侯爵騎士は魔法学園を謳歌したい〜有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった〜
第33話 絶望の中で現れたのは神様なんかよりも希望の光をもたらす人(ヴィエルジュ視点)
第33話 絶望の中で現れたのは神様なんかよりも希望の光をもたらす人(ヴィエルジュ視点)
「ヴィエルジュ……」
風の魔法で空を飛び、負傷したカンセル先生を運んでいる最中に私──ヴィエルジュの名前を先生が呼んでくる。
「すまない。ここで、良い」
街の入り口辺りの上空でカンセル先生が言う。
下を見ると、魔法団らしき人達がいるのがわかった。
思念魔法で先生が自分の部隊を呼び寄せたのだろう。
「承知いたしました」
私はそのまま下降し、ゆっくりと地上に降りて行く。
「隊長!!」
魔法団らしき人達の中に降りると、すぐさま駆け寄ってくる。
「お前ら……来てくれ、て、ありが……」
「お礼はあと。今は先に回復薬を飲んでください」
団員のひとりが先生に回復薬をあげた。それを飲むと、傷口が徐々に塞がっていく。
「ありがとうございます。メイドさん」
違う団員が私に声をかけてくれた。私の恰好を見てメイドと呼んだのだろう。
「先生は大丈夫でしょうか?」
「はい。
「値段も財布のダメージに効果抜群だけどね」
ボソリと違う団員が言ってみせる。
「あはは。そこはすべて隊長持ちだから大丈夫」
言いながら団員が私へ、先生に飲ませたものと同じ回復薬を渡してくれる。
「今、街は危険な状態なのでメイドさんも持って行ってください」
「ありがとうございます」
素直に回復薬を受け取った時だった。
ドゴオオオオオ!
街の中から地響きがした。
カンセル先生の言っていた化け物が暴れているのだろう。
「街は今、どういう状況なのですか?」
「突然、化け物が街を襲ったのです」
「なんだか昔に城に現れた化け物を彷彿とさせていたな」
ドクンと心臓が嫌な跳ね方をしてしまう。
妙な胸騒ぎがする。
まさか、今、街で暴れているのは私と同じ様な目に合った人ではないだろうか……。
でも、先生は確かにこの手で……。
いや、先生以外にも仲間がいる可能性もある。
「街は危険です。メイドさんも私達と一緒にいてください」
団員の言葉を無視し、私は風の魔法で再び上空へと舞い上がる。
「すみません。先生をお願いします」
「あ、ちょ、メイドさん!? 街は危険だぞ!」
団員が制止を促してくる。間違いなく団員の意見が正しい。
この場にいる方が安全だ。
しかし、体が動いてしまう。
ご主人様のところに戻ろうかとも迷ったが、あの人なら大丈夫。
だってあの人は私の勇者様。
第一部隊の隊長くらい余裕で倒すことだろう。
ご主人様を信じることもメイドとしての務め。今、ご主人様のところに戻る方が失礼に値する。
空から街に入ると悲惨な状態であった。
建物は壊され、瓦礫の山が続く街並み。その中を叫びながら逃げまどう街の人達。
「酷い……」
どういう風に暴れたらこんなに街をめちゃくちゃにできるのだろうか。
そう思っていた時、地上から悲鳴が聞こえて来た。
「化け物だっ!! こんなの勝てるわけがないよ──!!」
大勢の魔法団が戦っている相手。そこには禍々しく、かろうじて人の姿を保っている化け物がいた。
それは、かつての自分の姿を彷彿とさせる。
化け物は魔法団の攻撃魔法を受けながらも、おどろおどろしい雄たけびを上げなら血で染まった爪を振り回して魔法団を切り裂いた。
ぐあああああああ!
