第7話 いつまでもあると思うな親と剣。合格しないとやばいから全力でいくわ

 一次試験会場である訓練場。


 訓練場というよりは円形闘技場と言った方がわかりやすい造りだね。


 360度、観客席に囲まれた中央に俺達受験生は集められていた。


 唐突に前方の方で、ボワっと緑色の炎が舞い上がったかと思うと、炎の中から茶髪の男性が現れた。


「ちっすー。みんな、おっつー」


 なぁんか見た目がやたらとチャラいのが出て来たなぁ。着けてるサングラスもチャれー。


『あ、あの人は!』


 どこかからモブ受験生の、「説明しまっせ」と言わんばかりの声があがる。


『アルバート魔法団第ニ部隊隊長のカンセル・カーライルだ!』


『カーライル伯爵家きっての魔法の天才が第一試験官だと!?』


『さすがアルバート魔法学園! すごしゅぎる』


 モブ受験生達、説明どうも。


「いぇー! どもどもー!」


 自分が注目されていることに気が付いたらしい。試験官が受験生に陽気に手を振ってやがらぁ。チャれー。


「よっし。早速と試験を始めますか」


 チャらい試験官が懐から木の枝みたいな杖を取り出すと、地面に向かって振ってみせる。


「うらぁ、来いや、ゴーレムちゃんよぉ!」


 ゴゴゴゴゴと地面からあっという間にゴーレムちゃんが現れる。


「造形魔法ですか。流石は第二部隊隊長さんですね」


 隣でヴィエルジュが感心する声を上げていた。


「凄い魔法なん?」


「はい。造形魔法は特殊な魔法です。造形魔法の詠唱はかなり複雑で最早暗号と言われており、上級魔法使いでも扱える者はほとんどいないとか」


「あの人、詠唱してなかったよ?」


「つまり、あの人はめちゃんこ凄い人です」


「なるほど。わかりやすい説明ありがとう」


「わかりやすい説明の報酬は、本日の晩御飯のあーんでよろしいですよ」


「この試験に受からなかったら本日の宿も危ういってのに、晩御飯のあーんなんて言ってる場合か」


「悩みどころです。ご主人様へあーんしたいし、ご主人様からあーんされたい。さて、どちらにしましょう」


 むむむ、なんて可愛らしい悩みを発動させてらっしゃいます。


「お前らー。よく聞けー。一次試験は俺の愛の結晶ゴーレムちゃんと戦ってもらうぞー」


『ええええええええええええ!!』


 受験生達の驚いた声が訓練場に響き渡る。


 あのゴーレムちゃん、めちゃくちゃ強い。


 ここにいる受験生じゃ、俺とヴィエルジュを除いて誰も太刀打ちできんだろうな。


「安心しろっての。ゴーレムちゃん、まじ女だからよ」


 そこは関係あるのだろうか。


「なにも倒せってことじゃないから。これはあくまで試験だ。戦闘中にお前らの実力を測らせてもらうってだけだからさ」


 なるほどね。戦闘はただの判断材料ってわけか。


 受験者達からホッと安堵の息が出たところで、チャラ男試験官がニタァっと笑う。


「腕に自信のある奴は倒してみろよ。ゴーレムちゃんを倒せたら入学試験自体を無条件に合格にしてやらぁ。かっかっかっ」


 ……ぬ? それはまじか。


「さ、試験を開始するぞー。まずはリオン・ヘイヴン」


「は?」


 え、待って。俺から? うそ。俺からなの?


 ちょっと待てよ。魔法をロクに使えない奴から始めるってどんな公開処刑?


