第73話 脳筋一族より骨一族の方が足が速い

 洋館内を走る、走る、走る。


 書庫を出て、脳筋一族自慢のダッシュを披露しているんだけど──。


「BORYYYYYY!!」


「ガイコツ戦士(ティアラ)の足がはええええええ!」


 肉がないからか、俺よりも足が速い。


 ガリ勉アルバートの連中なんて比にならないスピードだ。こりゃいつか追いつかれるな。


「ホネコおおおおおお! ヘルプ! ヘルプだああああああ!」


 洋館の廊下を叫びながらスプリントよろしくのダッシュ。体力なんて考えてる暇はなし。


 なんとかホネコとエリスさんがいる部屋の近くに戻って来ると、髪を切っていた部屋からホネコが出てくる。


「もう、リオンさん。お家で叫びながら走ったら、めっ、ですよ」


「言うとる場合か!」


 俺がガイコツ戦士(ティアラ)を連れて来ると、ホネコは目を細めた(気がした)。


「もしや……お母さま!?」


「お母さん!?」


「はい。間違いありません。あのティアラはお母さまが肌身離さず身に付けていたものです」


 ホネコが言うのなら、あれは彼女の母親なのだろう。


「お母さま……! 生きて、生きてらっしゃったのですね!」


 マッハで走るガイコツのことを生きていると言えるのだろうか……。


「お母さま! わたくしです! ホリーです!」


 ホネコは、こちらにダッシュしてくるガイコツ戦士(ティアラ)の方へ駆け出した。


「会いたかったですー! お母さまー!」


 その絵面は感動の親子のご対面(骨)である。


「BORYYYYYYY!」


「ぎゃああああああ!」


 ホネコは思いっきり剣で殴られちゃった。


「ぶべえ!」


 こちらにヘッドスライディングで戻って来る。完全に牽制アウトだわ。


「うう……。お母さま、どうして……」


 ホネコは起き上がりながら、なぜ母親に剣で殴られたかわかっていない様子。


「あ、なるほど」


 ホネコは思いついたように手を合わせる。


「安心してくださいお母さま。この方は我々の敵ではございません」


「そういう理由で襲って来たの?」


 明らかに意思がないように思うんだけど。


 だが、俺の思いとは裏腹にホネコの言葉にピタリと足を止めるホネコの母親。


 本気で俺を敵と勘違いして襲って来たのか。


 そりゃ知らない奴が書庫にいたら敵だと勘違いされても仕方ない。


「このお方はわたくしの旦那さまです♡」


「BORYYYYYYY!!!!!!」


「おいいい! なんか、さっきより怒ってない!?」


「あー。お母さまはマッチョが好きですからね。リオンさんみたいなヒョロい殿方を認めてくれなかったみたいです」


「親子揃って骨の分際で俺をヒョロ認定すんなや!!」


 こちらのツッコミは虚しく洋館に響くだけであった。


 そのままホネコの母親が俺に襲い掛かって来る。


「リオン様! ホネコ様!」


 すかさず部屋から出て来たのは、綺麗なミディアムヘアの女性だ。


「ここは私にお任せください!」


 エリスさんが先程とは全然違った印象で現れて、持っていたペガサスの本が光を放つ。


 その顔は自信に満ちて見えた。


「どうです? わたくしの腕前」


「イメチェン大成功って感じ」


「でしょー」


「いや、今はイメチェンを褒めてる場合じゃねぇ」


『セイクリッド・パリケーション』


 エリスさんは魔術を唱えた。


 あれは、ホネコを浄化しようとした魔術だ。


 正式名称で唱えた魔術。母親にはどうだ?


 エリスさんの勝ち確定の自信満々の顔つき。


 こりゃ髪の毛を切って覚醒か。勝ったな。


「ふっ」


 あ、ホネコの母さんが鼻で笑ってる。


「BORYYYYYYY!!!!!!」


 ダメだったみたい。


「ひぃぃ! しゅ、しゅみましぇーん! 髪の毛切って調子乗りましたあああああ!」


 自信に満ちた顔はどこへやら。いつものエリスさんの顔つきに戻ったかと思うと、一目散に逃げ出しちゃった。


 彼女に引き続き、俺とホネコもその場からダッシュ。


「このまま逃げ回ってどうすんだ!?」


「わたくしに考えがあります。付いて来てください!」


 ホネコが言うと、彼女は走るスピードを上げてあっという間にエリスさんに追いつく。


「ぎゃああああああ! 悪霊退散! 悪霊退散!」


「ああーん♡ 走りながら逝っちゃう♡」


「エリスさん!! それ悪いガイコツじゃないから! やめたげて!!」




 ♢




 ホネコの足は母親譲りなのか、めちゃくちゃ速かった。運動会に出たら一躍スターになるだろう。こんなのが運動会に出たら違う意味で盛り上がるだろうけど。


 ホネコに付いて来た場所は洋館の地下、なんだけど。


「リオン様、ここって……!?」


「アルブレヒト領にあるダンジョンの奥にそっくりですね」


 いや、そっくりとかの次元じゃない。


 ここは、『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』で俺達が攻略したダンジョンで間違いないだろう。


 俺とエリスさんが魔法陣に導かれた場所だ。


「つうか、ホネコ。ここ行き止まりだぞ」


「そうですね。行き止まりですね」


 くくく。なんて怪しく笑うホネコ。


「お前、まさか……」


「そうです。そのまさかです」


「そ、そんな……。ホネコ様」


 エリスさんも察して絶望の声を漏らす。


 ホネコの奴、最初から俺達を裏切るつもりだったか。この骨めっ。


「BORYYYYYY!」


 ホネコの母親が追い付いて完全に袋のネズミになってしまった。もうだめだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴ。


 諦めかけたその時、行き止まりのはずの壁が重い音を出しながら観音扉のように開いた。


「流石はリオンさんとエリスさん。この扉がお父さまの冠か、お母さまのティアラに反応するとよくおわかりで」


 そんなんわかるかっ!


 とかツッコミを入れている場合ではない。


 とりあえず、ホネコはやっぱり悪いガイコツじゃないってことで一安心。


「ホネコ。この中にお前の母さんをなんとかできる方法があるんだな!?」


「おそらくですが」


「可能性があるのならさっさと中に入ろう!」


 俺達は隠し扉の中へと入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る