戦っている魔法団から断末魔の叫びと共に体から噴水のように血を流して倒れて行く。
あれは間違いなく私と同じだ。元は人間だった化け物だ。
「くっ……!」
苦渋の選択で、私は化け物へと手を向ける。
「ごめんなさい」
風の最上級魔法、『神の息吹』を唱える。
化け物を風圧で圧し潰す。
『GAAAAAA!!』
化け物の立っている地面にヒビが入った。
風圧に押されてズンズンと地面へとめり込んでいく。
しかしながら、化け物は私の魔法を腕で振り払い、風圧を消し去った。
「風の最上級魔法でダメなんて……」
だったら氷の魔法を撃つしかない。
氷の魔法の射程距離に入るため、私はそのまま地上に降り立った。
地に足を着いて目の前にいる魔人を見ると、空から見るよりも禍々しく見えて、私の過去がフラッシュバックされる。
この化け物も私と同じ境遇。ご主人様ならもしかしたら治せるかもしれない。
でも、あの人はここにはいない。そうなると、ご主人様が来るまでの間、どうにか私が時間稼ぎを──。
『WRAAAAAAAAAAAAAA!』
「!?」
魔人は私の風の最上級魔法で機嫌を悪くしたのか、私へ殴りかかってくる。
ドゴオオオオ!
素早い攻撃になんとか反応して避けると、避けた先の建物が全壊してしまった。
「これは、時間稼ぎなんて悠長なことを言っている場合ではなさそうですね」
時間稼ぎだのなんだのと生温いことをしている余裕はない。
倒す覚悟でいかないとこちらがやられてしまう。
「お前、もしかするとルージュか……?」
化け物に気を取られており気が付いていなかったが、化け物の隣には人が立っていた。
私を昔の名で呼ぶ顔を見る。
「……ッ!?」
その顔は忘れもしない。
「先生……」
私達の魔法の先生である、エウロパ・ダートマスだ。
「……くく」
エウロパは小さく笑うと、「あーひゃひゃひゃ!!」と大きく笑い出した。
「まさか生きていたとはなぁ。よくもまぁあんな醜い姿から人間に戻れたものよ」
「あなたも生きていたのですね」
「ギリギリだったよ。回復薬を持っていたから生き残れた。ま、奇跡だ」
「そうですね。この出会いは奇跡。私の念願が叶えられます。こうして私の意思であなたを殺すことができるのですから」
「言うようになったな、いらない第二王女め」
「私はもう第二王女じゃ、ない!」
私は容赦なくエウロパへ氷の魔法を放とうとする。
「やってみろよ失敗作め。魔人化成功作の姉を倒せるものならな」
「魔人化……? 姉……?」
「くくく。げへへ、へはは! 常人は魔人化の薬を与えると魔力の暴走に耐えきれずに自滅したが、お前は王家の血を引いているからか、魔人化には成功した。だが、理性の保てなかったお前は失敗作だ」
それに比べ、と隣にいる化け物に目をやった。
「お前の姉は大成功だ。魔人の力を持ち、私の言う事を聞く最強の魔人だ」
まさか。まさか、まさか……。
「お、ねえちゃん……?」
「ほら、フーラ。生きていると信じていた妹が目の前にいるぞ。良かったな。げひゃひゃ!」
『る……じゅ……?』
目の前にいる化け物がお姉ちゃん……?
お姉ちゃんが化け物になった……?
こいつがお姉ちゃんを化け物に変えた……?
──私の中で理性がブチキレてしまった。
「このクソやろおおおおおおがああああああ!!」
怒りの叫びと共に無数の氷の刃をエウロパへ向かって放つ。
「うああああああぁぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーーーー!!!」
「無駄だ」
パリンパリンパリン──!
