01-2

 自分の膝上に重さを感じて目を覚ました月曜日。眠い目を擦りながら充電していたスマホを手に取る。画面には5:29と表示されている。寝過ごした。そう感じていた途端にアラームが鳴り響いた。それを止めてから重さを感じた足元に目を向けると、そこには丸まったミミの姿があった。


「ミミ、おはよう」声に反応して、耳はこちらに顔を向ける。

「起こしてくれてありがとう」


ミミはベッドから飛び降り、優雅にリビングの方へと歩いて行った。


 普段の起床時間と変わらないのに、朝から疲れきっている身体。連日の仕事の疲れが溜まっているのかもしれない。以前は感じていなかった肩こりを最近は特に感じるようにもなっていた。考えたくないが、歳のせいかもしれないな。そんなことを考えながらスマホを手に、肩を回しながら寝室を出る。


 冷蔵庫からカレーが入っている保存容器を取り出し電子レンジで温める。その間に歯磨きを済まし、食パンをテーブルの上に出す。ミミはソファでまた丸まっていた。


 電子レンジから温まった保存容器を取り出し、テーブルの上に持っていく。

「いただきます」


袋から食パンを一枚取り出し、手でちぎり、それをカレーにディップする。その様子をミミは隣で羨ましそうに見ていた。


「待ってね。これ食べたらすぐミミの朝食用意するから」

「ミャ」


ミミが返事した途端、テレビ台に置いてある写真立てが音を立てて床に落ちた。それに驚いたミミはソファの上で飛び跳ねる。


「ごめん、驚いたね」


倒れた写真立ての元へ行くと、床にはガラスと写真が散乱していた。


「割れちゃった。ごめん、真里那まりな


拾い上げた写真に話しかける。写真に写る彼女は、眩しいほどの笑顔を見せていた。


 捨てようと思っていた雑誌で散ったガラスを集め、ガラスを入れる専用のごみ箱に入れる。彼女との大切な思い出が詰まった写真立てが、前兆もなく突然倒れた。何か悪いことが起きる前兆だとしたら嫌だな。そう思いながら、残りが少なくなったパンで容器の隅に残されたカレーを掬う。一枚のパンで保存容器を綺麗にできた、というだけで小さな幸せを感じる僕は、やはり疲れているのだろうか。


 保存容器を手短に洗い、ミミの朝食を準備する。棚を開け餌が入っている袋と餌箱を取り出し、盛っていく。音で気づいたのか、ミミはソファから降り生活スペースに歩みを進める。


「お待たせ」


ミミの前に餌箱を差し出す。お腹を空かせていたのか、ミミはすぐに食べ始めた。その間に洗面所で髪を整え、また歯を磨いていく。鏡に映る自分は笑っていなかった。


 リビングに戻り、テレビの電源を入れる。毎朝必ずニュース番組を観ながらスーツに着替えるこの流れ。会社員になってから癖づいた習慣の一つ。ニュースを聞き流しながら、クローゼットからワイシャツとズボンを取り出し着替え、ネクタイを結び、最後にジャケットを羽織る。この一連の流れを会社に行くときだけは楽しんでいる。しかし、今日は楽しむなんて余裕が生まれることはなかった。


「続いてのニュースです。昨夜遅く、女性の遺体が発見されました。この事件の―」


また殺人事件か、なんてことを思っていたとき、僕の心臓は鼓動を速めた。


「ー田中華里那さんが公園の敷地内で倒れているところを、近所に住む男性が発見し、通報したということです。警察は何者かに殺害されたとみて調べを進めています」

「どうして華里那が…」


 小刻みに震え出した手を何とか動かしながらボタンを留め、ネクタイを結ぼうとしたとき、ドアが強めの音で三度ノックされた。大家さんのノックとは違う強さ。こんな朝早くに誰が何の用事で来たのだろうかと思いながら玄関に向かう。


「はい」


そう少し大きめの声で言ってドアを開ける。そこには、紺色のスーツを着た男性二人が立っていた。

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