第66話 心の距離ってすごい大事
エリスさんが復活したところで、自己紹介と簡単なダンジョンについての説明があった。
大昔に魔王が倒されて魔物は勢力を失い、ほとんどの魔物は駆逐された。そのため、開拓されているダンジョンに魔物はいない。だが、未開拓のダンジョンにはほんの少しだけ魔物が残っているらしい。
だから気を付けて行って来てねって感じの説明があった。なにかあったらすぐに助けが来るようになっているから安心してって話しだ。
ダンジョンについての説明が終わって解散となる。
エリスさんは気まずかったのか、すぐに部屋を出て行った。
俺とルベリア王女も後に続いて出て行く。
「お、おいリオン」
「はい?」
「こ、この後のダンスパーティだが……」
もじもじとしており、目をキョロキョロとさせている。
もしかして、この後のダンスパーティのお誘いかな?
ウチの女性陣はダンスができないらしい。だったらルベリア王女と踊っても良いかも。
「俺と一緒に踊りたいんですか?」
ちょっぴりからかい風味に聞いてやると、ニパァっとひまわりみたいな笑顔を見せてくれる。しかし、すぐに顔を逸らされてしまった。
「べ、別にリオンと踊りたくはない」
「またまたぁ。そんなこと言ってぇ」
「ち、違うから。同じ代表同士だし? 代表は代表同士で踊らないといけないから仕方なくだな」
「代表は代表同士じゃないとダメなんですか?」
「決まりってわけではないが、暗黙の了解みたいなものだ」
「あー。そういうのってどこにでもありますよね」
変なブラックルールってのはどこにでも存在しやがる。
「エリスさんはあんな感じだったし、ルベリア王女、一緒に踊っていただけますか?」
「あ、えと、その……」
「だめ、ですか?」
「だめ、じゃ、ない」
「それじゃ約束ですよ」
コクコクと頷くルベリア王女。
これでダンス相手に困ることはなくなったな。
♢
夜になり、アルブレヒト城のダンスホールにはそれぞれの国の学生が集まっていた。
ヴィエルジュ達とは城で集合した後に、数時間駄弁ってからまた別行動になっちまった。ドレスにでも着替えて来るのだろう。
「──ダンス相手には困らないと思っていたんだがな……」
早速とルベリア王女を迎えに行くと、ガチムチ騎士学生達に囲まれて近づくことができなかった。
俺と目が合った時に、「通せ! 通さんかーい!」と叫んでいたが、ガチムチ騎士生徒達はルベリア王女に夢中で聞こえていない様子だ。
ま、ルベリア王女はスポーツ万能系の美人だ。チラリと見える割れた腹筋にガチムチ騎士生徒達はメロメロなんだろ。そんな王女と踊りたいのはガチムチの夢。
仕方ない、ルべリア王女と踊るのは諦めよう。
ここはエリスさんを誘うか。暗黙の了解を無視すると痛い目に合う。前世の学校でも会社でもそういうのがあって、それを無視したら痛い目を見たからな。痛い目を見るくらいなら守った方がマシだ。
ってなわけでエリスさんを探しているんだけど……。
「どこにも行ったのやら」
『お、おい。なんだあの美女のグループは……』
『美し過ぎる……』
ステラシオンの学生と、アルブレヒトの学生達が驚愕の声を上げていた。
対し、アルバートの生徒達はなぜかドヤ顔を披露。
ダンスホールに突如として現れたのは、ドレスに身を包んだメイド三銃士。
現れた瞬間、ホールにいた全員の注目を浴びて気分はランウェイ状態で歩いてやがる。
いや、確かに綺麗過ぎるんだが……。
『銀髪の人も、ツインテールの人も綺麗だが、アルバートの王女様が可愛い過ぎる』
『アルバート王女のレベルが違い過ぎる』
一番人気は
おい、お前ら、そいついじられキャラだぞ。
なんてのは身内だけが知っていることか。
外から見たら総合してフーラが一番可憐ってことなのかな。
あれか。王族フィルターだわ。
ヴィエルジュとウルティムも王族だが公表はしていない。つうか出来ない。
その点、フーラはガッツリ王族だもんな。あんにゃろ、不正で人気をもぎ取りやがってからに。後でたっぷりいじってやる。
三人と目が合い、こちらに微笑んで歩み寄って来ようとした時、大勢の男性陣が彼女達の前に立つ。
『俺と踊ってください!』
『ばか! 俺だよ!』
『僕と素敵な一夜を……』
『キモイ台詞を吐くな。あっしとワンナイトラブを』
『お前が一番キモイんだよ!』
