第82話 いくつかの因縁
夏のイベントで攻略したダンジョンの近くに馬車を止める。
重量オーバーだったのか、シルバは逝ってしまわれた。
「あ、あの。このお馬様に回復魔術を施した方が良いでしょうか?」
「いい、いい。いいですよ、エリスさん。そんなの勿体無いです」
スケベな馬だ。帰りにヴィエルジュにでも撫でて貰えば復活すんだろ。
それにしても。
周りには俺達以外に人の気配も魔力もない。攻略済のダンジョンとはいえ、王族の外出にしては妙だ。俺もカンセル先生と同じ考えであった。軍隊まではいかずとも、小隊くらいは組んでダンジョンに来ていると思ったがね。
なんて思いながらダンジョンに向かうと、入り口に見覚えのある大男と小男が立っていた。
みんなで影に隠れ、ダンジョンの入り口の様子を伺う。
「流石に王様ひとりってことはなかったか」
「ご主人様、いかがいたしますか?」
「魔力はあのふたりだけしか感じない。でも、カンセル先生には先走るな的なことを言われたしな」
そういえば、あいつらって何者なんだろうか。
「エリスさん。あのふたりって」
聞くと申し訳なさそうに首を横に振られてしまう。
「アルブレヒトに暗殺部隊なんてあったのを知りませんでした。もしかしたら私が平民だから聞かされていないだけかもしれませんが」
「よぉ。ハーレム作ってピクニックたぁ、ガキの分際で生意気だな」
!?
どうやら気が付かれたみたいだ。
しかし、襲って来る気配はない。
バレているのに隠れている意味はないか。
俺達は素直に出て行くことにする。
「今からそこのダンジョンでみんなで弁当食うからどいてくれよ」
「あー、ダメダメ。ここから先は通すなって言われてるから。帰った、帰った」
シッシッと野良犬でも払うかのような仕草をされてしまう。
「暗殺部隊って割には堂々としてんだな」
「!? す、スール。なぜ、奴は我々が暗殺部隊だとわかった!? さては天才か!」
「おめぇがベラベラ喋ったんだよ、木偶の坊」
「我に催眠をかけて口を割らすとは大した男だ。流石は我が斧を受け止めただけはある」
なんか勝手に認められたんだけど。
「マスター。大男に認められた。流石はマイマスター」
「ウルティムさん。別に嬉しくないです」
こちらのやり取りを見て、小男が呆れた様子で言ってくる。
「あー、こいつのことは放っておいてくれ。見た通りの脳筋だ」
「今時、見たまんまのキャラっているんですね」
「なー」
あははと笑っている。この人達、そこまで悪者じゃない?
「さっきのお前の問いに答えるとだな。今時の暗殺部隊ってのは何でも屋みたいなもんになっちまったよ。金を積まれればなんでもするって感じのな」
やれやれと面倒くさそうにほうきを構えてくる小男に続いて、大男も斧を構えた。
「金を積まれた以上、ここを通すわけにはいかんのだよ。どうしても通りたいなら俺達を倒して行ってもらうしかないな」
なるほど。
「ホネコ」
「御意に」
「御意に?」
お前、そんなキャラじゃねぇだろというツッコミ入れる前に、ホネコは歩みを始めた。
くり色の長い髪の美女が大男と小男に近づいていく。
敵意は見えない。
「おじ様方」
「俺らは若手だ」
「うぬ」
そんな言葉を無視してホネコが続ける。
「ここはわたくしのお家です。あー、お家に帰りたいなぁ」
「なんとも個性的な家なんだな」
「帰りたい」
「ここが嬢ちゃんの家だとしても、ここを通すわけにはいかないんだわ」
「帰して」
「だめだって」
「かえして」
「しつこいぞ」
次の瞬間、ホネコが骨になる。
「返、し、て……。わた、くし、の、か、ら、だ……」
「「ぎゃあああ!」」
悲鳴を上げる自称若手の中年ふたり。抱き合っているところにヴィエルジュが魔法で氷漬けにする。
中年男性が恐怖で抱き合う氷の彫刻の出来上がりだ。
なんともまぁ醜い芸術なこって。
「さ、皆様。こうなってしまっては先に進むしかありません。行きましょう」
「容赦ねぇ」
そんなツッコミを入れながらみんなでダンジョンの中に入った瞬間。
パリンッ!
