第63話 夏の陣。代表選抜
アルバート魔法学園の全員が講堂に集められた。
講堂の天井はフーラの言っていた通り、既に修繕されて元通り。
中は貴族の社交界みたいになってて、テーブルと椅子が設けられている状態だ。
それぞれ、学園関係者席、三回生席、二回生席、一回生席に分かれている。
俺達は素直に一回生席に腰を下ろす。
「んで? 一体なにが始まるんだよ」
誰に言ったでもない言葉をフーラが拾い上げてくれる。
「いよいよ始まるわね。『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』が」
「なにそれ?」
「アルバート魔法学園。ステラシオン騎士学園。そして、アルブレヒト回復学園。この三校の代表者がパーティを組んで未開拓のダンジョンを攻略するの」
「うへぇ。なぁんかだるそうだな」
「あはは。代表者になると大変かもだけど、他の人は代表者のダンジョン攻略を遠隔魔法で見守るんだ。応援の声とか出すと代表者に届くんだよね」
なるほど。配信みたいな感じなんか。んで、コメントを投げられると。
「それは面白そうだな」
「そうそう。あとはお城での各学院のダンス対決とか、演奏会とか。あとは出店の対決があったりとか。今年はアルブレヒト領の未開拓のダンジョンを攻略するはずだから、アルブレヒト城が舞台になるね」
なんか大規模な文化祭みたいでめっちゃおもしろそうだな。
代表になったら面倒だろうけど。
「代表者ってのはどうやって選ぶんだ?」
「それはね──」
『今日は集まってくれて感謝する』
フーラが教えてくれようとした時、壇上に立つ女性の姿があった。
アルバート魔法学園の学園長先生だ。
若々しい見た目で、バリバリ仕事ができそうだが、ただのメンヘラ病み女。ドロドロの恋愛劇を好むど変態だ。
一丁前にパリッとした雰囲気出しやがって。おかげで、わいわいしていた講堂に緊張が走りやがる。
『皆ももうわかっていると思うが、今から夏の陣の代表を決める。今年も例によって代表を決める方法は──』
まさかバトルロワイヤルとか言わないよな。そんなことするなら一目散に帰るわ。
『これだ!』
バンっと出て来たのは一見すると、いつも懐に入っているような魔法の杖。
『これは大昔、勇者一行が使っていた杖とされる、《ドラゴンの杖》だ。この杖に認められた者こそ今年の代表者となる!』
うおおおおおお!
先程まで緊張の沈黙を保っていた講堂に歓声がわく。
なんか、めっちゃ盛り上がってるやん。一大イベントだし当然か。
「してウルティム」
「なに?」
「あれは本当に勇者一行が使っていた杖なのか?」
俺が聞くとフーラが、「私も気になる」とウルティムに話しかける。
「ちょっと胡散臭かったんだよね」
「お前の国で保管してるもんを胡散臭いとか言うなよ」
「えへへ。でもでも、勇者一行の魔法の杖だなんて後付けでなんとでも言えるじゃない」
そりゃそうだ。
「確かにフーラ様の言う通りですね。ウルティム様。あれは本物なのでしょうか?」
ヴィエルジュも気になるのか、ウルティムに尋ねる。
「むむむ」
ウルティムが勇者一行が使っていたとされるドラゴンの杖を凝視する。
「わかんない。見た目はどこにでもある杖っぽい」
「ま、見た目はね」
『では早速選別を行う。まずは一回生から──ヴィエルジュ!』
ヴィエルジュからか。
「これ、いきなりヴィエルジュが選ばれたらどうなんの?」
「基本的に杖は反応しないよ」
「そうなん?」
「うん。誰も反応しないから、毎年選ばれるのは三回生の成績トップの人って感じ」
「へぇ」
ま、それが妥当だわな。
ピカッ──!