一気に彼女達を囲む男性陣にフーラは悪くないって感じの顔をしていた。普段いじられているからこういうのが気持ち良いのかな。
ウルティムは無表情で対応していた。内心はなにを思っているのやら。
ヴィエルジュはこの場を氷漬けにしそうだったんで、目が合ったからやめておけってアイコンタクトを送る、すると不本意ながらって感じでやめてくれた。こんなところでヴィエルジュの魔法が炸裂するととんでもないことになるから、わかってくれて助かる。
わちゃわちゃとなる会場。
あれだけの美女を目の当たりにしたら男子の本能的に行動しちまうって感じかな。
そのおかげで男女がくっきりと分かれて、エリスさんが探しやすくなる。
ふーむ。どうやらここにはいないみたいだな。
だが、代表としてダンスパーティをサボるってことはしないだろう。
ふと、バルコニーへの窓が開いているのが見えた。
もしやと思い、俺はバルコニーへと足を向けた。
♢
「こういうのは苦手ですか?」
バルコニーに佇むブルーブラックの髪の女性に話しかける。
振り返った時に、前髪で隠れている顔が焦っているのが見えた。
「あわわ、り、リオン様」
かくれんぼで鬼に見つかったような反応にくすりとしてしまい、彼女の隣に立つ。
「俺もこういうのは苦手なんですよ」
「こ、侯爵家なのにですか?」
「俺は侯爵家を追放になっているんです。こういうのが嫌いでね」
ゆるーい追放だけど、それをわざわざ言わなくても良いだろう。
「だから俺は爵位のある家系とはちょっと違う。エリスさんと同じですよ」
そもそも前世は庶民だったわけだし、むしろエリスさんとは話が合うはずだ。
「で、ですが、リオン様には貴族のお知り合いが沢山いらっしゃいます。それに比べ、私はただの平民。私みたいな庶民がこんな所にいるなんて場違いなんです。みんなそう言う……」
はっはーん。こりゃあれだな。貴族定番の庶民への嫌がらせをされちまっているな。
「エリスさん。アルブレヒト王も仰っていましたが、貴族とか平民とか関係ありません。この場にいるのはエリスさんの実力でしょ?」
「それは、本が勝手に……」
「さっきも言いましたが、俺は侯爵家を追放されています。俺は騎士の家系の生まれなのに魔法学園に追放されたんですよ」
そう言うと、酷く驚いた顔をしていた。
アルブレヒトまでは俺の噂ってのは届いていなかったみたい。
「騎士の生まれなのに魔法学園に入ってから色々ありました」
あ、なんか思い出すとイラついてきた。
「ほんと、色々とね」
こちらの重い声を悟って、エリスさんは苦笑いを浮かべる。
「騎士の家系のやつが杖を握って選ばれたんです。貴族とか平民とか、家系とかってのは関係ない。だからね、全部実力なんですよ」
俺は笑いながら言ってやる。
「悔しかったら杖からドラゴン出してみろ。俺はそう思います」
そう言ってやると、エリスさんの表情は明るくなる。
「アルバートはドラゴンが出たのですね」
「アルブレヒトは本でしたっけ?」
尋ねると、コクリと頷いた。
「こちらは本からペガサスが出ました。過去、例のない出来事だと」
「ペガサス。それは凄い。やっぱりエリスさんの実力ですよ」
「そ、そうですかね」
えへへ、と少し照れ笑いを浮かべるエリスさん。どうやら少しだけ心を開いてくれたようだ。
「もう少しあなたのことを教えてください。エリスさん」
暗黙の了解である代表者同士のダンスをするためでもあるが、ダンジョン攻略する時にコミュニケーションってのは大事になるだろう。
相手のことを知るのは大切だ。
ルベリア王女は……いいや。大体の性格知ってるし。
「えと……それってどういう意味──」
『アルバートの不正だ!!』
中からそんな声が聞こえてくる。
俺達は反射的に中に視線を向けた。
「なんでしょうか?」
エリスさんが首をひねる。
「さ、さぁ……。喧嘩とか?」
それっぽい声だったよね。
「貴族同士の喧嘩……。ひぃぃ……」
おいおい。せっかく心を開いてくれたってのになにをしてくれんだよ。
どこのどいつだ。説教してやる。
「中の様子を見に行きましょうか」
不安な顔をするエリスさんが小さく頷いてくれたので、俺達は中に戻ることにした。
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