氷の彫刻が砕け散った。
「うらあ! なめんなよ、ガキ共!」
「中々やるようだの、そこの銀髪。我と勝負!」
あちゃー。ヴィエルジュが大男に目をつけられたか。
「はああ!」
バンッ!
氷を砕いたふたりがこちらに向かって来ようとしたところで、フーラが火の魔法をぶっ放してくれる。
「ここは任せて先に行って」
「フーラ。お前、それ死亡フラグだぞ」
「大丈夫。私は死なないよ。絶対にね」
「だからそれも死亡フラグだっての」
「ちょっと! カッコよく決めさせてよ!」
あ、フーラが折れた。カッコよく決めずにいつも通りになった。
「仕方ありません」
ザスッとヴィエルジュがフーラの隣に並ぶ。
「お姉ちゃんだけでは心配ですので私も残ります」
「ヴィエルジュ」
「たまには双子らしく協力プレイといきましょう」
「うん。そうだね」
「ヴィエルジュ、フーラ。ここは任せたぞ」
「はい、任されました」
「任されおー」
あのロイヤル双子なら中年若手の相手も余裕だろ。
なんの心配もせず、俺とウルティム。ホネコとエリスさんでダンジョン内に入って行く。
♢
後ろの方で大きな音が聞こえてくる。
ヴィエルジュとフーラが戦っているのだろう。
あの中年暗殺部隊も運が悪い。ロイヤル双子が相手とは……。
さて、あいつらの心配は無用ってわけで、ダンジョンの奥までやって来たのだが、アルブレヒト王の姿は見えなかった。
「エリスさん。冠の効果もアルブレヒト王に言ってしまいましたよね?」
「申し訳ございません」
責める気はなかったのだが、結果的に責めてしまったような形となり、エリスさんが頭を下げる。
ってことは中に入っちまったか。
「ホネコ」
「はい」
「もうホネ状態はいいぞ」
「この状態、楽なんですよね」
「いや、ダンジョンでホネがいると怖いんだよ」
「んもう。リオンさんは彼女にすっぴんを曝け出して欲しくないタイプなんですねぇ」
すっぴんとホネを一緒にすんなよ。
「仕方ありません。ホネコミラクル☆メイクアップ♡」
さっきまで魔女っ子みたいなポージング取らなくても変身していたのに、気分でも乗ったのかな。
とりあえずホネコが美女に早変わり。
「確かティアラもこの先の地下庭園に反応するんだよな」
「はい。お父さまとお母さま。どちらか一方だけでも入れるようにと」
「んで、そのティアラをホネコは?」
「持ってますよ」
「ん。じゃあ、頼むわ」
「りょーかいしました」
ホネコがティアラを掲げると、ゴゴゴゴゴゴとあの時と同じ音を立てて、壁が開いていく。
「陛下。なんでわたしを……」
不安そうなエリスさんの肩をポンっと叩く。
「エリスさん。おそらく残酷な答えが返って来るとは思いますが、決して絶望しないでください。大丈夫。俺達が付いていますよ」
「リオンさん……。はい、ありがとうございます」
とは言ったものの、王様から残酷な真実を告げれるとエリスさんが闇堕ちしちまう可能性は捨てきれない。注意は必要だな。
くいくいっと服の袖が引っ張られる。
見るとウルティムが珍しく不安そうな顔を見せてくる。
「マスター。この先にいるのって……」
「ああ。確証は得ないが、もしかしたらウルティムに魔人の呪いをかけた魔物の可能性はある」
「そう……」
短く言うと、いつもの無表情に戻る。
彼女はなにを思っているのだろう。
この中にはいくつかの因縁が潜んでいる。
「さ、行きましょうみなさん」
「ああ」
ホネコの合図に従って、俺達は地下庭園に足を踏み入れた。
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