第69話 ダンジョンにトラップは付きもの

 カオスな状況ながらもダンジョンを突き進んでいく。


 ダンジョンの攻略の定義ってのはダンジョンの奥まで進めばオッケーって感じだ。


 しかし、魔物が少なくなったといってもそこはダンジョン。主観としてはかなりの数の魔物とエンカウントしちまう。少なくとも、野次のBGMを気にしている暇はないくらいの数だ。


 そんな中をルベリア王女の剣と俺の魔法(物理)で突き進んでいく。


「ルベリア様。リオン様」


 途中、エリスさんが俺達の名前を呼ぶ。


 振り返ると、俺達の側に駆け寄ってくる。


「血が出ています」


 言われて互いの身体の傷を確かめる。お互い、腕の辺りに少々の血が流れている。魔物との戦いで出来た傷だろう。


「こんな傷、騎士にすればかすり傷だ。な、リオン」


「俺は騎士じゃなく、魔法使い(物理)です」


「お前みたいな魔法使いがいてたまるか」


 そんなやり取りをしていると、エリスさんの本から大きな魔力を感じ、そのまま手を俺達の方へ向ける。


『ヒーリング』


 彼女が唱えると、俺とルベリア王女の傷がみるみる治っていった。


「「おおー」」


 すっかり傷が塞がり、元通りになった。


「凄い。これが回復魔術か」


「騎士の家系じゃ見ることもありませんからね。ありがたく思えよ」


「お前が言うなっ!」


 こちらのやり取りを横目にエリスさんは、「ふぃ」と一仕事終えた安堵の息を吐いていた。


「あたしは騎士の家系だから魔法や魔術についての知識は乏しい。なにが違うというのだ?」


 ルベリア王女の質問にエリスさんが答えてくれる。


「魔法と魔術の決定的な違いは、解明されているかされていないかの違いだけです。攻撃を主にする魔法はどうして発動するのかわかっていないのに対し、回復を主にする魔術はどうして発動するか解明がされています」


 説明すると、「お、おおー」と関心した声を出す。


「つまりどういうことだ?」


 ガクッとこけそうになる。この王女様、やっぱり脳筋だ。


 そんな王女に対してエリスさんが優しく教えてあげた。


「攻撃するのが魔法。回復するのが魔術って覚えていただければよろしいかと」


 ルベリア王女は小難しそうな顔をして、フェニックスの剣を突き上げる。


「ま! あたしはどちらにしても剣しか使えないから良いんだけど!」


 今の説明だけでも頭を使ったのか、ルベリア王女の頭からは煙が出ていた。




 ♢


 


 俺とルベリア王女で突き進み、エリスさんの回復であっという間にダンジョンの奥まで辿り着く。


「これでダンジョン攻略完了か」


 ダンジョンの奥は殺風景な景色が広がっているだけで、魔物は一匹もいなかった。


 そりゃ未開拓のダンジョンとは言え、大昔に魔王が滅ぼされて魔物の勢力は失われている状態だもんな。


 奥にいけば魔王より強い裏ボスみたいなのがいるかもってちょっぴりだけ期待したんだけどね。


 この、『学院合同ダンジョン攻略、夏の陣』も学園祭のノリだから、呆気なく終わってもしょうがない。


「こ、これで終わりですよね」


 エリスさんが安堵の息を吐く。


「なんだ、呆気ない。あたしのフェニックスが火を吹くのを見せられなかったか」


「あんたのフェニックスはダンスパーティである意味火を吹いてくれたので十分です」


「物足りん。リオン。ここであたしと決闘しろ」


「あんた本当に脳筋だな。さっさと帰りますよ」


 俺達だけでここに来ているわけではない。俺達が危険になった時に付いて来てくれてる先生もいるんだ。長居をしても迷惑がかかるだけだ。


「あ、リオン様。また傷が出来ています。すぐに治しますね」


「かすり傷って知らない内にできますよねー」


「ふふ。わんぱくな男の子みたいですね」


 このダンジョン攻略でほんの少しだけ心を開いてくれたのか。エリスさんが微笑みながら回復魔術を施してくれる。


『リオンの下の魔法陣はなに?』


『ほんとだな。いきなり出て来た』


 そんな声が、そよそよと聞こえてきて下を見てみる。


「うそ。なんか嫌な予感するんですけど」


 そんな俺の嫌な予感は大当たり。そのまま俺と回復魔術を使ってくれたエリスさんが魔法陣に導かれてしまった。


「ちょ、あたしは!?」


 最後に聞こえたルベリア王女の声を最後に目の前が真っ白になった。




 ♢




 ゴオオオオ──ドガアアア!


