第6話 ウチのメイド様も全力出しちゃいました

 ──パリンッ!


「あ……」


 やっべ。リオン流奥義インスタントラーメンに耐え切れなかったみたいで、レーヴェからもらったネックレスが壊れちゃった。

 これ、レーヴェにばれたらくっそ怒られるやつ。

 ま、まぁ仕方ないよね、うんうんとか勝手に自己解決しちゃったりして。


「は、はあああああああ!?」


 驚愕の声を出すチャラ男。うん。満点のリアクションだね。


「俺のゴーレムちゃんが……俺のゴーレムちゃんが……!?」


 良いリアクションなんだけど、今はそんなことよりも大事なことがある。


「合格、ですよね?」


 心配要因は先に消したいタイプだ。


「あ、ああ……。合格、だ」


 まだ、なにが起こったかわかっていないようなチャラ男は、あんぐりとしながら頷いていた。


「それじゃ、お願いします」


 おっふぉ……。良かったぁ……。


 とりあえずこれで寝床の確保はできたな。良かったぁ。まじで。


 こちらが安堵の息を吐いている間に俺はワープさせられたみたい。


 視界が観客席に切り替わった。


「お疲れ様です。ご主人様」


 すぐさま俺の隣へとヴィエルジュが駆けつけてくれる。


「おつかれさん」


「久しぶりにご主人様の本気の剣技を拝見させていただきました。即席で作った武器であれほどの威力。流石はご主人様です。普通の剣など持とうものなら、この世界を真っ二つに斬れるのではありませんでしょうか」


「それは言い過ぎだろ」


 苦笑いと共に、「はぁ」とため息が漏れちまう。


「あら。もう入学が決まったのにご不満で?」


「いや。仕方がないとはいえ、あんな派手にやっちまったら悪目立ちしただろうなぁ、と」


 周りもやたらめったらとザワザワしているし。


『嘘だろ。騎士の落ちこぼれのくせになんであんな……』


『いかさまだ! なにかいかさまをしたに違いない!』


『手を抜いていただいたんだ! カーライル様のお情けだ!』


 俺の結果に納得いっていないものが、ぶーぶーと言っているな。


「ご主人様。うるさいコバエ共を全員消しましょうか?」


「いやいや。そう思ってくれていた方が俺としては好都合だ。このまま言わせておこう」


 現実を受け入れられないモブ達がいた方が俺はありがたいからね。あとは変に絡まれないのを祈るだけだ。


『う、うぃ。お待ちー。試験続けるぞー』


 チャラ男が動揺しながらも、切り替えてゴーレムを再構築していた。


『次は……ヴィエルジュ』


 お。次はウチのメイドが呼ばれたね。


「どうやら私の出番みたいですね」


「頑張ってな、ヴィエルジュ」


「ご主人様が本気を出したのです。メイドの私も本気を出すのが礼儀というものでしょう」


「……ほどほどにな」


 最後、ニコッとエンジェルスマイルで微笑んで、ヴィエルジュは訓練場の中心へとワープしていった。


 すんげー意味深な笑みだったねー。嫌な予感するわー。可愛い天使の笑顔の奥になにか隠れてたよねー。


『よっし。ほんじゃ、まぁ、試験開始ー』


 うっおっ──!


 チャラ男試験官の開始の合図と共に、訓練場の中心からバカでかい魔力が放たれた。


 その魔力はまるで強風のように吹き荒れる。


 やっべー。ヴィエルジュの奴、まじだわ。


 ウチのメイド様がゴーレムちゃんに向かって手を突き出したらさ、大量の魔法陣が出てきたんだけど?


 訓練場全体に風が吹く。


 強い風が吹く。


 そして、嵐になる。


 ちょーい、ちょい、ヴィエルジュさんやい。やりすぎでは?


 あれってさ、魔法の知識がない俺でもわかるんよ。


 野球のルールを知らない人が三振とホームランくらいは知っているのと同じく、魔法なんか勉強したことない俺でもあれは知っている。


 最上級魔法。


 魔法の中で最も強い魔法をぶっ放そうとしております、ウチのメイド様。


 うそ。あの子ったら訓練場ごとぶっ壊すの?


『神の息吹』


 ドオオオオオオオオ!!!!!


 ヴィエルジュが魔法を唱えた瞬間、一瞬にしてゴーレムちゃんの立っていた場所に穴が空いちゃった。


 あれだね。真上からの風圧でゴーレムちゃんを押し潰したんだわ。


 ゴーレムちゃんは跡形もなく消えていた。


 あははー。すっげぇ威力。訓練場に風穴空いてんじゃん。


『は、はああああああ!?』


 余りにも規格外の魔法を受けて、試験官のチャラ男も驚いていた。そりゃそんな反応にもなるわな。こんな受験生は今までいなかったことだろう。


『私もゴーレムちゃん様を倒したので入学を認めていただけますよね? 試験官様?』


 コクコクと驚きのあまりに頷くだけしかできなかった試験官へ、メイド服のスカートの裾を摘んで、『ありがとうございます』とか呑気に言ってのける。


 ヴィエルジュの試験が終了し、彼女が目の前にワープして現れた。


「これで無事にふたりとも試験は合格し、入学が決まりましたね♪」


 入学が確定したヴィエルジュが戻ってきた開幕一声は、超ご機嫌な声であった。


「なにもあそこまでしなくても良かったんじゃないか?」


 訓練場を見てみると、学校関係者達が急いで訓練場を修復していた。

 こうなることは予想外だったんだろうな。唐突な作業でみんな慌てふためいている。


「ふふっ。ご主人様に仕えるメイドですから。これくらいはしないと♪」


「おっそろしいメイド様だ」


 ヴィエルジュが、くるっと回れ右をする。


「試験は合格しましたし、他の受験者様を見ても仕方ありませんので行きましょう。ご主人様」


「それもそうだな」


 俺とヴィエルジュはふたり共、一次試験でアルバート魔法学園への入学を決めたのであった。


 あとで聞いた話だけど、これは異例中の異例らしい。そりゃそうだよね。あー、悪目立ちしちまってるなー。

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