化け物がエウロパを庇うように、私の放った氷の刃をことごとく砕いてしまう。
「お前がどうやって魔人化を克服し、その絶大な魔力を手にしたのかは興味深いが、私の最高傑作の前では無力。魔人フーラこそ世界一。この力で世界を我が物へとする」
ようやくだ……と漏らして憎悪のような声を出した。
「アルバート国王は優秀な私の力を認めなかった。この天才の私を認めなかった。なにが王女の子守りだ。魔法の先生だ」
ギロリとこちらを睨み付けてくる。
「そして私は更に絶望した。私よりも魔法に優れた双子の姉妹。私よりも天才が存在するなんて屈辱だった。あれほどの屈辱を受けたのは初めてだった。アルバート王を、お前ら双子を、国を、絶対に許さない。私は世界一の力を手にし、お前らを皆殺しにすることにした」
ふひひ、と不気味に笑うと大きな声で喜びを表す。
「喜べアルバート魔法王国! 喜べアルバート王よ! 世界一を証明する見せしめに、私を侮辱したアルバート魔法王国で、アルバート第一王女によるアルバート第二王女の殺戮ショーを開始してやる! さぁいけ! 魔人フーラ!」
『UGAAAAAA!!!!!!!』
「……くっ!」
お姉ちゃんが私を襲ってくる。
容赦なく殺しに来る攻撃。
反撃しようとするが、お姉ちゃんの顔がチラついてしまう。
「きゃああああああ!」
躊躇してしまい、魔人の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
「がっ……」
建物にぶつかり背名を強打してしまうが、大丈夫だ。まだ意識はある。
「はぁはぁ。お、姉ちゃん……」
魔人になったお姉ちゃんを見る。あの美しかったお姉ちゃんの姿はまるでないが、どこか面影があるように思えてしまう。
「ふ、ふふ……お姉ちゃん。初めて、の、姉妹喧嘩、だね……」
やだ、喧嘩なんてしたくない。
殺したくない。
殺されたくない。
お姉ちゃん、お姉ちゃん……!
こんなことになるなら、お姉ちゃんに私の本当の名を──!!
「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」
覚悟を決めろ!
これは姉妹喧嘩でもなんでもない。
化け物が街を襲っているのを食い止めろ。
「ぅ、ぁ……」
泣くな!
集中しろ!
私はヴィエルジュだ!
あいつは化け物だ!
もうお姉ちゃんじゃない!
お姉ちゃん、じゃ、ない……!
泣くな。
泣くな……。
泣くな……!
泣くなああああああああ!!
『絶対零──』
『ヴィエルジュうううううう!!』
絶望の淵に立たされていると、希望の声が天から聞こえてくる。
まるで神様のお告げのような声に、魔法を唱えるのをやめて天空を見上げた。
夜空には神様なんかよりも、ずっと、ずっと、ずーっと希望の光を放つ人が流れ星みたいに現れた。
「ご主人様!」
剣にムチを巻きつけて飛んでくる突拍子もない飛び方。
遠方より剣を投げ、ムチを絡めて飛んできたのかな。
こんな登場の仕方こそが、私の愛するご主人様だ。
ご主人様は鞭で剣を操作すると、そのままみ真下に落下してくる。
ドオオオオン。
私の目の前に見事に着地を果たしたご主人様がこちらを見た。
「ヴィエルジュ。無事か?」
「ご、主人、さ……」
ちゃんと声を出せ。私のご主人様が来てくれたんだぞ。私の勇者様が来てくれたんだ。しゃんとしろ。私はなんだ。ご主人様のメイドだ。専属メイドなんだぞ。
「ご、しゅ、人、さま、わた、し……わたし……」
泣くな。ちゃんと状況を伝えろ。泣いている場合なんかじゃない。
「ここまでよく頑張ったな」
こんなダメなメイドに、ご主人様は優しい笑みを見してくれた。
そして、私に向けて手を指し伸ばしてくれる。
「ここからは俺とヴィエルジュ、ふたりで戦おう」
差し伸ばされた手を握る。
太陽みたいに温かい。
勇気と希望が沸いてくる。
「は、い……ぐすっ……はいっ……!」
ご主人様と手を繋いだままにエウロパの方を向いた。
「よくも俺のヴィエルジュを泣かしたな……覚悟はできてんだろうな、このクソ野郎が!」
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