思いを寄せるのは、私にかまってくれなくなるんじゃないかと考えてしまって不安になる。
でも幼馴染や友達の恋愛事情は気になる。それはただの私の興味からだけど。
「亜希ちゃんとか胡春ちゃんは好きな人とかいるの?」
『えっ』
私と胡春の声が重なる。まさか話の矛先が自分に向くとは考えもつかなかったのだろう。
「私は亜希がいれば大丈夫というかなんというか…」
「ちょっと胡春。変なこと言わないでよ!」
顔を真っ赤にして言う胡春を私は軽く嗜める。嫌だったわけじゃなけどそんなことを言われたら私も恥ずかしくなってしまう。
「やっぱ亜希ちゃんと胡春ちゃんは相思相愛だね」
「愛結も変なこと言わないでよ!」
「あれ…亜希ちゃん照れてる?」
「照れてない!」
胡春のことが好きなのは事実だ。そう言われると照れくさい。そもそも幼馴染という関係性なのだから仕方ない。きっと恋愛感情とかではないはずだ。
「愛結は好きな人とかいないの?」
話をそらすために愛結にも聞いてみる。愛結は運動ができるし、男の子ともたまに話しているので、好きな人がいる可能性はある。
「私も特にないかな…」
「聞いておいていないんだ」
愛結の答えに胡春がすかさずツッコむ。
でも誰もないならこの話は終わりだと内心安堵する。こんな話を続けていたら変なテンションになって眠れなくなってしまう。
「じゃあ、亜希ちゃんは理想の告白シチュエーションとかってある?」
「何でいきなり!?」
「だって恋バナでしょ?そういうことだよ」
「告白されることなんて考えたことないよ…」
「理想だから何でもいいんだよ!」
「私も亜希の理想の告白シチュエーション、気になるわ」
胡春も興味津々そうに私の方を見る。
理想の告白のシチュエーションなんて考えたこともない。そもそも異性と結ばれるなんて全く考えたことはないし、告白だってされたいとも思わない。
「そんなのないよ。好きな人とかいないし…」
「こういうのは適当でいいんだよ。この場限りだから!」
「なんでそんなに言わせたがるの…」
「そりゃーもちろん気になるからでしょ!ねっ、胡春ちゃん!」
愛結と胡春のピリついた空気が和らいだことを察して嬉しくなる。共謀して私の理想の告白について聞いてくるのは少し困るけど。
「そうね。亜希は可愛いからモテるだろうし」
「それ胡春が言うの!?私なんかよりモテるくせに」
胡春は容姿が整ってるし、青紫色の髪も綺麗だ。愛結だって運動が出来てふわっとした雰囲気を纏っていてモテる。
「私からしたら亜希が一番だけど」
「その言い方はやめてよ…」
私は照れるからと付け足すと胡春は嬉しそうに微笑んだ。
「はいはい。二人とも私を置いてイチャイチャしない!」
「してない(わ)」
「やっぱり仲いいね。ほんとに」
愛結は少し寂しそうにふふふと笑った。
恋バナ(?)をした後は、みんなでお菓子を食べて歯を磨いた。お菓子をバクバクと頬張る愛結に胡春は「太るわよ」と言っていたが、愛結は「今日は特別だからいいの」と言って食べ続けていた。
愛結がお菓子を食べているのは今日に限った話ではない。学校でも休み時間とかに食べているし、そんなに食べていてあのスタイルの良さを維持出来ているのははっきり言って羨ましい。
愛結は運動部で体を動かしているからだろうか。
「じゃ、おやすみ!」
時計の長針も短針もちょうど真上を指していて、寝るにはちょうどいい時間だ。テスト期間は胡春に勝ちたいと思って遅くまで勉強をしてしまうけど、お肌に綺麗であってほしいので何もないときはできるだけ早く寝るようにしている。
それに眠気が私を襲ってきているのだ。お泊り会は非日常だし、テストの疲れが取れてないのかな。
「亜希ちゃんはもう寝ちゃうの?」
「うん。昨日テスト終わったばっかだから、疲れがまだ取れなくてね…」
「そっか。じゃあどういう並びで寝るか決めないとね!」
「えっ」
寝るときの並び決め、愛結のお部屋にはドア側から2枚お布団が、そして愛結のベッドがある。
「まぁ、私のベッドは使わずに3人でお布団で寝るのもいいよね」
愛結はそう提案した。