そんなことを言っていると、ドラゴンの杖がヴィエルジュに反応を示した。
「あれって反応してんじゃないの?」
「うっそーん。我が妹が反応しちゃってる」
フーラが驚きを超えて普通の声を出していた。
会場も異例の光景にザワザワとしている。
「この場合どうなんの?」
「わかんない」
ざわめきの中、ヴィエルジュは涼しい顔をして戻ってくる。
「お前はお前でこの状況でよくもまぁそんな顔して戻ってこれんだ」
「ご主人様のメイドとして、いついかなる時も冷静に振る舞うように鍛えておりますので」
「ヴィエルジュ。可愛い過ぎて尊い」
「きゃはーん♡ ご主人様ぁぁん♡」
「鍛えているのでは?」
一言発しただけでクールが解けたヴィエルジュが、やたらと引っ付いてくる。
『つ、次、カマーセル』
あ、続けるんだね。
ヴィエルジュで確定かと思われたけど、まだやるんだ。一応、全員分やるってことなのかな。
そこから俺のクラスメイト達が呼ばれていく。
どうやら成績順みたいだね。
なら、俺は最後っぽいな。悲しいけど成績がドベなのは理解しておりますよ。
しかし、ヴィエルジュみたいに反応を示した者は今のところいない。
「やっぱ、ヴィエルジュのやつが異常だったんだな。このままいけばヴィエルジュが代表か」
「私はあまり代表というのは向かないです。裏で暗躍するタイプですので」
「表舞台で勇者みたいに活躍するヴィエルジュも見てみたいな。絶対惚れるわ」
「任せてください。ダンジョンを破壊して、その場を私達の結婚式場へと変えてみせましょう」
息をするように裏の発言をしますよ、このメイド。
『次、フーラ!』
「あ、私だ」
「いてらー」
「いってらしっしゃいませ」
「いってらっしゃい」
「いってくる!」
俺達に見送られながらフーラが行った。
『フーラ様!』
『きゃー! フーラ様ぁ!』
『かわいー!!』
会場はフーラコールに包まれる。
俺達と一緒だといじられキャラの芸人位置で忘れてたけど、フーラはこの国のお姫様で、フレンドリーな王族だから人気なんだったな。手なんか振りやがって、すっかりアイドル気分でいやがるぞあいつ。
ピカッ──!
あっれ。フーラもヴィエルジュ同様にやたら反応しているんですが?
フーラの奴も、「私、選ばれちゃいました? てへ☆」みたいな感じ出してんだけど。
人気者のフーラに杖が反応したことにより、会場はお祭り騒ぎ。
拍手喝采の中、彼女が戻って来る。
「いやー。どもどもー」
「フーラ。こういう場合はどなるんだ?」
「さぁ……。ヴィエルジュとジャンケンとか?」
ジャンケンって……。
『つ、次、ウルティム!』
フーラの次に呼ばれたウルティムが、とたとたと杖を握りに行った。さっさと行って、さっさと帰ろうってことだったのだろうが……。
ピカッ──!!
ヴィエルジュとフーラよりも強く反応を示している。辺りが一瞬だけ光に包まれた。
「なぁ。ウルティムの方が反応強くない?」
「これはウルティム様の方が杖に認められたということでしょうか?」
「そうだね。明らかに反応が強いもんね」
先程のふたりよりも強く反応を示したことにより会場の困惑が強くなる。
『な、何者だ。あのロリ』
『あのロリっ子の反応。桁違いだ』
『新時代の幕開けか?』
ザワザワとしている中、ウルティムが戻って来る。
「マスター。あの杖、多分マリンの」
「マリンって、天性の転生者マリン?」
こくこくと頷く。
『つ、次は、ええっと、リオン!』
学園長も、例年反応しない杖なのに、今年は三人も反応したことによって動揺を隠せていない。ま、メッキが剥がれたらただのメンヘラですもんね。
ウルティムの話では、このドラゴンの杖は転生者マリンのものっぽい。
ということはだね。転生者の魔力に反応しているってことだよね?
ヴィエルジュとフーラは俺の魔力を送ったし。ウルティムはマリンから魔力を送られているわけだからさ。
これ、俺が触ると──。
GYAOOOOOOOOOOOO!
なんか杖からドラゴンが出て来たんですけど。
バッサバッサと講堂の天井を翔ぶドラゴンはそのまま杖の中に戻っていった。
「……」
うおおおおおお!!
ヴィエルジュからフーラ。そしてウルティムへのテンションも相まって、会場は割れんばかりの歓声が飛び交った。
あれ、もしかしてこれって俺が代表になるパターン?
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