 こちらが脳内で焦っていると、チャラ男が杖を振った。


 すると、俺以外の人間が観客席へと飛ばされちゃってたよ。


 ポツンとひとり取り残されるぼくちん。


 このチャラ男。すげーな。


 一瞬にして受験生俺以外の全員を訓練場の観客席へと飛ばしやがった。


 とか、感心してる場合じゃない。


『ぷっ。最初からヘイヴン家の落ちこぼれか』


『騎士の家系を見放され、魔法も使えないゴミになにができるんだ』


『こうやって一流の魔法使いの魔法を目の当たりにできただけでも感謝しろよな、雑魚』


『そう言ってやるなよ。落ちこぼれが無謀なワンチャンにかけているんだ。見守ってやろうぜ。無様な姿を』


『記念受験、乙』


 記念受験じゃ路頭に迷っちまうから避けたいところだわ。


「すみません。試験官さん」


「んぁ? どったの?」


「これを倒したら入学できるって本当ですか?」


 ゴーレムを指差して質問を投げると、「ふんがーふんがー」とゴーレムちゃんが怒っている様子。きみ、言葉がわかるのね。凄い魔法だな、おい。


『あいつ、頭おかしいんじゃねぇの? あんなのカーライル様の冗談に決まってるだろ』


『落ちこぼれだからゴーレムの力量がわかってないんじゃないか』


『ちげーねぇ。それかもう絶望してどうにでもなれって思っているのかもな』


 ギャラリー達のブーイングを聞いている余裕など俺にはない。今は寝床の確保が大事なんだ。


「ゴーレムちゃんを倒せるってか?」


「魔法以外でなら倒せます」


「へぇ。面白いことを言うもんだ。いいぜ。なに使っても良いから倒してみな。そしたら無条件で入学だ」


 笑いながら試験官のカーライル伯爵家のチャラ男は、杖をゴーレムに向けた。


「ほい。試験開始」


 合図と共にチャラ男がオーケストラの指揮みたいに杖を振って見せた。


『OOOOOOHHHHHH!!』


 なるほど。そうやってゴーレムちゃんに魔力を送っているのか。ゴーレムちゃんの強さは術者に依存するって感じかな。だったらおっそろしいくらい強いゴーレムちゃんだね。


 こりゃ実力隠してたら勝てんわ。


 くそっ。目立つとろくなことがねぇが、今はそんなことを言ってる余裕もなし。


 魔法学園の入学試験に魔法を使わないなんてどうかと思うが、知らん。


 このゴーレムちゃんを全力でぶっ倒してやらぁ。


「すまん、レーヴェ」


 俺はレーヴェからもらったネックレスを引きちぎった。


 ちぎれたネックレスに転生者特典の特殊な魔力を送るとあら不思議。


 ビーンっと伸びた即席インスタントソードの出来上がり。


 いつまでもあると思うな親と剣。


 親のスネをかじって生きようとしていた俺がなにを言っているんだって話なんだけどね。


『GOOOOOOHHHHHH!!』


 こちらが即席インスタントソードを作成している間に、ゴーレムちゃんの強烈な右ストレートが飛んでくる。ゴーレムちゃんの魔力の乗った豪快なパンチ。


「おっと」


 そんな大振りじゃ俺には当たらんぞ。


『……!? GAAAAAAAHHHHHH!』


 ひょいっとかわしてやると、次は左のパンチが飛んでくる。それもひょいっとかわしてやる。


『UGAAAAAA!!!!!!!』


 パンチをかわされてイライラしているのか。大振りだったパンチが更に大きくなる。


 すごいやこのゴーレムちゃん。本当に魔法でできてんのかよ。人間の意思みたいなの持ってるぞ。


 だけど、その無駄な感情が仇となっている。


 右へ左へ水平へ。


 ゴーレムちゃんが連続にパンチを放ってくるが、鼻歌混じりでひょいひょいひょいっとかわしてやる。


「さて。そろそろ反撃開始だ」


 大振りになっているところで隙だらけのゴーレムちゃんへ、こちらからの大技をプレゼントしてやる。


「はあああああ……!」


 即席インスタントソードを太陽に掲げて魔力を集中させた。


 即席インスタントソードには太陽の力が宿ったみたく、熱く、光り輝く。


「リオン流奥義──」


 宿った太陽の力を解放するように、俺は即席インスタントソードを垂直に振り下ろす。


即席インスタント太陽神ラーメン!』


 ゴーレムは頭の先から簡単に真っ二つに斬れ──。


『GYAAAAAAAHHHHHH!』


 ボオオオオオオオオオオン!


 大爆発が起こる。


 ゴーレムちゃんは跡形もなく消え去った。


 これがリオン流奥義。技名通りに3分で決着ケリがついたな。


 とか言っちゃったりして。

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