第58話 年齢不詳が多すぎる件

 ウルティムだけを連れて来いと言っていたのに大所帯になっちまった。流石に怒られるかなぁと思ったんだけど、司教様は仏様の顔を崩すことはなかった。


「では、皆様で参りましょう」


 祭壇の隣にある聖具室に通される。祭服や備品がある倉庫みたいな部屋の中、司教様が壁に手をやると、ゴゴゴゴゴゴゴと壁が開く。


 おおー。


 こういう仕掛けって隠しダンジョンみたいで面白いよね。


 俺を含めた何人かの声が漏れる中、司教様は涼しい顔をして開いた壁の中へ入って行く。


 それに俺達も続く。


 中は石の螺旋階段となっており、コツコツ、くるくると階段を降りる。


 螺旋階段を降りきった先には大きな扉が見えた。おそらくこれが開かずの扉だろうと直感的にわかる。


「なにか書いているな」


 ルべリア王女が扉になにか書いてあるのを見つけて声を出すと、司教様が困った顔をして教えてくれる。


「古代文字だと思うのですが私もなんと書いてあるのか見当も尽きません」


「古代文字、ねぇ」


 なんともまぁ懐かしい文字に声を出して反応しちまう。


 扉には日本語が書かれていた。


『アリエスのアルバム』


 その下に


『100歳未満は立ち入り禁止』


 まぁ色々と情報過多になっちまう扉だが……。俺の他にも日本の転生者がこの世界にいるのか、それともいたのか。アリエスのアルバムの意味はなんなのか、どうして100歳未満は立ち入り禁止なのか。


「この言葉の意味はわからないのですが、扉のくぼみの部分が怪しいと思うのです。ここに剣を刺せばなにかが起こるのではないかと」


 文字は読めるが、それを成す意味がわからないため古代文字(日本語)のことは置いておき、司教様の言葉に耳を傾ける。


 確かに、中央に剣を刺すのに丁度良いくぼみがあるのがわかる。


 司教様が刺して感を出して来るため、物は試しってことでウルティムを封印していた剣をそのくぼみに刺してみるか。


 サクッと扉に剣を刺すと、扉全面に魔法陣が浮かび上がる。


「きゃ」


 女性陣の誰かの短い悲鳴が上がったのも、いきなり目の間が強く光り出したからだ。


 その光は俺達を包むように大きくなった。




 ♢




 気が付くと俺は遺跡のような場所に立っていた。


 目の前を見ると先程の開かずの扉が閉じたままの状態である。


 どうやらウルティムを封印していた剣を刺したことによって、中に入ることができたってことかな。


「マスター。無事?」


 ふと隣にはウルティムが立っており無表情ながらもこちらを心配してくれる言葉を出してくれる。


「俺は大丈夫だよ。ウルティムは大丈夫だった?」


 コクリと頷く。彼女に問題はなさそうだ。


 くるりと周りを見渡すと、ヴィエルジュ、フーラ、ルべリア王女の姿はなかった。


 えーっと……。司教様はなんで阿修羅みたいな顔をして怒ってんだか。怖いんですけど。


「どうしてお前がこの中に入っている、リオン・ヘイヴン」


 唐突に怒った口調で呼び捨てしてくる。


「どうしてと言われましても……」


「ここに入れるのは長い年月を生きた者のみ。つまり、私とウルティムだけのはずだ」


 確かに、100歳未満は立ち入り禁止とあったが、司教様知ってたんだね。つうか、それだと司教様100歳以上になるけど……。本当に人間か?


「お前も長い年月を生きた者とは言うまい……。するともしや、お前は勇者と同じ……」


 キリッと俺を阿修羅のような目で睨みつけてくる。正直、めっちゃ怖い。


「忌々しい勇者めっ。現世でも邪魔するか」


「いや、勇者とかではないですよ」


「ウソをつけ! この場にいるのがその証拠。またテンセーの魔力で我々にたてつくと言うのか!」


「いや、ほんと、まじで勇者とかではないんですけど」


「だからウルティムも使えるのだな……。くそ……。現世に勇者が蘇りやがった。完全なる誤算だ……」


 司教様ったらひとりで完全に盛り上がってやがる。こちとらなんのことか訳わかんない。


「ここでウルティムを我が物にしようとしたというのに、よくも台無しにしてくれたな」


 とりあえず、確実にわかる情報として、司教様はやっぱり敵ってことでOKだよな。


 そりゃ最初の阿修羅みたいな睨みから違和感があったんだよ。しかも、ウルティムを呼んで来いとか言って来るし。怪しさ爆発してたよね。泳がせて様子見してたけど、思わぬところで阻止できて良かったわ。阿修羅みたいで怖いけど。


「目的はやっぱりウルティムを使っての世界征服か?」


「その通り、だ!」


 ふんっ!


 司教様が気合いの声を出すと、一気に禍々しい姿に変わる。それは、ジュノーやバンベルガのような魔人化に近い姿である。


 しかし、注射器を使用せずに魔人化したぞ、この司教様。


「この姿になるのは数百年振りだ。なぁウルティム。いや、アリエスよ」


 魔人化した司教様がウルティムに話しかけるが無表情で無視を決め込んでいた。


「覚えておらぬか。まぁ良い」


 無視されてちょっぴり悲し気な魔人化司教様。


「我が名はベスタ。大昔、勇者に敗れた魔王軍の生き残りだ」


 ウルティムに無視されたのが悲しかったのか、ベラベラと喋ってくれる。


「我は今まで人間に化けて生き延びて来た。お前達人間を根絶やしにするためにだ。勇者は死に、人間は平和ボケしているこの時代において、ウルティムを使ってお前達人間を根絶やしにする時が来たのだ」


 ベスタって魔王軍の残党がこちらを指差してくる。


「人間を根絶やしにする前に、現世に蘇りし忌々しい勇者よ。お前から血祭に上げてやる」


「だから勇者じゃないっての!」

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