第76話 アルブレヒトの疑惑
ヴィエルジュの尋問が終わり、一段落したなぁと思っている矢先に学園長に呼び出されてしまったよ。
あの地雷系メンヘラ女に呼び出されて良い事なんてあったこともなし。ぶっちしてやろうかと思ったけど後々面倒なことになりそうだし、素直に従うことにした。
学園長とは宿泊している宿が違う。学生が泊っている宿と比べてグレードが高い。
あーやだなぁ。社員旅行の宴会で散々お酌した後に偉いさんの部屋に行かないとだめなテンションに似てて気が重い。
学園長が泊っている宿の部屋をノックすると、「どうぞ」と声がしたのでドアを開ける。
「失礼します」
最低限の礼儀を放ちながら中に入ると、こりゃまた凄い部屋に泊まっているもんだ。これがスィートルームってやつかね。無駄に広い。
「来たか、リオン」
部屋のソファーに座っている学園長先生がバスローブでワイングラスをくるくると回してお出迎え。
なぁんか様になってんなぁ。なんだかんだ凛とした美人だし、アダルティな雰囲気ってのを感じる。
ん? あれ、隣に座っているのはカンセル先生じゃん。
「なーる」
「おい、ちょっと待てリオン。お前はなにか勘違いをしてねぇか?」
カンセル先生の言葉に、「滅相もない」と否定する。
「わかっていますよ。学園長先生とカンセル先生がそういう関係だって」
うんうん。学園長先生もいつまでも叶わぬ恋に恋する乙女のお年頃じゃいけないって気が付いてくれたんだね。ようやくヘイヴン家がメンヘラストーカーから解放されるんだ。
「ありがとうございます。カンセル先生」
この雑食のチャラ男に頭を深々と下げてお礼をしなければならない。
「この野郎、勘違い一直線だな」
「なんだカンセル。私のことが好きなのか?」
「そんなわけないっしょ」
「ふっ。お前も顔は悪くないが少々今時風でチャラチャラしている。なによりも頼りない」
「なんで俺が振られた感じ出てるの?」
「それに比べてレオンは……」
学園長先生はさっきまでの凛とした表情が、ふにゃっと崩れる。
「ああーん♡ レオーン♡♡ 抱いて欲しいぃぃぃ♡♡♡」
なんか急に気持ち悪い発言しているんですけど。
俺帰って良いですかね。良いですよね。
「おつかれっしたぁ……」
そそくさと帰ろうとするとカンセル先生が慌てて止める。
「待て待て。今日はマジな話あっから」
「マジのやつ?」
「マジのやつ」
「チャラ男って会話の頭にマジって付けるよね」
「人類は大体頭にマジって付けるよ」
「……確かに」
結構誰でも頭にマジでって付けている気がする。とかそんなのはどうでも良い。
学園長先生ならともかく、カンセル先生もいるならマジな話なのだろう。
俺は向かいのソファーに座って先生達の話を聞くことにする。
「学園長先生。戻って来てください」
「はぁぁぁ……あー、目の前に若い頃のレオンがいりゅぅぅぅ♡」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。おそらく酔ってんだろうな。つうか酒弱いなら大事な話の前に飲むなよ。やりたい放題か。
呆れたカンセル先生がため息を吐きながら本題に入った。
「リオンを呼び出したのは他でもない。あの魔法陣についてだ」
ここまでマジの話に行きつくまで長かったなぁとか思いながらカンセル先生に答える。
「俺とエリスさんが巻き込まれた魔法陣ですよね?」
「巻き込まれた、ね……」
先生は意味深に呟くと、そのまま俺を真っすぐに見てくる。
「単刀直入に言うわ。あの魔法陣はアルブレヒト代表のエリスが仕掛けたものではないかと疑っている」
「え?」
あの魔法陣の真相を知っているからこそ、なんともまぁ間抜けな声が出ちまう。
「いや、まぁ、色々あってな。あの魔法陣を使ってリオンに──つうか、アルブレヒトがステラシオンとアルバートに危害を加えようとしたんじゃないかって話も出てる」
「カンセル先生。それは違います。あれは……んー。なんて説明したら良いか……」
腕を組んでどう説明しようか悩むな。
「少なくとも、そういう魔法陣ではないです」
「まぁ実際に魔法陣に巻き込まれたリオンが言うなら違うんだろうなぁ」
「簡単に信じてくれますね」
「俺もそんな気はしてたからな。魔法陣が及ぼしたのはエリスの髪型が変わったのと、ひとりの女性が現れたってことだ。そのひとりの女性が出て来たって部分は大層なこったが、ステラシオンとアルバートを陥れるための魔法陣ではないっては薄々感じていた。ま、一応、本人の口から聞かないと上も納得しないからこうして来てもらったってわけよ」
あー。憶測じゃなくて、実際に魔法陣にかかった本人の証言をもらわないといけないって感じか。大人って面倒だよね。
「それで先生。色々って? またなんか調査でもしているんです?」
尋ねると、「んぁー。まぁリオンには知る権利があるか」と呟きながら教えてくれる。
「そもそも今回のイベントはアルブレヒトで行われる予定はなかったんだ」
「え、そうだったんですか?」
「ああ。今年はアルバートの年なんだが、アルブレヒト王が強引に自分の領地でイベントを開くことにしたんだよ。ま、ウチの学園長が言い負かされたってのはあるけどな」
カンセル先生が言ってのけると、「違うもん!」と幼い子供の言い訳みたいに学園長が横から入って来る。
「あんなのずるいもん!」
「相手は王様ですもんねぇ」
王様兼学園長って肩書は強いのかもしれないな。
「なんで王様しながら学園長の仕事できるのよ! 普通できないから! 学園長って忙しいから! 無理だから!」
言い負かされたことがよっぽど悔しかったのか、があああああっと溜まっていたものを吐き出している学園長先生。なんだか嫌味な上司の愚痴を言うキャリアウーマンみたいだな。
「ま、まぁ、正直に言うとアルブレヒト王は色々と怪しんだよ。王様をしながら学園長をしていることもそうだし、今回の代表の決め方も無理やりだったみたいだぞ」
「そうなのですか?」
「ああ。平民であるエリスをゴリ押ししたって噂だ」
ふむ。本人からは本からペガサスが出たから選ばれたと聞いたが……。
「アルブレヒト王とエリスが組んでなにかを仕掛けたって思っているんだが……。リオンの見解はどうだ? エリスと一緒にダンジョン攻略をしてみて」
「うーん。エリスさんがねぇ……」
共に行動した時間は少ないが、なにかを企てるようなことができるような人ではなかったよな。
──いや、待てよ。
エリスさんは平民のはずだ。
それをホネコの両親が自分達の子孫かもしれないと言っていたな。ホネコの両親は公爵家の人間だった。
それなのに子孫かもと発言をする。
エリスさんは平民を装った貴族なのか。
あくまでも憶測だけど……。
「なにか思い当たる節でもあるか?」
「気になることがあります。アルブレヒト回復学園を少し覗いてみたいですね」
そう言うと、カンセル先生より先に学園長先生が答える。
「やるなら徹底的に。学園潜入捜査よ、リオン。あの王様へ一撃食らわしてきなさい!」
学園長先生が成績を餌にせず、普通にそんなことを頼むなんて、相当ネッチョリ言い負かされたのだろうな。
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