第65話 代表者の顔合わせ

 アルブレヒトにご到着。


 来るのが初めてなので、観光客気分でキョロキョロと辺りを見渡してしまう。


 回復術師の街ってことで、なんだか神聖な感じの街並みだね。


 前世の寺や神社に入ったかのような、背筋が伸びる感じがする。街を歩く人達も、僧侶を彷彿とさせるシャンとした恰好をしているのも原因なのかもしれないね。


 アルバートは魔法の国だから、子供心をくすぐられるような雰囲気。


 ステラシオンは脳筋の国だから、マッチョが多いなぁって雰囲気。


 アルブレヒトは神聖な神社の雰囲気だね。


 それぞれ特徴が違う国だ。


 ヴィエルジュ達は自由時間ってことで、後でお城に集合の約束をしてから別行動。


 代表者はアルブレヒト城に集合のため、城へと足を運ぶ。


 城門の前では門番風の人がいたけど、事情を話したら段取り良く行動してくれて、すぐに関係者の人が中へと通してくれる。


 外見はアルバート城、ステラシオン城と全然違うんだけど、中は大体同じような造り。だだっ広い城を案内の人に付いて行き、城の一室に通される。


「アルバート魔法学院代表のリオン・ヘイヴン様をお連れいたしました」


 城の関係者の人は一言放ってお辞儀をすると持ち場に戻って行く。


 部屋の中には俺を含めた四人が集まっており、中年の男性。ボブカットのブロンドヘアの女性。ミディアムヘアでフロント長めのブルーブラックの髪の女性がいた。


「ルべリア王女がステラシオンの代表だったんですね」


 顔見知りのボブカットのブロンドヘアの女性に話しかけた。こういう場面で知り合いがいるのは心強い。


「あ、ああ。まぁな」


「ルべリア王女がいて嬉しいですよ」


「は、はぁ? な、なんで?」


「そりゃ、全員知らない人って思ってたのに、知っている人がいれば嬉しいでしょ」


「ふ、ふん。あたしはお前と一緒で嬉しいとかないから。決してないから」


「ちょっと嬉しそうじゃないですか? 顔ニヤケてますよ?」


「は、はぁ!? べ、別にリオンが入って来た時に、『リオンキタアアアアアア!』とか思ってないから」


「そんなに俺に会えて嬉しかったんですねぇ」


「う、うるさい! ばか、ばーか」


 プイッとそっぽを向かれてしまう。相変わらず気難しい王女様なこって。


「ふたりは知り合いだったのか?」


 部屋の中にいた白髪の男が話しかけてくる。


 年の割に見た目が若いが、間違いなく彼がアルブレヒト王その人だ。


「此度はお招きありがとうございます。アルブレヒト王」


 アルバートの王族はヴィエルジュとフーラの両親だし、ステラシオンの王族は父上の関係上小さい頃から面識がある。だが、アルブレヒト王は初対面の王族だ。言葉使いはしっかりしないといけない。ってなわけで、王族と接する正しい言葉使いをヴィエルジュと特訓しておいたので、なんとか返すことができた。


 こちらの返しに、「ふっ」とアルブレヒト王は小さく笑って言ってくれる。


「無理な言葉使いは不要だ。自分の話しやすい言葉で良い。ではないとコミュニケーションが取れないからな」


「あ、あはは。申し訳ありません」


 この場合の王の言葉はタメ口で良いってわけではなく、敬語を拗らせるとなにを喋っているからわからなくなるから、自分なりの敬語で良いって意味だろう。難しいよね、敬語って。


「ルべリア王女とは少々縁がございまして」


「え!?」


 彼女は大きな声を出して、アタフタと、「縁。縁って縁談? 縁談の話出てたの? えへへ」とかひとりでぶつくさ言っている。放っておこう。


「そうか。ステラシオンの騎士団長であるレオン殿のご子息だ。王女と縁もあるのだろうな。しかし、アルブレヒトとはあまり縁がない。ここは一つ自己紹介といこうか」


 アルブレヒト王の提案で自己紹介が始まる。社会人なら名刺交換になるわけだが、異世界に名刺がないのは本当に助かる。あれ、変なルールがあって面倒なんだよな。


「私の名はサジタリウス・アルブレヒト。アルブレヒト回復学園の学園長を務めている。以後お見知りおきを」


 なるほど。ここであえて王と自己紹介しないというのは、今回はあくまでも学園長として接して欲しいってことかな。まぁ、彼が王であるのは皆が知っていることだし、改めて自己紹介という形でいうことではないよな。


 つうか、この人、王と同時に学園長もしてるのかよ。


「そしてこちらがアルブレヒト代表のエリスだ。さ、エリス、挨拶をしたまえ」


 ミディアムヘアでフロント長めのブルーブラックの髪の女性がアルブレヒト王に言われて自己紹介をしてくれる。


「え、えとえと。わ、わたしはエリスとも、申します。よ、よろしく、おね、お願い、し、します……」


 やたらと緊張しているな。


「初めまして。アルバートの代表になっちゃったリオンです」


「ひっ……」


 なんで悲鳴。ちょっとショックなんだけど。


「ステラシオン代表のルべリアだ。よろしく頼む」


「ひぃぃ!」


 ルべリア王女にも悲鳴を出しており、王女は傷ついていた。


「すまないな。エリスは顔見知りするタイプなんだ」


「へ、陛下……」


「こらこら。ここでは学園長先生だろ」


「が、学園長先生。わた、わたしみたいな平民なんかが……」


「そんなものは関係ない。お前は『本』に選定された実力者だ。もっと自信を持ちたまえ」


「うう……。ですが、私みたいなのがこんな高貴な方々達と共にするなど無理ですぅ……」


「高貴な方?」


「おいリオン。なんであたしを見るんだ」


「いえ。エリスさんは目が悪いんだなぁと」


「おい。それはどういう意味だ。あたしは王族だぞ。高貴な存在ではないか」


「脳筋のくせに高貴とか笑わせますね」


「処すぞ」


「おー。こわっ」


 笑いながらエリスに話しかける。


「大丈夫ですよエリスさん。ここにいる代表はステラシオンの王族(笑)と侯爵家を追放された男しかいません。皆、年の近い同世代ですよ」


「陛下に、王女に、侯爵家……。はわぁぁ……」


 エリスさんは白目を向いて倒れてしまった。


「お、おい。大丈夫か? エリス」


 アルブレヒト王がエリスさんを抱きかかえるが、どうやら気絶しちゃったみたい。


 どうやらエリスさんは爵位をかなり気にするみたいだな。ま、普通は気にするのか。

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