第64話 おまけの方が力が入っている

 ドラゴンの杖からドラゴンを出したってことで、俺がアルバート魔法学園代表として選ばれましたとさ。ちゃんちゃん。


 こりゃまた一悶着あるだろうなぁ。三回生の成績トップの人とかからイチャモンつけられるんじゃないだろうかと内心ビクビクしていたんだけど、そんなことはなかった。


 三回生の先輩達からは、「祭りだし頑張って」みたいな声を頂いた。


 その時の顔に含みがあるのを見逃さなかったぞ、おい。とかわざわざツッコミを入れたらややこしい事になりそうだからやめておいた。


 学園長先生は、過去に例外のない事態に頭を抱えていたが一言。


「学園の顔としての分別ある行動をするように」


 なんて釘を刺されたけど、流石にそれにはこう返したよね。


「お前がなっ!」ってね。


 決まったもんは仕方ない。それにこれはお祭りだ。なにも気負うことはないだろう。


 そんな気楽な気持ちでアルブレヒト行の馬車にいつものメンバーで乗り込む。


「しっかし、この杖からドラゴンが出るとはねぇ」


 馬車に揺られながら代表の証として渡されたドラゴンの杖を眺める。


「それは本物ではない」


 ウルティムが教えてくれる。


「どゆこと?」


「あれは昔、マリンがお試しで作った魔法。あのドラゴンに実態はない」


「へぇ。なんでまたそんなことを」


「おそらくだけど、この前見た私達の思い出の魔法。それの練習だと思う」


 なるほど。動画とか画像作りの練習にドラゴンか。


 天性の転生者マリン。あんたも中二病だったんだな。俺も中二病だからあんたのその発想は好きだぜ。


「しかし、練習で作られた杖が子孫達には大層なもの扱いになっているんだな。勇者の名は伊達じゃないってか」


「でも、マスターの魔力に反応したことに違いはない。だからその杖はマスターのもの。マリンも喜ぶ」


「実態のないドラゴンを出せる杖ね」


 威嚇の道具ならなにかと使えそうだしな。


「そういや、これからの予定ってどうなってんの?」


 隣に座っていたヴィエルジュに問う。


「アルブレヒトに着きましたら、ご主人様は城にて各学園の代表と顔合わせとなります。私達は夜まで自由時間です。その後、ダンスパーティという名の学園別の戦いが行われます」


 ヴィエルジュがメイドというか、秘書みたいに空で予定を教えてくれる。


「フーラの言っていたダンスパーティか。結構バチバチなの?」


 フーラに尋ねると、指を口元に持っていき少々困った顔をしてみせる。


「私も初めてだからわからないけど、噂じゃダンジョン攻略より盛り上がるらしいよ。なんならこっちが本番みたいな」


 ダンジョン攻略は代表だけだけど、ダンスパーティは全員参加が可能だもんな。自ずとそちらに力が入るのか。


「そうですね。ダンスパーティが本番というのは頷けます。というわけでご主人様。私と踊りましょうね♡」


「だめだめ。リオンくんは婚約者である私と踊るから」


「なにを寝言を言っているのですか。その可愛い顔は寝顔ですか?」


「起きてますー! というか、ヴィエルジュ。そのおっきな胸が邪魔で踊れないんじゃない?」


「なっ……!?」


 ヴィエルジュは自分の胸にてを置いて驚愕の顔をする。


「た、確かに……。スタイル抜群だからこそ踊れないかもしれません」


「それに比べて私はぺったんこだから踊りやすいのなんのって!」


 えっへんと胸を張って威張っているが、悲しくなるな。


「ぐぬぬ。まさかお姉ちゃん如きに言い負かされてしまうとは……屈辱です」


「勝った……初めて妹に勝った……!」


 なんか勝手に勝敗が決まっちまった。


「フーラ踊れない」


「ぐはっ!」


 ウルティムの一言にフーラに多大なるダメージが入る。


「え? 王族なのに踊れないの?」


「くっそ下手」


「ちょっとウルティム! 余計なこと言わないで!」


「この前、ダンスの練習をしているのを見たたけど、まじどんまいだった」


「まじどんまいとか言うなあああ!」


「ぷっ。お姉ちゃんって踊れないんだ」


 周りに俺達しかいないから、ヴィエルジュがフーラを姉呼びしながらバカにした。


「あんたは踊れんの!?」


「もちろん踊れません」


「踊れないのかよ!」


「私達は双子ですよ? 一緒だね、お姉ちゃん♪」


「うう、ルージュぅぅ……」


 なんか勝手に双子の絆が深まっていた。


「マスターのパートナーは任せて」


 ふんむーと鼻息荒くウルティムが名乗り出る。


「ウルティムは踊れるのか?」


「私は齢一六歳にしてステラシオン第三騎士団の騎士団長。もちろん、踊れない」


「踊れないのかよ!」


 ウチの女性陣はみんなダンスが苦手みたい。

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