第5話 俺のヴィエルジュを愚弄するな
アルバート魔法王国にご到着。
魔法の国をゆっくり観光したかったが、そんな時間もなし。
今日は観光じゃなくて入学試験を受けに来たからね。
さっさとアルバート魔法学園へレッツゴー。
てな流れで学園へご到着。
王国一の魔法学園だけあって、校門も豪華な造りとなってんなぁ。
校門を潜った先に見える校舎は、まるで城のようにそびえ立っている。
ここが学園とは思えない造り。エリート輩出校は校舎からレベルが違うのね。
「ここの入学試験を受けて合格することで、晴れてアルバート魔法学園の生徒となり、与えられた寮での生活となります」
ヴィエルジュの説明に改めて、ゾッとしてしまう。
「逆に言うと、入学試験に落ちたら……?」
「路頭に迷いますね」
「まじに受からんとやべー!!」
ヘイヴン家を追放された今、全寮制のこの学園に入学できなければ住む場所がなくなる。
しかし、魔法なんてロクに使えない俺なんかが入学試験を突破できるのだろうか……。
「あー胃がいてぇ」
「大丈夫です? キスします?」
「胃薬飲みます? のノリでとんでもないこと言ってくるメイドだね」
俺達は、どこに行っても通常運転な会話を繰り広げている。
『ねぇ。あれって……』
そよ風に乗って聞こえてくるひそひそ声。
こちらへの視線を感じて振り返ってみると、同年代のグループがこちらに聞こえるようなボリュームで会話しやがる。
『間違いない。ヘイヴン家の落ちこぼれだ。あのレオン様のご子息にまさかあんな無能が生まれるなんてな』
『どうしてその落ちこぼれが魔法学園に?』
『大方、レオン様に見限られて来たのだろう。騎士の家系だからまともに魔法も使えんだろうに、のこのこ来るとはとんだ恥さらしだ』
『私だったら死んでしまいますわね』
あっはっはっ!
「あっはっは。ご主人様。あの方々へ裁きの鉄槌を下してもよろしいでしょうか?」
うわー。ヴィエルジュの機嫌が悪くなった。
「きみがやると全員死んでしまうからやめなさい」
「ご安心を。ギリギリ命の炎が灯る程度には手加減致します。死んだ方がマシだと思う程度ですが」
ウチのメイドがマジで怖いんだが……。
俺のために怒ってくれているのは嬉しいんだけど、このままじゃここが殺人現場と化す。
スッと彼女の肩に手を置いてからキザったらしく言ってやる。
「周りになんと思われようが、俺にはヴィエルジュが側にいてくれるから平気だよ」
「ふんぬー!」
美少女にあるまじき鼻息の鳴らし方だね。
それでも可愛いいんだから、ほんと可愛いって正義だわ。
少し興奮気味のヴィエルジュは、そのまま俺に抱きついて来ましたとさ。
「一生お仕え致します。ご主人様♡」
「なんかプロポーズされてる気分で勘違いするぞ」
「どうぞ勘違いなさってくださいませ。その勘違いは真実でございますので」
「どぅどぅどぅ」
「はぅはぅはぅ♡」
暴れ馬を落ち着かせる要領で彼女の頭をなでてやる。
こうするとヴィエルジュは落ち着くからね。よしよしっと。
さて、頭をなでながらも冷静に考えると俺ってば有名人なんだね。もちろん、悪い意味で。
そりゃ世界的に有名な侯爵家、ステラシオン王国騎士団の団長レオン•ヘイヴンの息子ってありゃ、世界中の貴族達に名が通っているか。
俺は悪評で通っているからご覧の通りってわけだな。
別に悪く言われるのは慣れっこだから、そこは問題じゃない。こうも変に目立つとろくなことがねぇんだよ。
前世でもこの世界でもそれは同じなんだ。
『落ちこぼれのくせに随分と余裕じゃぁないかい?』
なぁんか嫌ーな予感と共に、嫌らしい声が聞こえてきたぞー。
見ると、ブロンドヘアのどっかの貴族のおぼっちゃまみたいな奴が絡んでくる。
「騎士の家系から追放され、今から人生やり直しを賭けた入学試験だってのに、そんな余裕で良いのかい?」
「なんだか噛ませ犬みたいな奴が現れたな」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」
名前からして即退場貴族が現れた。
『きゃー!』
唐突に周りから黄色声が湧き上がる。
『カマーセル様よ!』
『あの由緒正しき魔法一族、ヌゥーダ伯爵家のご子息だ!』
『やべー! すげー! やっぱりすげー人が集まる学園、アルバート魔法学園はしゅごしゅぎるうううううう!』
モブ達よ、ご説明ありがとう。噛ませ犬の素性がなんとなくわかった。
「きみみたいな魔法も使えない騎士の落ちこぼれと一緒に入学試験を受けるのも恥ずかしいってものだ。さっさと消え失せてくれないかい」
ほらぁ。悪目立ちするとろくなことがない。変な奴に絡まれたじゃーん。
ギャラリー達も、『いいぞー! もっといけー!』なんて噛ませ犬を盛り上げてやがる。
つーか、ギャラリーめっちゃ増えてない?
「それに……」
噛ませ犬はチラッとヴィエルジュの方へ視線を送ると、ゴミを見るような目で言い放ってくる。
「どこの馬の骨かもわからないメイドと一緒とはあさはかだ。そのメイドもどうせ主人同様にゴミクズ──」
「あん?」
彼の言葉の途中で俺は一瞬で頭に血が上り、瞬時に噛ませ犬の背後に回る。
「──はへ?」
父上を意識して威圧するようにボソリと言ってやる。
「それ以上俺のヴィエルジュを愚弄したら殺すぞ」
「あ、へ、あ……」
噛ませ犬は声にならない声を出して、へなへなと膝から崩れ落ちた。
『え?』
『なに?』
『なにが起こった?』
ただそいつが俺にビビっただけじゃ、ボケ。
「……行くぞ、ヴィエルジュ」
こいつを殺してもなんの意味もなし。この場にいてもイラつくだけだ。
「はい。ご主人様」
俺達はギャラリーを押し除けて校内へと入って行った。
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