有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して一生親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった。こうなったら学園生活を謳歌してやるって思っていたのにどうやらそうはいかないらしい
第68話 こちらリオン。現場は依然としてカオスです
第68話 こちらリオン。現場は依然としてカオスです
波乱のダンスパーティが終わり、ようやくと本番のダンジョン攻略が始まる。
いや、ダンスパーティのことを考えるとダンジョン攻略の方がおまけって感じなんだけど……。
とにかくダンジョン攻略の開始である。
武器はそれぞれ代表の証となったものだけらしい。
俺はドラゴンの杖。
ルベリア王女はフェニックスの剣。
エリスさんはペガサスの本。
「よし。行くぞ」
気合いたっぷりで前衛を歩くステラシオン騎士王国のルベリア王女。
その後ろを俺とエリスさんが行く隊列だ。
結局、エリスさんとの心の距離ってのは縮まらなかったな。ま、一夜で縮まるほど人間、単純じゃないってこったね。
『リオン、男らしくないぞー』
ふと、どこからともなく声が聞こえてくる。
『女性に前を行かすなんてヒモ男めー!』
『そうだー! アルバートの男子なら前を行けー!』
これがフーラの言っていた遠隔魔法で見守りながら応援の声を出すってやつか。
前世でいうところの、配信、コメントみたいなノリかな。
こっちの行動は応援側に筒抜けみたいだね。
つうか、応援とは? それは野次ではないだろうか。
三回生の先輩が含みのある顔をしていたが、それってのは大いに野次るためってか。流石は根暗ガリ勉の集まりアルバート。汚い。
『むむ! アルバート共! それは我が姫では筋肉が足りないってことか!?』
『そう捉えることができる! バカにするな! 我が姫は国唯一の脳筋! 脳が筋肉でしかできていないのだぞ!』
「お前ら! 脳筋、脳筋言うな!」
ステラシオンの声にルベリア王女が恥じらいながら声を荒げる。
彼等の中では筋肉が全てだからね。悪意はないっぽい。
『うるせーよ脳筋共! 黙って腕立てしとけ!』
『だまれ! 我らはダンベル派だ!』
あー、コメ欄で喧嘩始まったわ。前世でもよくある光景だったよね。
「ひぃぃ。貴族達が荒ぶってるぅ……」
エリスさんがかなり怯えている。そりゃ声だけの野次合戦は怖いよね。俺も怖い。
励ますようにエリスさんの肩にポンッと手を置く。
「大丈夫ですよ。気にしないでいきましょう」
「は、はひぃ」
『おい、腐れ外道! 侯爵家だからって調子に乗って庶民の手に触れるな!』
アルブレヒトの
『そうだ、そうだ! 昨日のダンス微妙だったくせに良い気になるなよ!』
『お前のところの王女は可愛いくせに踊れない』
『ぐふっ』
なんかフーラに流れ弾が当たったんだけど。そして思いっきり急所がえぐれた声が聞こえたんだけど。
「はぁ……。リオン。エリス。このまま野次を気にしても仕方ない。進むぞ」
ルベリア王女の言う通りなので、俺達は先を進むことにした。
♢
野次合戦をBGMにルベリア王女とエリスさんとダンジョンを突き進んでいく。
未開拓のダンジョンということで中は薄暗い。そして生命が生きているような少し生臭い匂いがした。おそらくここを縄張りとした魔物のものだろう。
「むっ」
ルベリア王女が何かに気がついて足を止めた。手を横に出し、俺達に制止を促す。
「あれは……」
薄暗い奥の方で怪しく輝くふたつの光。
それが徐々にこちらに近づいてくる。
「うきゅ?」
現れたのはうさぎのような魔物。
そいつが首を傾げてこちらを見てくる。
ふむ。こいつからは魔力を感じない。俺が魔力を感知できないってことは間違いなく魔物だね。
「きゃ、きゃきゃきゃ──」
ルベリア王女がぷるぷると震え出す。魔物の出現に少し怖気ついたか。
「きゃわわわー♡♡♡」
ルベリア王女は目をハートマークにさせてトタトタと魔物に近づいた。
「ほらほら、おいで、おいでぇ♡」
しゃがみこみ、小動物を愛でる声を出している。
『おいおい。脳筋王女は、可愛いって言ってる私可愛い、とか思っている痛いタイプの王女かよー』
『今時そんな女は流行らないぞー。痛いだけだぞー』
アルバートとアルブレヒトのユニゾン野次が発動した。
さて、ステラシオンをどう返すのやら。
『違う! 姫様は筋肉を見ているのだ!』
なんとも苦しい言い訳だ。
『きゃはは! 脳筋は言い訳も脳筋かよ!』
『筋肉以外も鍛えてこーい』
野次が段々ヒートアップしてやがる。
「ちゅちゅちゅ。おいで、おいでー」
ルベリア王女はそんな声も気にせずにうさぎみたいな魔物に夢中だ。
「──ぅきゅゅゅ……」
うさぎみたいな魔物の様子が急変する。
小さなうめき声を出してかと思うと。
UKYUUUUUU!!!!!!
二本の足で立ち上がり、筋肉を膨張させ、あっという間にガチムチうさぎに大変身。
やっべ、きっも。コキコキと首鳴らしてる。
「きゃわわー♡♡」
あ、本当に筋肉で反応してたのね、きみ。
『ほれ見たことか! 姫様は筋肉でしか判断しない!』
そんな呑気なことを言っとる場合かよ。
しかしだ。ふむ。
「カマーセル。きみとの絆を示す時がきた!」
俺はドラゴンの杖を取り出し、一気にガチムチうさぎとの距離を詰める。
「魔法!(物理)」
ザシュっと杖でガチムチうさぎを真っ二つにしてやる。
「これがカマーセルとの絆の力(ドヤ)」
「魔法とは?」
エリスさんのツッコミがダンジョンに小さく響く。
『おい! アルバート! なにを物理でいってんだ!』
『魔法使いらしく魔法でいけや!』
他の学園からブーイング飛んでくる。
『せめて僕が教えた魔法くらいは使いたまえ!』
カマーセルの嘆きが聞こえてくる。
「うるせー! ばーか、ばーか! 倒せばなんでも良いんだよ!」
適当にファッキンポーズを取ると、更なるブーイングが飛んできやがる。
「くっ……。可愛いうさぎさん……」
膝から崩れ落ちるルベリア王女。
「ひぃぃ。魔物より人間の方が怖い……」
しゃがみ込むエリスさん。
「ダンジョンはダンスパーティに引き続きカオスと化しております。以上、現場からリオンがお送りしております。引き続きダンジョン攻略をお楽しみください!」
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