第84話 二回死ね
「どうした。リオン・ヘイヴン。アルバートを救った英雄というのはこの程度なのか」
「くっ……」
先程から防戦一方になっちまっている。ドラゴンの杖に魔力を送って、なんとか攻撃を防いではいるが、反撃の隙が見当たらない。
こいつは強い。ジュノーやバンベルガとは格が違う。さっさと終わらせてウルティムの援護に行きたかったが、そうもいかないみたいだ。
チラリとウルティムの方を見る。あっちも苦戦しているみたいだ。
「よそ見をしている場合か?」
「──ッ!?」
魔人化しちまったから魔力を感知できず、ギリギリで避ける羽目になる。相手の攻撃が頬をかすり、微量の血が出ちまう。
こりゃ、ウルティムと対峙した時よりきついかもなぁ。
「ふふふ……。ふはは! 弱い。弱すぎるぞ。リオン・ヘイヴン」
「そりゃ、俺はもともと引きこもり希望だからな。強くなることなんて求めてねぇよ」
「そうか。では、お前の要望通り、永遠に引きこもらせてやる。──地獄という場所になっ!」
強力な攻撃が来る。こりゃ杖じゃ受け止められないな。一か八かで避けてみるか。
感覚を研ぎ澄ませろ。魔力だけに頼るな。ウルティムの時は結局、魔力に頼っていた。今回は頼れないぞ。相手の攻撃を見極めろ。
これまでの経験を活かし、タイミング良く避けようとした。
「──なっ!?」
「ここだっ──へ?」
間抜けな声が出ちまった。
目の前の魔人と化したアルブレヒト王が今、まさに攻撃しようとしているところで固まっている。
「こ、これは……!?」
「私が陛下の動きを止めました」
振り返ると、涙を流しながら立ち上がっているエリスさんの姿が見えた。その本は聖なる光を帯びて輝いている。
「ホネコ様にも私の魔術が効くことは実証済みです。魔人となってしまった陛下にも効くことは確証を得ていました」
「エリス、貴様……!」
「私は陛下に感謝しておりました。両親を亡くしてひとり路頭に迷っていたところに手を差し出してくれた。王族なのに気さくで優しくて。私は将来、あなたみたいになりたいとも思っていた。あなたが私の全てだった。だから、あなたの言う事は正しいとさえ思えた。でも、違うのですね。あなたは私の産みの親を殺し、育ての親も殺した。許しません」
「平民風情に手を差し出してやったの恩を忘れたか」
追い込まれた人というのは脳がバグるらしい。例え真実を自ら話しても、追い込まれてしまった場合都合の良いことを口走る。
こう考えると、魔人と化してしまっても所詮は人間。心まで魔人になるものではないらしい。
「リオン様。私の産みの親の屈辱。育ての親の屈辱。そして、私の屈辱。全てを晴らしてはくれませんか?」
「エリスさん……。わかりました」
「リオンさん」
エリスさんの言葉の後にホネコがやって来る。珍しく真剣な顔をして俺に触れて来る。
「ホネコ?」
「この場所はわたくしのお父さまとお母さまが眠る場所。わたくしの力でさっさと終わらしてください」
彼女の手から熱が伝わってくる。すると、なんだか力がみなぎる気がした。
「身体強化の魔術です」
「お、おお……!」
イメージで言えば、筋肉が膨張しているかのような感じ。見た目には変わっていないが、そこらのマッチョより力がある気がする。
「カルシウムたっぷりですよ♪」
「ホネコなだけに?」
「はい♡」
「この状況でボケるとは流石ホネコ。陽気過ぎるだろ」
だけど、これなら──。
俺はドラゴンの杖を構えた。
「エリスさん両親達の屈辱。ホネコの両親の眠る場所を荒らした罪。その身で償ってもらう」
「良い気になるなよ小僧が。こんな魔術、すぐに──」
威勢だけは良いみたいだ。口だけで身動きは取れていない。エリスさんの怒りの魔術は簡単には解けない。
「一撃で全てを断ってやる」
「なっ。くっ……。ま、待て、リオン・ヘイブン。俺は王族だ。欲しいものを言ってみろ。なんでもやるぞ」
「お前の命だよ」
自分が光になったみたいな速度で、アルブレヒト王を杖で斬った。
簡単に真っ二つになったアルブレヒト王は上半身と下半身に分かれてしまった。
上半身の方がエリスさんの方へと飛んで行く。
「が、ふっ……。ばかな……」
「陛下……」
「エリス……。回復魔術を。回復魔術を……」
「……」
「なにを迷っているのだ。平民如きのお前を、俺が育ててやったんだぞ。早くしろ」
エリスさんは黙ったまま、『ヒーリング』を唱えた。
「お、おお。よくやった。さぁ、もっとだ。もっとヒーリングを」
「陛下。あなたの罪は一度の死なんかじゃ足りないくらいの大罪です」
「な、なにを言う?」
「二回死ね」
『セイクリッド・パリケーション』
「ぐあああああああ! あああああああ! あがああああああああ! あああ……!」
断末魔の叫びを上げる魔人化した王は、助けをこうこともできずにそのまま浄化してしまった。
「これで償えたと思わないことです。このあと陛下の魂は地獄で償うこととなるでしょう。あなたみたいな魂が転生しないことを神に祈ります」
最後はエリスさんの手によって葬られたアルブレヒト王。こうなるべくしてなったという結末といえよう。
だが、まだ終わっていない。
ウルティムの方を見ると、まだ苦戦している状況であった。
「今、加勢するぞ」
「リオンさん。待ってください」
現場に急行しようとした時に、ホネコに止められる。
「あの悪魔には弱点があるとお父さまが言っておりました」
「弱点?」
「ええ。確か、爬虫類が苦手とかなんとか。それでもしもの時に備えて屋敷にとかげとかやもりとかヘビとか飼っていたのですよ。ですが、結局、時を止めるという強行に出ましたが」
「それって当時の話だろ。もうその爬虫類もいないだろ」
「リオンさんの話ではその杖からはドラゴンが出たとか」
「……いやいや。ドラゴンって爬虫類なの?」
「やってみる価値はあるかと」
それはウルティムの邪魔にならないか。いや、彼女もドラゴンが出た瞬間は見ていたはずだ。
「ウルティム! 避けろ!」
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!
杖からはドラゴンが飛び出し、悪魔目掛けて飛んで行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます