第10話 アルバート第二王女の悲しい過去(ヴィエルジュ視点)

 アルバート魔法王国第二王女。それが私、ルージュ・アルバートの肩書きだった。


 自分で言うのもなんだが、私は魔法の国の姫なだけあって魔法の才能に恵まれて産まれてきた。


 魔法を教えてくれる先生よりも魔法の扱いには長けており、神童だなんて呼ばれていたっけ。


 でも、神童じゃだめみたい。


 天才はすぐ近くにいた。


 私は常に双子の姉であるアルバート第一王女、フーラ・アルバートと比べられる対象。


 お姉ちゃんはいつも私の一歩先を行ってしまう。


 私が風魔法で空を飛べた時、お姉ちゃんは既に隣の国まで飛んで行った。


 私が水魔法で水の上に立てた時、お姉ちゃんは水の上を走っていた。


 私が下級魔法を詠唱なしで唱えることができた時に、お姉ちゃんは既に中級魔法を詠唱なしで唱えることができていた。


 結果、私は周りから姉の劣化版だと罵られてしまっていた。


 でも、そんなお姉ちゃんとはかなり仲が良かった。


 いつも側にいてくれて、励ましてくれて、手を差し出してくれて、暗い性格の私を引っ張り出してくれる。


 そんなお姉ちゃんが大好きだった。


 嫉妬がないと言えばうそになるが、それ以上に、いつも一歩先を行くお姉ちゃんへ憧れの方が強かった。


 いつかお姉ちゃんに引っ張られるのではなく、隣に立てる存在になりたい。

 そう願っていたのに──。


「先生……体が熱くて、なんだか気分が優れないです……」


 ある日、城の中庭で魔法の訓練をしている時であった。身体が熱く、風邪に似ているようなだるさがあった。


 この時、私は一対一で私とお姉ちゃん専属の魔法先生である、エウロパ・ダートマス先生から指導を受けていた。


「こちらをお飲みください」


 先生が薬を私に飲ました時だ。


「──がっ……!」


 体が熱くなり、体中にアザができたかと思うと、私の体は一気に腐っていき、肉体が化け物に変わってしまった。


 先生は私を興味深そうに見つめているだけだった。


「なるほど。他の者に薬を飲ませた時よりも魔力が桁違いだ。流石はアルバートの血と言ったところか」


「せん、せ……い?」


「なんと、まだ意識があるか。これはかなりの成果と言える」


 先生がなにを言っているのかわからない。


「どう、して……?」


「化け物のくせに疑問を持つか。あはは! これは傑作だ!」


 先生はこちらを睨み付けてくる。


「王は……お前達は私を馬鹿にした。ガキの分際で私よりも強いなどということは許されない。そんな奴は私達の実験台になるべきだったんだよ」


 それに。


 笑いながら言われてしまう。


「お前はいらない子だ。本当に必要なのは姉の方だ。お前がいると迷惑なんだよ。お前がいない方が城も姉だけに気をかければ良いんだからな。姉の劣化版なんて必要ねぇんだよ、カスが!」


 やめて。それ以上言わないで──!


「いらねぇカスは私の実験体になれたことを光栄に思い、使われて死ね」


 私の思いとは裏腹に、先生の悪口は止まらない。


『や、め、て……!』


 私はやめて欲しくて、先生を殴ってしまった。


「はや──げふっ!」


 先生はなんとかガードしたのだが、ピンポン玉みたいに吹っ飛んでいき、大量の血を流して倒れた。


 ピクピクと痙攣しながら、最後の力を振り絞って杖を振ってみせると、上空で花火のようなものが上がる。


 先生は動かなくなった。


「化け物だああああああ!」


 先生は最後の力を振り絞って城の兵士を呼んだみたいだ。


一瞬にして城の兵士達が私の前に集まった。


「ば、化け物めっ!」


「どうやってこの城に入った!?」


 いつも私に笑顔で話しかけてくれる優しい兵士の人達が、今は敵対心を向けてくる。


 悲しくて、辛くて、でも涙は出ない。


 代わりに出たのは手であった。


 GAAAAAAAAAAAAAAAA!


 うぎゃああああああ!


 上昇しつづける魔力の攻撃は、ただのパンチなのに風圧で兵士達を吹き飛ばした。


 私は、私は──!


 上がり続ける魔力の代償は人間をやめること。


 もう、私の意識は消えていく。


 消える前に、私の意識が消える前に、私がこの場所から消えなくてはならない。


 バイバイ、私が生まれ育った最愛の場所。お父さん、お母さん、お姉ちゃん──。


 私は最後の意識を振り絞り、城から逃げ出した。


 城から逃げ出して深い森に入った途端に、私の意識はプツンと切れた。

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