第81話 やはり悪魔の復活を目論むか

 エリスさんを連れて一度、俺の部屋へと戻って来る。


「夏のイベントが終わり、陛下にあの魔法陣のことについて色々と聞かれました」


「全て喋ったと?」


 尋ねると、コクリと頷く。


「陛下は、両親が亡くなって路頭に迷っている中、救いの手を差し出してくれました。命の恩人とも呼べる方への質問に答えないわけにはいきませんでした」


 なるほどね。信用してる人ってわけか。


 俺だって、ヴィエルジュ達に速攻言ったから、その気持ちはわかる。


「魔法陣でのこと、ホネコ様のこと。冠のこと。全てを話終えた後、陛下は唐突に私の両親が本当の両親ではないと教えてくれました。本当にアルブレヒト公爵家の子孫のはずだと言って、冠はリオン様よりも私が持つべきだと」


 エリスさんの意思ではなくアルブレヒト王の差し金か。


「正直、陛下の様子がおかしいとは思いましたが、逆らうことなどできず。後はリオン様に接触し、冠を受け取ると殺されかけました……」


 彼女は自分で自分の身を抱き、震えてしまった。


「どうして、私は殺されそうになったのでしょうか……。どうして……」


 震える彼女をヴィエルジュが優しく抱きしめてあげている。


 勝手な予想だけど、エリスさんに利用価値がなくなったからだろうな。


 このタイミングで彼女の利用価値がなくなるというのはどういうことか。最初から冠を狙っていたか。それとも、ある目的を達成する中でエリスさんではなく冠が必要となったからか。


 エリスさんは全てを喋ったと言っていたな。だから、向こうは冠の効果は知っているはずだ。


「悪魔の復活を望んでいるのか」


 ふと、声に出してしまうと、ヴィエルジュがその声を拾ってくれる。


「悪魔というのは、ホネコ様達へ魔人の呪いをかけたという?」


「いや、まだわかんね」


 ただの予想に過ぎない。憶測で物事を考えるのは良くない。


「リオンの予想は当たってるかもな」


 それまで冠にかけた遠隔魔法で相手の声を聞いていたカンセル先生がこちらの会話に混ざる。


「さっきから向こうさんの話を聞いてる限り、『ダンジョンに向かう』だの、『これで長年の計画が実行できる』だの言ってるからな」


 暗殺部隊とは……。


「あ……」


 カンセル先生が声を漏らした。


「どうかしましたか?」


「声が聞こえなくなった。もしかしたら遠隔魔法に気づかれたのかも」


「でも、次になにをするかわかりましたね」


 冠を奪って、ダンジョンに向かうって言うんだったら、イベントで行ったダンジョンに向かうのだろう。


「俺達も向かいましょう」


「いや、待て。相手は王族だ。もしかしたら軍隊で乗り込む可能性だってある。俺は一旦、アルバードに戻って戦力を整えるから、それまで待機してろ」


 流石はアルバート魔法団第二部隊隊長様だ。適格な指示と言える。


「良いか? フーラ達が来ても大人しくしてろよ?」


 先生。それはフラグですよ。




 ♢




 翌朝、宿の前には馬車が止まっていた。


「あれは、シルバ!」


 ヴィエルジュが馬車に駆け寄る。


「ひ、ひーん……」


 相変わらず死にかけになってんなシルバ。これならバンベルガの馬だった時の方がマシだったのではないだろうか。でも、美少女達に構ってもらえるからか、心無しスケベな顔をしていた。


「おっはよ。みんな」


 馬車から出て来たフーラが、いつもより声を弾ませて挨拶をしてくれる。


「おはようフーラ。……その大きな荷物はなんだ?」


「これ? えへへー。なんでしょうか?」


「あー。そこまで興味ないからいいや」


「興味持ってよ!」


 安定のやり取りを終え、次にウルティムが降りてくる。


「おはよ」


 ウルティムの挨拶はいつも通りであった。


「おはよ、ウルティム」


「マスター。これ」


 そう言って渡して来たのはウルティムを封印していた剣であった。


「使うと思って」


「もしかしたら必要になるかもな。ありがとウルティム」


 頭を撫でると、ネコみたいに気持ち良さそうな顔をしてくれた。


「あれ? ホネコはどったの?」


 この流れなら次はホネコが馬車から降りて来ると思うんだけど、全然降りて来ない。


 キョロキョロとしていると、フーラの荷物がもぞもぞしているのがわかった。


 そして、次の瞬間。


「バァ!」


 フーラの荷物の中から骨と化したホネコがこちらに抱き着いてくる。


「サプラーイズ!」


「固っ!」


「いかがです? いかがです? びっくりしました? 怖かったですか?」


「痛い。離れろよ」


「まぁ。嫁に対してなんという言い方でしょう」


 ホネコがそんなことを言ってのけると、ビクッと震えだした。


「ホネコ様。嫁とは?」


 振り向くと、ヴィエルジュがなんともまぁ美しい笑みを浮かべて立っていた。


「い、いやー。嫁、嫁、嫁……。米? あー、はい。米騒動。米騒動」


「意味不明です!」


「ぎぃやああああああ! 逝くうううううう! なんでヴィエルジュ様が魔術を使っているのですか!」


「そんなことよりも早くご主人様から離れなさい!」


「逝っちゃう。ホネコ、本気で逝っちゃう……あ……♡」


 チーンとホネコがガクリとすると、くり色の長い髪の美女に切り替わった。


「ふふ。どうです? 骨から美女になったわたくしの感触♡」


「正直、最高です」


「天誅!」


 俺とホネコは氷漬けにされてしまった。




 ♢




 フーラの火の魔法でなんとか氷漬けを解消してもらい、本題に入る。


「これからどうするの?」


 フーラが質問してくる。


「カンセル先生は戦力を整えるって言ってたが……。正直、そんなことをしている間にも向こうは動き出しているはずだ。目的地はわかっているんだ。無理しない程度に偵察くらいはしておいても良いと思う」


「リオンくんがいるし、大丈夫だよね」


 フーラの言葉に、他のメンバーも頷いてくれる。


「じゃ、馬車でダンジョンに向かうか」


 無理しない程度にね。


「あ、あの!」


 それまで黙っていたエリスさんが唐突に大きな声を出す。


「私も、連れて行ってくれませんか? 元々は私がしでかしたこと。なにかお役に立てると思います」


 そもそも彼女は利用されていただけだ。俺達を陥れようとは思っていないだろう。


「行きましょう」


 手を差し伸ばすと、彼女は覚悟を決めて俺の手を握ってくれた。

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