第72話 アルブレヒト日記

 エリスさんの髪をホネコが切るということで、俺は放置プレイとなってしまったよ。


 そんなわけで俺はひとりで寝ていた部屋に戻って来たのだが、手持無沙汰でなぁんにもやることがない。


「しっかしまぁ、嵐のような天気だよなぁ」


 呑気に窓の外なんか眺めてみる。


 ゴロゴロ、ゴーゴーと台風みたいな天気だ。この中を外で過ごそうなんて思ってたのはなんと浅はかなのか。ホネコが中に入れてくれて助かった。


「やっぱ、おかしいよな」


 あれから時間が経過しているはずだ。それなのに窓の外の景色は一向に変わらない。真っ暗な闇に強い雨と雷が鳴っている。


 まるで時間が進んでいないような──。


「……そうか。時間が進んでいないのか」


 魔法や魔術がある世界だ。時間操作の魔法だなんて代物があってもおかしくはない。


 この洋館付近だけ時間を進めなくする魔法も存在しているのかもしれないな。


 なぜそんなことをするのか。


 時間を進めてはいけない理由がある。


 その理由ってのと、俺達が魔法陣に導かれた理由ってのが合致しそうだ。


 おそらくだが、転生者の魔力が必要なのだろう。


 だけど誰が呼んだ?


 この洋館にはホネコしかいないと言っていた。だけど、ホネコは事情を良くわかっていない様子。ホネコが認知していない存在が俺達を呼んだと考えるべきか。


 だめだ。情報が少なすぎる。時間が進んでいないというのも確証があるわけではない。


 ここは情報が欲しいところだな。


 ホネコはエリスさんの髪を切っているだろうし、この洋館を探検がてら手がかりでも探してみるか。




 ♢




 この洋館は綺麗なものだ。どの部屋も掃除が行き届いている。だが、一ヵ所だけ荒れている場所があった。


「……書庫か」


 一階にある書庫はまるで強盗にでも入られたかのような荒れ具合だ。本棚は倒れ、本はあちらこちらに落ちている状態。


 そんな中でも机に置いてある一冊の本だけは綺麗な状態であった。


「『アルブレヒトの日記』……」


 人名か国名か。なんであれ、この日記を手に取りページをめくってみる。


『○月△日。娘が倒れた。どうやら体内の魔力量が人間の規模を超えて大きいらしい。今の魔術ではどうにもならないみたいだ。だが、私は諦めない。どうにか娘を治す方法を探し出す』


『◯月◯日。時代が違えば娘を救えたのに。勇者の再来を待つしかないのか。だが、待っているだけではだめだ。行動しなければ娘は助からない』


『〇月×日。娘の容態は悪化する一方だ。名医を呼んだがどうにもならなかった。そいつは娘の血だけを取って姿をくらました』


『×月〇日。とうとう娘を治せる者は現れなかった。ああ、どうして私はこうも無力なのだろうか。こんな時にアルブレヒト公爵家の権力など無意味。私の魔術もなんの役にも立たない。時間操作などしても無駄だ。なにもできない。こんな父親を許してくれホリー』


『×月×日。もうこうなれば悪魔に魂を売るしかないだろう……。娘が助かるのならば……』


 日記はここで途絶えている。


 病に倒れた娘を助けようと奮闘する父親の日記というところか。


 勇者とはマリンのことを差しているのかな。


 勇者がいれば治る病。しかしながら勇者が魔王を倒した後の時代の日記ってことか。


 最後は悪魔に魂を売ってしまったのだろうか。


 この日記から、ホリーというのはホネコのことで間違いなさそうだ。長い名前だったが、最初に出て来た名がホリーだったはずだからな。


 日記の情報から、ここはアルブレヒト公爵家の洋館ということになる。そうなると、アルブレヒトは王国ではなく公国だったと考えるべきか。


 そう考えると、この場所はアルブレヒト領内ということになるが、遠隔魔法が途絶えている。日記に書いてあることを思えば、筆者は時間操作の魔術が使える。それらをまとめると、あの魔法陣で過去にでも飛ばされたと推測できるが──。


「BORYYYYYYY……」


 振り返るとホネコが立っていた。


「──っと、おいおいホネコ。いきなり背後を取ってくんなよ、びっくりするだろうが」


 あれ? あいつって今、エリスさんの髪を切っているんだっけ。


 つうか、ホネコの奴って頭にティアラみたいなのしてなかったよね。


「……どちら様で?」


「BORYYYYYYY!!」


「ぎゃあああああああ!」


 これ、あかんやつ。本物のガイコツだ。いや、ホネコも本物だけども。


 俺の背後を取ったガイコツは持っていた剣で襲い掛かってくる。


「ちょ、あんたは悪いガイコツなの!?」


「BORYYYYYYY!!!」


「そうですよね! 普通は話なんてできませんよね!」


 ホネコが異常なだけだ。


 なんとかドラゴンの杖を取り出して、相手の剣を受け止める。


 存外重くない剣。剣を使ったことがないのか、このガイコツはかなり弱い。


「悪霊退散(物理)! 悪霊退散(物理)!! 悪霊退散ンンン!!!(物理)」


 相手が弱いとか、今はどうでも良い。とにかく、いきなり本物のガイコツが現れて怖いからドラゴンの杖を振り回す。


「BOAAAAAA!」


 効果は抜群みたい。ガイコツ戦士(ティアラ)は俺の攻撃でバラバラになった。


「あー。怖かった……。本気で怖かった」


 ふぃと一息つく。


 これで一安心とか思ったところで完全にフラグが立っちゃった。


 ガイコツ戦士の骨がみるみる人型に構築されて、ガイコツ戦士(ティアラ)の復活だ。


「BORYYYYYY!」


「不死身かよー!!」

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