第8話 ウチのメイド様も全力出しちゃいました

 ──パリンッ!


「あ……」


 やっべ。リオン流奥義インスタントラーメンに耐え切れなかったみたいで、レーヴェからもらったネックレスが壊れちゃった。


 これ、レーヴェにばれたらくっそ怒られるやつ。


 ま、まぁ仕方ないよね、うんうん。とりあえず、今度会ったらひたすらに謝ることにしよう。


「は……はあああああああ!?」


 驚愕の声を出すチャラ男。うん。満点のリアクションだ。


「俺のゴーレムちゃんが……俺のゴーレムちゃんが……!?」


「合格、ですよね?」


 心配要因は先に消したいタイプだ。早く合格通知が欲しい。


「あ、ああ……合格、だ」


 まだ、なにが起こったかわかっていないようなチャラ男は、あんぐりとしながら頷いていた。


「ありがとうございます」


 おっふぉ……良かったぁ……。


 とりあえずこれで寝床の確保はできたな。しばらくは安心だ。


 こちらが安堵の息を吐いている間に俺はワープさせられたみたい。


 視界が観客席に切り替わった。


「お疲れ様です。ご主人様」


 すぐさま俺の隣へとヴィエルジュが駆けつけてくれる。


「おつかれさん」


「久しぶりにご主人様の実力を拝見させていただきました。即席で作った武器であれほどの威力。流石はご主人様です。普通の剣など持とうものなら、この世界を真っ二つに斬れるのではありませんでしょうか」


「それは言い過ぎだろー」


「そんなことありませんよー」


「「あははははー!」」


 ヴィエルジュがもてはやしてくれるもんだから、嬉しくなって笑っていると、周りがやたらめったらとザワザワしているのに気が付く。


『嘘だろ。騎士の落ちこぼれのくせになんであんな……』


『いかさまだ! なにかいかさまをしたに違いない!』


『手を抜いていただいたんだ! カーライル様のお情けだ!』


 俺の結果に納得いっていない人達が、ぶーぶーと言っているな。


 やっぱり目立つと悪口言われまくるなぁ。だから嫌なんだよね。


「ご主人様。うるさいコバエ共を全員消しましょうか?」


「やめなさい。試験がめちゃくちゃになる」


 せっかく寝床を確保したのに、試験がめちゃくちゃになって合格取消しだなんてことになったら大変だ。


『う、うぃ。お待ちー。試験続けるぞー』


 チャラ男が動揺しながらも、切り替えてゴーレムちゃんを再構築していた。


『次は……ヴィエルジュ』


 お。次はウチのメイドが呼ばれたね。


「どうやら私の出番みたいですね」


「なにも心配はしてないが、頑張ってなヴィエルジュ」


「ご主人様が多少なりとも本気を出したのです。メイドの私も多少なりとも本気を出すのが礼儀というものでしょう」


「……ほどほどにね」


 最後、ニコッとエンジェルスマイルで微笑んで、ヴィエルジュは訓練場の中心へとワープしていった。


 すんげー意味深な笑みだったねー。嫌な予感するわー。可愛い天使の笑顔の奥に悪魔みたいなのが隠れてたよねー。


『よっし。ほんじゃ、まぁ、試験開始ー』


 うっおっ──!


 チャラ男試験官の開始の合図と共に、訓練場の中心から強風が吹き荒れる。


 やっべー。ヴィエルジュの奴、まじだわー。


 ウチのメイド様がゴーレムちゃんに向かって手を突き出したらさ、大量の魔法陣が出てきたんだけど?


 訓練場全体に風が吹く。


 強い風が吹く。


 そして、嵐になる。


 ちょーい、ちょい、ヴィエルジュさんやい。やりすぎでは?


 そりゃ氷の魔法が一番得意なんだろうけども、きみは風魔法も得意だよね。


 風の最上級魔法をぶっ放そうとしてません?


うそ、やだ。あの子ったら訓練場ごとぶっ壊すの?


『神の息吹』


 ドオオオオオオオオ!!!!!


 ヴィエルジュが魔法を唱えた瞬間、一瞬にしてゴーレムちゃんの立っていた場所に穴が空いちゃった。


 真上からの風圧でゴーレムちゃんを押し潰した。


 ゴーレムちゃんは跡形もなく消えちまったよ。


 あははー。すっげぇ威力。訓練場に風穴空いてんじゃん。


『は、はああああああ!?』


 余りにも規格外の魔法を受けて、試験官のチャラ男も驚いていた。


 そりゃそんな反応にもなるわな。こんな受験生は今までいなかったことだろう。


『私もゴーレムちゃん様を倒したので入学を認めていただけますよね? 試験官様?』


 コクコクと驚きのあまりに頷くだけしかできなかった試験官へ、メイド服のスカートの裾を摘んで、『ありがとうございます』とか呑気に言ってのける。


 ヴィエルジュの試験が終了し、彼女が目の前にワープして現れた。


「これで無事にふたりとも試験は合格。仲良く入学が決まりましたね♪」


 入学が確定したヴィエルジュが戻ってきた開幕一声は、超ご機嫌な声であった。


「なにもあそこまでしなくても良かったんじゃないか?」


 訓練場を見てみると、学校関係者達が急いで訓練場を修復していた。


 こうなることは予想外だったんだろうな。唐突な作業でみんな慌てふためいている。


「ふふっ。ご主人様に仕えるメイドですから。これくらいは見せないと♪」


「おっそろしいメイド様だ」 


 ヴィエルジュが、くるっと回れ右をする。


「試験は合格しましたし、他の受験者様を見ても仕方ありません。帰ってお祝いをしましょうご主人様」


「それもそうだな」


 俺とヴィエルジュはふたり共、一次試験でアルバート魔法学園への入学を決めたのであった。


 あとで聞いた話だけど、これは異例中の異例らしい。そりゃそうだよね。あー、悪目立ちしちまってるなー。

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