三章

第62話 時は満ちた。アレの日は近い……

 自分で言うのもなんだが、俺は美少女に囲まれている。


 専属メイドに王女様に禁忌の魔法を持つ王族。


 誰もが羨む美少女だ。そんな女の子達に囲まれてるってのに。


「なぁんでこんなのと」


「こんなのとは失礼だね」


 アルバート魔法学園の一組の教室。放課後。


 目の前の、ザ・貴族のお坊ちゃんって感じの男は前髪をかき分けて言ってのける。


「はぁ……。噛ませ犬から教わる日が来るとはな」


「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」


 俺がどうして噛ませ犬といるかと言うと、もちろん理由がある。


 強制的に補習となった俺だが、カンセル先生の補習を受けるはずだったんだ。


 しかし、カンセル先生は多忙の身。俺の相手をしている余裕がないらしい。


 そこでカンセル先生の代わりに成績優秀なヴィエルジュが俺の補習を見てくれることになった。


 カンセル先生てきには、ヴィエルジュと組んでさっさと補習なんて終わらせな☆ っていう粋な計らいだったのだろう。


 しかし、それを学園長が阻止。


 俺とヴィエルジュが組んだらどうなるか。そりゃもちろん不正するだろうとのことで、ヴィエルジュの次に成績の良い噛ませ犬を採用させた。


 ヴィエルジュじゃないなら他の先生を用意しろと声を大にして言いたかったが、噛ませ犬てきにはこれで内申点がアップするとかなんとかで補習の先生役を引き受けたとのこと。


「しかし、まさかキミがこの時期まで残っているとは驚いた」


 噛ませ犬が関心した声を出す。


「そういや、クラスメイトの半分が消えたな」


 衣替えを果たした季節。夏への階段を徐々に上がりつつある現在、クラスメイトが大分減ってしまった。


「アルバート魔法学園じゃ珍しいことでもない。並の魔法使いじゃ付いて行けずに退学さ。二回生、三回生のクラスが一クラスだけになる理由はみんな退学になるからね。僕達の学年も来年には一クラスさ」


 だから、こんなに敷地が広いのに人が少ないんだね。


「それにしたって、なんでこの学園は一回生、二回生って呼び方なんだ? 普通は一年生、二年生じゃ?」


「さぁね。アルバート独特の呼び方さ」


 前世の日本の関西の大学の呼び方なんだよなぁ。あれが関西特有って聞いた時はびっくらこいたのを覚えている。


「それなのに、まさか魔法も使えない人が残るなんて誰も予想してなかっただろう」


 いや……と否定してから言葉を続ける。


「魔法を使えないからこそ活躍できたと言っても良いかもね」


「そりゃどうも」


「あはは! 僕は最初からわかっていたけどね! キミがヘイヴン家の落ちこぼれではなく、騎士の才能があることを」


「よく言うわ! ぼけ! 最初っから喧嘩売ってくるわ、学園初日から決闘挑んでくるわで、色々悪絡みしてきたくせに」


「あっはっはっ! まぁまぁ! こうやって魔法も教えているんだ。過去は水に流そう。いや、今やっている内容から電気に流そうってか? あっはっはっ!」


 都合の良いやつ。


 しかし、悔しい。こいつの魔法の教え方はかなりわかりやすい。


 魔法の才能がない俺でも杖に雷を纏わせるくらいはできるようになった。


 流石は由緒正しき魔法の家系、ヌゥーダ伯爵家ってとこか。


「ここまでできれば僕の役目も終わりだね」


「あ、ああ。ありがとな」


「これでキミも魔法使いの一歩を踏み出した。歴史的瞬間だね。では、アデュー☆」


 ちょっと良いやつかもと思ったけど、やっぱりキモいなあいつ。







「「「おかえりなさいませご主人様」」」


 部屋に戻るとロイヤル双子メイド+禁忌の魔法持ちのロイヤルロリメイドがお出迎え。


 この世界の王族はメイドになるのが好きなんだなぁ。俺がメイド好きだから凄く嬉しいんだけどね。


「ご飯にします?」


 ヴィエルジュの問い。


「お風呂にします?」


 フーラの問い。


「それとも、わ・た・し?」


 最後にウルティムの問い。


「飯かなー」


 ようやく終了した補習で腹が鳴り止まないもんね。


「ふふん。どうですか。どうですかー。やはりご主人様の一番の理解者は私のようですね」


 俺の答えにヴィエルジュが鼻高々な顔をしてみせる。


「んもぅ。なんでお風呂じゃないのよ。お風呂だったら私と入れたのに」


「フーラみたいな貧相な身体と入ってもマスターはつまらない」


「なにをおお!? ウルティムだってロリ体型じゃない」


「フーラよりある」


 バンっと胸を張るウルティム。


「それに、わたしはロリ属性でもある。フーラにはなにか属性がある?」


「わ、私は、ほら。王族だし?」


「わたしも王族」


「ぐふっ」


 フーラが屈した。


「居候のくせに。良い部屋を用意してあげてるのに。追い出すわよ、超絶お姉様」


「フーラにも需要はある。顔はめっちゃ可愛い」


「息をするような手のひら返しに私は困惑だよ」


「お前らー。俺は腹減ったんだけどー。もう茶番は終わりで良いかー?」


「そうですよね。こんな人達は置いておき、私とふたりっきりのディナーと参りましょう。ささっ」


 ヴィエルジュが俺の腕にしがみついて部屋の中に案内する。つうか、俺の部屋なんだが。


 俺の部屋は一時期ヴィエルジュの魔法のおかげで冷凍庫と化していたが、今ではすっかり元通り。部屋の隅辺りがまだ凍っている気がするけど、生活に支障はない。


 そんな部屋の中央には四人分の食事が用意されていた。


 ヴィエルジュもなんだかんだと言いながら四人でご飯を食べる気だったんだなぁ。


 ま、俺以外の同い年との絡みってのは少なかったからテンション上がっているのだろう。ウルティムは超絶お姉様だけど……。いや、封印されていたから実質タメだな。


「あ、そうですご主人様」


 ヴィエルジュが思い出したように手を合わせる。


「明日は朝から講堂に集合らしいですよ」


「へ? そうなん?」


 いや、というか。


「講堂は確か、ライオ兄さんが一部を壊して修理中じゃないの?」


 こちらの疑問に、ウルティムと共に部屋に入って来たフーラが答えてくれる。


「もう終わったらしいよ」


 流石は異世界。修理も魔法でちょちょいのちょいってか。


「講堂でなにすんの?」


「多分、を決めるんだよ」


「アレってなんだよ」


 ふっふっふっ。不適な笑みを浮かべてフーラが俺に迫ってくる。


「知りたい? 知りたいなら私とお風呂で背中の流し合いっこ──」


「いや、別にいいや。飯にしよう。ヴィエルジュ、ウルティム」


「「はーい」」


「ちょっと待って! 王族とお風呂だよ!? この顔を見て? この顔とお風呂だよ!? クラスメイトの男子なら泣いて喜ぶイベントだよ!?」


「そんなクラスメイトも随分と減ってしまったよな」


 ポンっとフーラの頭に手を置く。


「フーラはいなくならないでくれよ」


「リオンきゅん……♡」


 騒がしいフーラを鎮め、ようやくとご飯を食べられることとなる。


 しかし、フーラのアレとはなんなのだろう。気になるが、明日になればわかることか。

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