「いやいや、狭いでしょ!」
流石に2人で寝るところに3人はきつい。お風呂のときもそうだけど、愛結はくっつきたいのかな…。
「胡春ちゃんはどう?」
「私はとっちでもいいわ」
「じゃあ決まりね!」
私以外賛成ということは拒否権はないようで…。みんなでくっついて寝ることになった。
並びは私が真ん中で右側に胡春、左側に愛結になった。
横になると2人ともいい匂いで少しドキドキする。
それに寝巻きだから布が薄くて、体温が直接に伝わってくる。
「なんでそんなにくっつくの?胡春も愛結も」
「せっかくのお泊り会だからね!」
「どういうこと…」
「気にしなくていいよ!」
右を見ると胡春が、左を見ると愛結が私を見ている。まるで両手に花みたいな状態だ。胡春が可愛いのはもちろん、愛結だったスタイルもいいし容姿も整っている。
なんなんだこの状況…。
左側からはスースーと寝息が聞こえる。愛結のものだ。
疲れてたんだね…。
愛結は普段から元気いっぱいな子だ。私や胡春よりも。
それは運動部に入っているからというだけじゃなくて、元々の性格も明るいのだろう。まだ付き合いは胡春に比べたら浅いけど、それくらいは分かる。
そしてそんなことを考えられるほどに眠気は覚めていた。この状況のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「ねぇ、亜希。眠れないの?」
そう話しかけてきたのは胡春だ。今日は愛結と話してばっかだったから久しぶりに声を聞いたような気がする。
私は胡春の方に体を向ける。愛結に背中を向けるのは憚られたが寝ているので問題はないだろう。
間近でみる胡春の顔は、やっぱり綺麗だ。真っ暗な部屋でぼんやりと捉えられる輪郭だけでそれが分かる。
さらさらの髪は重力に従って、下へと垂れている。その髪を耳にかける仕草は映えた。
「ちょっとね。目が冴えちゃったみたい」
「そっか。じゃあ」
じゃあ?
そう言うと胡春は私の腰に両手を回してくる。
「ちょ、ちょっと!」
「静かにしないと愛結が起きちゃうよ」
「それはそうだけど…」
私が胡春に抱きしめられている、こんな状況を愛結に見られたらあらぬ誤解を招きそうだし、関係もギクシャクしそうだ。
それにお腹周りを触られるのは少しだけくすぐったい。
「なんで愛結の家でそういう事するかな…」
私は小声で胡春に抗議する。さっきより近くなった胡春の顔は暗い中でもより鮮明に見えるようになった。
「別にバレなきゃ問題はないわ」
バレなきゃ問題はない、そんなことはないと思う。友人の家で、抱き合うなんておかしい。せめてお互いの家ですることだろう。
ただでさえ近かった距離が更に近づいて、髪の香りも自分と同じはずなのにいい匂いで。暗闇に艶のある唇が光った。
「えっ、ちょ…」
唇が重なった。
唇を重ねるのは1周間ぶりくらいだ。そのはずなのに、懐かしいような、新鮮なような不思議な感覚になるのは、愛結の家だからだろうか。心の中をぞくっとさせる背徳感もこの期に及んで変な方向に働いてしまっている。
相変わらず唇はぷるんとしていて、温かい。それが嫌な感覚じゃないから、毎回拒めないのだ。
でもやられてばっかは嫌だから、今度仕返しをしたい。
「いまだけは亜希を”ひとりじめ”だね」
そう胡春は唇を離すと笑った。
私が愛結とばかり話していたから寂しかったのだろうか。
愛結といるときの胡春は、私と2人のときよりも静かだ。もっと話しかけてくれればいいのにと思う。私と話しているときの胡春のほうが、ずっと可愛いし、なんというか胡春らしいと感じるのだ。
「私はいっつも胡春のものだけどね…」
でも私は胡春の幼馴染だ。私にとって一番は自然と胡春だし、そうでありたいとも願っている。それが適材適所って感じがするのだ。
胡春の腕は私を包んだままで、温もりもそのままだ。
羞恥からか胡春の顔は暗闇でも分かるくらい真っ赤。
そんな幼馴染を心から、可愛らしいなと思った。
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