第4話 はい。俺のヴィエルジュですよ♡

 アルバート魔法王国にご到着。


 魔法の国をゆっくり観光したかったが、そんな時間もなし。


 今日は観光じゃなくて入学試験を受けに来たからね。


 さっさとアルバート魔法学園へレッツゴー。


 てな流れで学園へご到着。


 王国一の魔法学園だけあって校門も豪華な造りとなってんなぁ。


 校門を潜った先に見える校舎は、まるで城のように立派にそびえ立っている


 ここが学園とは思えない造り。エリート輩出校は校舎からレベルが違うのね。


「ここの入学試験を受けて合格することで、晴れてアルバート魔法学園の生徒となり、与えられた寮での生活となります」


 ヴィエルジュの説明に改めて、ゾッとしてしまう。


「逆に言うと、入学試験に落ちたら……?」


「路頭に迷いますね」


「OH!! NO!! まじに受からんとやべー!!」


 ヘイヴン家を追放された今、全寮制のこの学園に入学できなければ住む場所がなくなる。


 しかし、魔法なんて知らない俺に入学なんて可能なのだろうか……。


「やべ。胃がいてぇ」


「大丈夫です? キスします?」


「胃薬飲みます? のノリでとんでもないこと言ってくるメイドだね」


 そんな会話をしていると、『ねぇ。あれって……』なんて声がそよ風に乗って聞こえてくる。


 こちらへの視線を感じて振り返ってみると、同年代のグループがこちらに聞こえるようなボリュームで会話しやがる。


『間違いない。ヘイヴン家の落ちこぼれだ。あのレオン様のご子息にまさかあんな無能が生まれるなんてな』


『どうして、その落ちこぼれが魔法学園に?』


『大方、レオン様に見限られて来たのだろう。騎士の家系だからまともに魔法も使

えんだろうに、のこのこ来るとはとんだ恥さらしだ』


『私だったら死んでしまいますわね』


 あっはっはっ!


「あっはっは。ご主人様。あの方々へ裁きの鉄槌を下してもよろしいでしょうか?」


 うわー。やっぱアルバートに来たからヴィエルジュ機嫌わりぃなぁ。


「きみがやると本当に全員死んでしまうからやめなさい」


「ご安心を。ギリギリ命の炎が灯る程度には手加減致します。死んだ方がマシだと思う程度ですが」


 ウチのメイドがマジで怖いんだが……。


 俺のために怒ってくれているのは嬉しいんだけど、このままじゃここが殺人現場と化す。


 スッと彼女の肩に手を置いてからキザったらしく言ってやる。


「周りになんと思われようが、俺にはヴィエルジュが側にいてくれるから平気だよ」


 ふんぬー!


 美少女にあるまじき鼻息の鳴らし方だね。それでも可愛いいんだから、ほんと可愛いって正義だわ。


 少し興奮気味のヴィエルジュはそのまま俺に抱きついて来ましたとさ。


「一生お仕え致します。ご主人様♡」


「なんかプロポーズされてる気分で勘違いするぞ」


「どうぞ勘違いなさってくださいませ。その勘違いは真実でございますので」


「どぅどぅどぅ」


 暴れ馬を落ち着かせる要領で彼女の頭を撫でてやる。


 こうするとヴィエルジュは落ち着くからね。よしよしっと。


 さて、頭を撫でながらも冷静に考えると俺ってば有名人なんだね。


 そりゃ世界的に有名なステラシオン王国騎士団長レオン•ヘイヴンの息子ってありゃ、名前だけでも世界中の貴族達に名が通っているか。俺は悪評で通っているからご覧の通りってわけだな。


 別に悪く言われるのは慣れっこだからそこは問題じゃないんだが、こうも変に目立つとロクなことがねぇんだよ。前世でもこの世界でもそれは同じなんだ。


『落ちこぼれのくせに随分と余裕じゃぁないかい?』


 なぁんか嫌ーな予感と共に、嫌らしい声が聞こえてきたぞー。


 見ると、ブロンドヘアのどっかの貴族のおぼっちゃまみたいな奴が絡んでくる。


「騎士の家系から追放され、今から人生やり直しを賭けた入学試験だってのに、そんな余裕で良いのかい?」


「なんだか噛ませ犬みたいな奴が現れたな」


「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」


 名前からして即退場貴族が現れた。


『きゃー!』


 唐突に周りから黄色声が湧き上がる。


『カマーセル様よ!』


『あの由緒正しき魔法一族、ヌゥーダ伯爵家のご子息だ!』


『やべー! すげー! やっぱりすげー人が集まる学園、アルバート魔法学園はしゅごしゅぎるうううううう!」


 モブ達よ。ご説明ありがとう。噛ませ犬の素性がなんとなくわかった。


「きみみたいな魔法も使えない騎士の落ちこぼれと一緒に入学試験を受けるのも恥ずかしいってものだ。さっさと消え失せてくれないかい」


 ほらぁ。悪目立ちするとロクなことがない。変な奴に絡まれたじゃーん。


 ギャラリー達も、『いいぞー! もっといけー!』なんて噛ませ犬を盛り上げてやがる。


 つーか、ギャラリーめっちゃ増えてない?


