第85話 この因縁に決着を(ウルティム視点)

 わたし、ウルティムと対峙しているのは魔神の呪いをかけてきた悪魔ケレス。


 時が動き出した瞬間の不意を狙ったが、流石は魔王よりも長くこの世界を生きているだけはある。


「勇者マリンの時代よりは腕を上げたみたいだ。流石は魔王を倒した勇者一行のひとりといったところか」


「くっ……」


 相手の攻撃をなんとか受け止めつつ反撃をするが、相手は難なくとわたしの攻撃をかわす。


「ふはは! 魔王如きを殺した程度で良い気になっていたか。我は魔王をも超える存在だぞ」


「ふっ。お喋りが過ぎる。所詮はのらりくらりと逃げ延びた魔物風情。悪魔と呼ばれて良い気になっていたのはお前の方だ」


「口が達者になったな。我の呪いを受けてひよっていたのがウソのようだ。どうだ、今一度魔人になるか?」


「!?」


 またあの呪いをかけてくるのか。


 嫌な記憶が一気に蘇る。


 チラリとマスターと戦っているアルブレヒト王の方を見ると、なんとも禍々しい姿をしていた。


 またあんな姿になったらわたしは……。


 マリン──ッ!


「隙だらけだぞ。おらああ!」


「きゃ!」


 相手の強攻撃が放たれた。なんとか防御したが、その反動で武器が吹き飛ばされてしまう。


「もろいもろい。勇者一行といえど精神力は赤子同然よのぉ。少し揺さぶっただけで武器を手放すとは。それでも騎士団長と呼べるのか? まぁ呪いをかけてやった時の悲鳴は王女そのもので愉快であったがな。ふはははははは!」


 そうだ。わたしは所詮、ひ弱な王女。騎士団長だなんて名乗っているがただの弱い王女なんだ。


 マリンがいないとなにもできない。マリンのいない時代のわたしなんて、ただの足手まとい。


「今度は呪いではなく、ちゃんと殺してやるぞ。アリエス。死ねい!」


 この時代にいる資格なんてわたしには──。


「ウルティム! 避けろ!」


 GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!


 マスターの叫びと同時にドラゴンが飛び出した。


「な、なんだ!?」


「あれは……」


 マリンの幻覚魔法。ドラゴンの幻覚がケレスと対峙する。


「う、うおおおおおお! ドラゴンめ。どこから現れた。まさか、まさか、まさか。あの小僧がドラゴンを従えたというのか? そんなバカな」


 ケレスが相当動揺している。


 目の前にいるのは間違いなく幻覚。しかし、ネタを知らなければドラゴン同然。


「く、くく。良いだろう。ドラゴンなど今の我にはなんの脅威でもない。すぐに始末し、その後でこの世界を我のものへとしてやろうぞ」


 幻覚と戦おうとしている姿は、ネタを知っている側からすると滑稽な姿である。


 だが、これはチャンスとも言えよう。


「ウルティム!」


 マスターの声が聞こえてくると同時にわたしが使っていた剣が投げ渡される。


「そいつでウルティムと悪魔の因縁を断ってやれ!」


「これで、わたしと悪魔の、因縁を……」


 そうだ。わたしの人生は……。


 マスターに言われてわたしは剣を構える。


 彼の言葉を受けてわたしの力は無限に湧いてくる気がした。


 そうだ。なにがあっても大丈夫。わたしにはマスターがいるじゃないか。なにを恐れることがあったのか。


「ドラゴンめっ! 砕けちれ!」


 ドラゴンへ攻撃をしたケレスの攻撃は空を切った。


「なっ、幻覚……だと?」


「はああああああ!」


「くっ……アリエスっ!!」


 わたしの剣が悪魔の首を斬った。


 首と体で分かれた切断部分から、噴水のように血が溢れ出し、わたしは血の雨を浴びてしまう。


「ば、かな……。我は魔王よりも、強き存在、だぞ」


「お前には感謝している」


 剣を構え、悪魔の方を見る。


「お前がわたしに呪いをかけたから、マリンと出会えた。リオンと出会えた。仲間達と出会えた。お前には少なからずの感謝がある」

 だから。


 私は剣を悪魔の顔面に突き刺した。


「安らかに眠れ。ケレス」


「げふっ!」


 醜い声を出して悪魔は灰となった。


「終わった……」


 あれほどまで苦戦していた悪魔に、魔物に、呪いに──。


 思っているよりも随分とあっさり終わってしまった。


 自らの手で因縁を断った実感はない。


「ウルティム。やったな」


 グッと親指を突き立ててくれるマスターを見て、ふつふつと込み上げるものが出て来てしまう。


「マスター」


 堪えられなくなった感情を隠すようにマスターに抱きつく。


「おっと……。ウルティム?」


「しばらくこうして」


「……わかった」


 マスターがわたしの頭を撫でて来れる。


 その優しい手の感触で、改めてわたしは呪いから解放されたのだと実感できた。

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