第78話 アルブレヒト回復学園へ潜入
「アルブレヒト回復学園とは。
魔術に長けた将来有望な人材が集まる学園です。
魔術は主に傷を治すものに特化しておりますが、あくまでも治癒。人を蘇らせる魔術は存在しません。
その他に人のパワーやスピードを一時的に向上させる魔術もあります。
大昔には時間や空間を操る一族もいたという話ですが、現代ではその一族は滅んだとされております」
「ヴィエルジュさん。わざわざ眼鏡をかけてまでの説明ありがとう」
「可愛いです?」
「とてもよくお似合いで」
「えへへ。ありがとうございます♪」
アルブレヒト回復学園に簡単に潜入できた俺とヴィエルジュ。
簡単に潜入と言っても交換留学って名目だから、俺達は今日から少しの間はアルブレヒト回復学園の生徒となる。
ま、制服はアルバート魔法学園なんだけどね。やたらと悪目立ちしちまうよ。
そんな訳で、少しの間だけどお世話になる先生に学園内を案内してもらっていた。
後ろに引っ付いて歩いているだけだと暇なので、ヴィエルジュがどこからか出した眼鏡をかけてちょっとした雑学を疲労してくれたってわけ。
「学園の名目としてはアルバートとステラシオンと変わりないな」
「ええ。ですが、アルブレヒト回復学園はより実力主義なところが大きいようです。アルバート魔法学園とステラシオン騎士学園と比べると平民出身の方が多いそうです」
「ふむ。そうなるとエリスさんが平民の身でありながらアルブレヒト回復学園にいるってのはなんらおかしくないってわけね」
「そうなりますね」
スタスタと歩いている足が部屋の一室で止まると、学内を案内してくれていた先生が振り返って来る。
「学園長先生に挨拶をしましょうか。本日は学園にお見えになっていますからね」
学園長先生。つまりはアルブレヒト王。
一度会って挨拶をしたが、優しそうな人という印象だ。
コンコンコンと先生がノックをすると、「入りたまえ」と声が聞こえてくる。
「学園長先生。交換留学生を連れて参りました」
「ご苦労だったね」
アルブレヒト王がこちらに寄って来る。
威厳のある顔付きの奥に優しいオーラを感じる。魔力を抑えて威圧しないような気遣いは、今は王ではなく学園長だと言わんとする行動だね。
「リオンにヴィエルジュ。シュティア学園長からふたりの活躍は聞いている。この学園で多くを学び魔法学園で活かして欲しい」
ふむ……。かなり歓迎的だな。なにかを仕掛けて失敗したという雰囲気なんて皆無だ。
「これほどまでに貴重な時間を頂き、誠に感謝いたします」
こちらがアルブレヒト王のことを考えていると、隣ではいつも通りにヴィエルジュが挨拶をしてくれた。慌てて俺も続いて頭を下げる。
「楽にしなさい。短い間とは言え、ふたりは我が学園の生徒だ。気負う必要はない」
そう言えば、初めての顔合わせの時にもフランクにそんなことを言ってくれていたな。
「そう言えばリオン。あの魔法陣から出て来たくり色の髪の美女だが、あれから様子はどうだい?」
くり色の髪の美女ってのはホネコのことだろう。
「元気ですよ」
どう答えて良いかわからなかったので、彼女の様子をそのまま伝える。
「そうか。いやなに、急に魔法陣から出て来て気になったものでな。シャティア学園長からは、リオンに懐いているようだからアルバートで話を聞くと言われてしまってね」
そりゃ気になるわな。俺だっていきなり魔法陣から美女が出て来たらビビる。
「なに、元気ならなによりだ」
ふむ……。追及はしないか。本当にちょっと気になったってところか。
今は怪しい感じはしない、かな。
♢
学園長室から俺達が学ぶ教室へと移動する。
「ヴィエルジュはどう思う?」
こっそり先程のアルブレヒト王のことを尋ねる。
「今のところは交換留学生に対して歓迎してくれた学園長という印象しかありませんね」
「だよなぁ」
「魔力はどうだったのでしょうか? 以前、人間に化けた魔物もいたことですし、その可能性があるのでは?」
「んにゃ、ちゃんと人間の魔力をしていたよ。高過ぎる魔力を抑えて俺達を威圧しないような気遣いのおまけ付き」
「ただただ好印象な学園長ということですね」
「ウチの学園長とは大違いだ」
「ふふ。そうですね」
笑いながら歩いていると教室に着いたみたい。
先生がここで待っててと言い残して先に教室の中に入って行った。
「本日は交換留学生を二名紹介します。では、入って来てください」
定番の転校生の紹介みたいな形で俺とヴィエルジュは教室内に入って行く。
アルバート魔法学園と同じような教室なんだけど、違う制服の人達が座っているだけで全然違って見える。
心なし全体的に綺麗に見えるのは隣の芝生は青い現象なのかもしれないね。
とか思っているところでクラスがざわめく。
『あいつは……アルバートの脳筋』
『なんで交換留学生が魔法を使わない奴なんだ』
『なにか企んでいるのではないだろうか』
『隣の女の子かわええ……』
『やべぇ。アルバートにあんな子いるとかズリぃ』
『でも、アルバートの女はやばいだろ。フーラ王女とか』
『あいつはヤバかったな』
フーラ。お前来なくて良かったな。アルブレヒトでヤバい奴認定されてるぞ。
「リオン・ヘイヴンです。短い間ですがよろしくお願いします」
適当な自己紹介をすると、パチパチとまばらな拍手が送られる。
キョロキョロと教室内を見渡すと、エリスさんの姿が見えた。教室の隅にいる。
目が合ったので手を振ると、ペコペコとお辞儀をされる。
手筈通り、エリスさんと同じクラスに入れたようだ。
ちょっと心配してたんだよね。学園長のことだから、違うクラスに入れるとかしそうだし。
「ヴィエルジュです。よろしくお願いします」
こちらがエリスさんを見つけていると、ヴィエルジュも自己紹介を終えたところであった。
ヴィエルジュは俺よりも大きな拍手をもらっていた。そりゃこんだけ可愛い子がクラスに来たら嬉しいわな。
「ふたりの席は……エリスさんの近くが空いているから、そこでお願いします」
先生の指示に従い、俺とヴィエルジュはエリスさんの近くとなった。これもウチの学園長のおかげかな。
……いや、たまたまだな。うん。ウチの学園長にそんな気遣いはできん。
「よろしく。エリスさん」
「よろしくお願いします。エリスさん」
俺達ふたりの挨拶にエリスさんは、「えとえと」といつも通りにきょどっていた。
あー。やっぱりこの人がなにか企んでるとかありえんな。
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