 上空から聞こえてくる雷の音と、顔に当たる雨の雫で、ハッと気がつく。


 先程までダンジョンにいたのに、今はどうやら外にいるみたいだ。


 キョロキョロと辺りを見渡すと、悪天候の空の下、暗い森にいるらしい。


「あの魔法陣は転移魔法かなにかか……」


 なんとも面倒なトラップに引っ掛かっちまったらしい。ダンジョンらしいといえばダンジョンらしいが。


「くしゅん!」


 隣からくしゃみが聞こえてくる。


「り、りり、リオン様。こ、ここ、ここは、どこなんでしょう?」


 雨に濡れて少し寒いのか、エリスさんが身体をさすりながら言葉を発していた。


「わかりませんが、とにかくここにいても風邪を引くだけです。雨を凌げる場所を探しましょう」


「は、はい」


 暗い森の中を歩こうとすると、エリスさんが俺の腕にしがみついてくる。


「も、もも、申し訳ありません。平民如きがこんなことをして許されるとは思いませんが、こ、怖くて……」


「俺も暗いところは苦手ですのでありがたいですよ」


「侯爵家なのに?」


「そこは家柄関係なくない?」


「ひぃぃ。すみません、すみません。仰る通りです、はい」


 謝りながらもこちらを掴む力が強くなる。彼女の震え方から相当怖いのだろうな。


 俺だって正直言えば怖いが、一緒にいるメンツの中で自分より怖がっている奴がいれば冷静になる説。これ、あるよね。


 そんな暗い森の中を少々だけ歩くと、すぐに洋館が出て来た。


「こりゃまた夏の風情を感じるなぁ」


 森に囲まれた洋館。雨に雷。うん。完全にホラーハウスじゃん。


「り、りり、リオン様? こ、ここ、ここに入るとか言いませんよね?」


「しかし、このままだったら風邪を引いてしまいますよ?」


「あんな明らかに怪しい洋館に入るくらいならここで一夜を過ごします」


 気持ちはわからなくもない。あの洋館からは死亡フラグがビンビン立っているもんな。絶対ゾンビの類がいる。銃とかいるタイプの洋館だよね。


「しかし、ここで一夜を過ごすのも危険かと思いますよ?」


 WAFUUUUUU!


 遠くの方で狼の雄叫びが聞こえてくる。


「狼のエサになるかもです」


「ひっ」


 ギュッと更に俺を強く抱きしめる。


「どっちにします?」


「あ、あたふた、あたふたた……」


 究極の二択を突きつけるとまともに喋れなくなってしまった。


 どっちもどっちだろうから、俺の判断に任せてもらいたい。ってなわけで、エリスさんと洋館を訪ねることに。


「すみませーん! 迷子になったので入れてくださーい!」


 とりあえず玄関のドアに向かって叫んでおく。案の定、返答はなかった。


 しかしあれだ。ホラーハウスと思って見ているからか、この洋館は綺麗に保たれている気がする。掃除が行き届いているな。もしかしたら、誰かの別荘とかの可能性も出て来たぞ。


「入りますねー」


 玄関のドアが開いていたため、勝手に上がらせてもらうことにする。


 玄関を開けた先には──。


「ゾンビじゃなくてガイコツかよ」


 つうか俺はなんで冷静にツッコミなんて入れてんだよ。


「「ぎゃああああああ!!!!!!」」


 エリスさんとガイコツからそれぞれ悲鳴が聞こえてきて、互いに気絶してしまった。


 ん? ガイコツも悲鳴あげてた?

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