第77話 久しぶりの出番はテンションが上がる

 自らだるい案件に足を踏み込んでしまった気がするな。


 でも、エリスさんが疑われているのなら潔白を証明してあげないと。


 到底、なにかを企めるような人じゃないと思うからな。


 しかし、そうやって見せかけて王様と共に仕掛けるというのもあり得るのか。


 ぽむぽむぽむ──。(思い出されるエリスさんのダサダサエピソード)


 あ、はい。ありゃなにかを企むなんて無理だわ。短い時間でこんだけダサいエピソードが出て来るんだもん。なにかあったとしても、王様に利用されてるだけだわ。


 そんなことを考えながら、教師連中が泊っている宿から学生達が宿泊している宿に戻って来る。


 学園長先生から学園に潜入捜査とか言われたんだけど、流石に誰かサポートを付けてって申し込んだ。そういうことならひとりだけたったら良いと許可をもらった。


 なんか今回の学園長ちょっと優しい気がするんだけど、気のせいかな。


 しかし、学園に潜入なんてどうするのやら。そこら辺の詳細はまだ話せていない。


 後日、指示があるのだろうけど、学園長のことだから不安しか残らない。


 そんな話をしていたもんだから夜も深い時間になっていた。


 みんな自室に戻っている。宿のラウンジは静かなものだ。


 だからだろうね、タンタンタンという足音がこちらまで聞こえてくるってのは。


「こ、うで、こう──」


 ラウンジの窓を鏡代わりにフーラが謎ステップを披露していた。


 彼女に近づくが、こちらには気が付いていない様子。こりゃどう声をかけてもびっくりするだろうな。


「ここで──」


「盆踊りの練習か?」


「ひゃっ!?」


 声をかけると案の定な悲鳴を上げながら肩を上げた。


「リオンくん。驚かさないでよ」


「ごめん、ごめん」


「まぁ、さっきの状況だったらどう声をかけられても驚いていたからさ。無視されるよりは嬉しいんだけどね」


 ニコッとアイドルスマイルひとつ投げてくれると、すぐに不服そうな顔になる。


「いや、というか盆踊りの練習じゃないから」


「おおー。時間差ツッコミ。流石は芸人フーラ。ツッコミの種類が増えている」


「えへへー。そうでしょー」


 嬉しそうにVサイン。からの怒った顔になる。


「誰が芸人だよ! 王族だよ!」


「今日もツッコミが冴えわたるねぇ」


「誰のせいだと思ってんのよ! てか、盆踊りの練習じゃないから!」


 ツッコミをしながら話題を修正するフーラ半端ない。


「あはは。わかってるよ。ダンスの練習だろ」


「わかってるなら意地悪言わないでよね」


 口を尖らせて拗ねたような顔をする。王族なのに表情豊かな女の子だな。


「でも、なんでダンスの練習? もうイベントは終わっただろ」


 聞くと、「うっ」とボディブローを受けたような声を出す。なにかまずい質問だったのだろうか。


「……から……」


「ん?」


 蚊の鳴くような声で言って来るもんだから、なんて言ったかわからなかった。


「みんなに笑われて悔しかったから!」


「あー……」


 そういえば散々いじられまくっていたな。それも王族とは思えない程にたっぷりと。


「別にいじられるのは良いけど、私だって気持ち良く踊りたいからさ」


 それに……と視線を外しながら小さく言って来る。


「リオンくんとも、踊りたい、から……」


 そんなことを言われて嬉しくない男子がいないわけがない。


 俺は右手を彼女へと伸ばす。


「だったら、今、踊りますか? お姫様」


「え……」


 こちらのお誘いに少し戸惑った顔をしてみせたが、すぐに満面の笑みを見してくれる。


「はい」


 フーラは素直に俺の手を取った。


 そこからラウンジで行われたダンスパーティはヴィジュアルだけ見れば豪華なもの。


 その実、俺の足が踏み倒されて悲惨なものであった。




 ♢




「ありがとうリオンくん」


「ども……」


 こりゃアルブレヒトの連中が不正と騒ぐのも無理はない。俺の足、めっちゃ痛いもん。


 でもまぁ、随分と満足そうな顔をしてくれるフーラの笑顔を見ると、俺の足くらいあげても良いと思っちゃうな。流石王族。笑顔が可愛いわ。


「そういえば、学園長先生とのお話って長かったんだね」


「まぁな」


「なんの話をしてたの?」


 フーラには事情を話しても良いかな。別に隠すことでもないし。


 俺は学園長とカンセル先生とした話をフーラにも話した。


「──そう、だったんだね」


「潜入捜査とかどうすんだって話だけどな」


「あ、それなら大丈夫じゃないかな。アルバートとアルブレヒトでは頻繁に交換留学が行われているからね」


「へぇ。そうなんだ」


「ほら、魔法と魔術って似ているけど違うものじゃない。魔法を知ることで魔術が進化したり、魔術を知ることで魔法が進化したりするって昔から言われているんだよ」


「今回は交換留学って形で俺をアルブレヒト回復学園へ潜入させるってか」


「そんな例はリオンくんだけだと思うけどね」


 それで、とこちらに少々の期待を込めて見つめて来る。


「もうひとりのサポートってのは誰が行くの? もしかして私?」


「ふっ」


「鼻で笑われたんですけど」


 そんなことを言いながらフーラも明るく笑ってのける。


「リオンくんと潜入って楽しそうだけど、私には向いてないよね」


 フーラはど真ん中のストレートタイプだからこういうのは苦手だ。本人も気が付いているみたいだね。


「それじゃあ誰と行くの?」


「ああ、それは──」


 ガシっと俺の肩に柔らかい手が乗った。


「私ですよねぇ? ご主人様」


 振り向くと、それはそれは美しい女性が俺の肩を力強く握りしめていた。


 魔法なしの威力とは思えないんだけど。あっれ、きみ、そんなに握力あったっけ?


「お、おい。ヴィエルジュ?」


 今の話を聞いていたみたいだね。更に強さが増して行く。


「おかしいな。すげー痛い」


「これで私を連れて行かないとご主人様の肩が消えます」


「肩が消えるとか怖すぎるだろ」


「だったら簡単です。私を連れて行くと言えばよろしいのです」


「連れて行きます」


「さぁ早く──え?」


「最初っからお前とふたりで行くに決まってんだろ。潜入捜査だなんてやばいミッション、お前のサポートなしだったら無理ゲーだろ」


「え、ええっと。ほんと?」


「なんちゅう反応してんだよ」


「い、いえ……。最近、出番が少なすぎていつもどんな反応していたか忘れてしまいました」


「頼むぞ。お前のことを一番信用してんだから」


「は、はい。──えへへ♡ やった……♡」


 ヴィエルジュが小さく喜んでいるところで、フーラの手を取って走り出す。


「さ、お姉ちゃん。こうなっては色々と忙しいです。部屋に戻りますよ」


「あんた、謎にテンション上がってお姉ちゃん呼びになってるわよ」


「なんでも良いのです。さ、行きますよ」


 ヴィエルジュが張り切って部屋に戻って行った。


 準備といっても、まだ先の話なんだが……。


 まぁ久しぶりの出番でテンションが上がったんだね。

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