「それに……」


 噛ませ犬はチラッとヴィエルジュの方へ視線を送ると、ゴミを見るような目で言い放ってくる。


「どこの馬の骨かもわからない奴隷以下のメイドとイチャコラして。そのメイドもどうせ主人同様にゴミクズ──」

「あん?」


 彼の言葉の途中で俺は一瞬で頭に血が上り、瞬時に噛ませ犬の背後に回る。


「──はへ?」


「それ以上俺のヴィエルジュを愚弄したら殺すぞ」


 魔力を解放してボソリと言ってやる。


「あ、へ、あ……」


 噛ませ犬は声にならない声を出して、へなへなと膝から崩れ落ちる。


 腰が抜けたってのはこのことを差すのだろう。


 こいつ、ある程度相手の魔力を感じ取れるみたいだな。一丁前にビビってら。


 普通の人は自分以外の魔力を感じ取ることはできない。その証拠にギャラリー達は俺の魔力をなにも感じとっちゃいない。


『え?』


『なに?』


 この状況で、どうして噛ませ犬が座り込んだのかわかっていない様子だ。


「……ちっ。行くぞ、ヴィエルジュ」


「はい。ご主人様」


 俺達はギャラリーを押し除けて校内へと入って行った。







 あーあ、やっちまった。やっちまったよー。


 あんなギャラリーがいる中で変に目立っちまったぁ。


 ほんと、悪目立ちするとロクなことがねぇ。


 つうか、学園の中を歩いている今も絶賛目立っているんだけどな。それはヘイヴン家の落ちこぼれが魔法学園を歩いているからではないだろう。


 さっきからヴィエルジュが超ご機嫌で俺の腕にしがみついてやがります。

 この子ったらいつもよりずっと距離が近くて、彼女の柔らかい色々なところが当たってんだけど。

 思春期男子には刺激が強すぎるんですけど。あと、周りの視線も痛い。やたら目立ってる。


「おい、ヴィエルジュ」


「はい♪ 俺のヴィエルジュですよ♡」


「くぉっふっ……」


 やはりさっきの俺の言動がこの超ご機嫌を作り上げていたか。


「ふふ。俺のヴィエルジュだって。俺のヴィエルジュ……。うふふ」


 幸せそうに繰り返し言われると、言ったこっち側としてはめっちゃ恥ずかしいんだが。


「なぁ。周りからの視線が痛いから、そろそろ離れてはくれませんか?」

「だめです。俺のヴィエルジュはご主人様から一生離れません。えへへ♡♡」


 ご機嫌が青天井になってやがる。どう交渉しても超密着は解放されないみたい。


 こうなっては仕方がない。こうやって学園内を歩くしか選択はないか。


 中庭の噴水。


 訓練場。


 流石は魔法学園だけあって図書館がバカでかい。

 なんだったらステラシオン王国の図書館よりも大きいのではないだろうか。

 ま、騎士国家のステラシオンは脳筋の集まりだもんな。本を読む奴の方が少ないよね。


 とかなんとか考えながら進んで行くと、『受験生はこちら』の看板が立っている受付を見つけた。


「アルバート魔法学園へようこそ。本日は入学試験を受験されに来られましたか?」


 受付の女性の質問にヴィエルジュが答える。


「はい」


「ええっと……」


 メイド服を着ている方が答えるもんだから、女性が俺とヴィエルジュを見比べる。


 え? 使用人が受けるの?


 みたいな感じなんだろう。


 それを察したヴィエルジュが追加で答える。


「本日受験を予定している、リオン・ヘイヴン様とヴィエルジュです」


 申し出ると


 あ、2人共受験生ね


 なんて納得した様子で受付にある書類を確認する。


「リオンさんとヴィエルジュさんですね。──はい、確認が取れました」


 流石は大人というか、学園の人というか。俺の名前を聞いてもバカにして来ない。そりゃ学園関係者がそんなことをしたら問題になるもんな。こんな些細なことが俺としては嬉しいね。いちいちバカにされないってのは良い。


「一次試験会場はあちらになります。このまま進んでください」

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