第57話 正しいウルティムの召喚方法

 ルベリア王女に連れて来てもらったステラシオン大聖堂。


 中はまるで結婚式場のようになっており、神秘的な雰囲気を醸し出している。


「ここでは結婚式が行われる。ステラシオン女子はここで式を挙げるのが密かな夢なんだ」


「王女もここで式を挙げるのが密かな夢なんですか?」


「え、あ、ああ……」


 小さく頷くと、ちょっぴりだけ恥ずかしそうにはにかんで教えてくれる。


「幼き頃から剣一筋で恋愛などわからないのだがな。でも、ここで見る花嫁はみな幸せそうなんだ。だからあたしもいつか好きな人とここで式を挙げられたらな……と」


 途中で照れ臭くなってしまったのか、あわあわと慌て出した。


「こ、恋もしたことない脳筋女がなにを言ってんだって話だな。あはは。どうせあたしはどこかの貴族と結婚させられるのがオチ。今のは忘れてくれ」


「素敵な夢じゃないですか」


「へ……」


「ルベリア王女にはきっと素敵な人が現れますよ。今まで剣一筋で頑張って来たんだから、神様は見てくれています」


「そ、そうかな……」


「今までの努力っていうのは、そのことだけじゃなく人生に影響すると思うんです。だから、その努力が実を結んで素敵な花婿が迎えに来てくれますよ。その人と結ばれて綺麗なウェディングドレスが着られると良いですね」


 素直に思ったことを言うと、彼女は顔を赤らめて顔を逸らした。


「いきなりそんなこと言われたらめちゃくちゃ好きになるだろうが、ばか……」


 蚊が鳴くよりも小さな声でぶつくさなにか言っている。好きとかなんとか聞こえたが……。


 まさかあなたより強い俺が好きなんですか? ぷくく。自分より強い人が好きとか言ってましたもんねー。


 なんて冗談を言える雰囲気の場所じゃないから、普通に質問を投げてしまう。


「もう好きな人がいるんですか?」


 尋ねると、真っ赤な顔をして睨んで来る。


「い、いる」


「そうですか。その人との恋が結ばれますように」


「なっ……!?」


 俺、まともなこと言ったよな。なのに、なにその不服そうな反応。


「なんで今日はまともなこと言ってくるんだよ。大会の時はあんなに冗談言って来たのに。ひょうひょうとしてる奴が真面目な顔するとかギャップでどうにかなってしまうだろうが……」


 まぁたぶつくさ言ってやがる。


「王女様?」


「う、うるさい、ばかもの! ばーか、ばーか!」


 大聖堂に似つかわしくない声が響く中、祭壇にいる司教様の下へと辿り着く。


「ルベリア王女。楽しそうでなによりでございます」


「はっ……。も、申し訳ありません司教様。このような場所で騒いでしまい」


「構いませんよ。誰の迷惑にもなっておりません。それにそんなに楽しそうにしている王女を見るのは初めてですので、神もお許しになってくださるでしょう」


 この司教様は怒ったことがないんだろうなぁ。仏様とはこのことだ。


 とか思っていると、ほんの一瞬だけ俺を見る目が阿修羅みたいな顔になった気がする。


「リオン様。お初にお目にかかります」


 さっきの阿修羅みたいな顔は見間違いか、穏やかな顔をして頭を下げてくれる。


 ここはステラシオンだし、俺がレオン・ヘイヴンの恥さらしの三男ってことで名前だけは知っていたみたいだな。


「初めまして、リオン・ヘイヴンです」


 互いに頭を下げ、同時に上げた時に司教様が俺とルベリア王女を見比べながらと尋ねてくれる。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「はい。実は──」


 俺はウルティムを封印していた剣を司教様に見せながらここを訪れた理由を話した。


 ウルティムのことは伏せつつ、この剣に印されたマークのことを尋ねる。


「──なるほど。確かにそのマークは旧ステラシオンのもので間違いはないでしょう。リオン様、そちらの剣を少し拝借してもよろしいでしょうか?」


「はい」


 剣を司教様へ手渡すと、「ふむふむ」と鑑定するみたいに剣をジロジロと見つめる。


「旧ステラシオンのものが原型を留めて現代にあるのは非常に珍しいですね」


 言いながら、一瞬だけ魔力を剣に送った。それになんの意味があるのかはわならないが、特になにも起こらない。やはり俺の魔力にしか反応しないようだ。


「この剣は裏切りの魔女、アリエスのものやも知れませぬ」


「裏切りの魔女?」


 なんともまぁ物騒な名前が出て来たもんだな。


 ルベリア王女に視線を送ると首を横に振る。どうやら彼女も知らないようだ。


「旧ステラシオン時代のことなので、気の遠くなるような昔の話ですが」


 司教様はそう前置きをして教えてくれる。


「大昔、この世界は魔王を名乗るテロリストが世界征服を目論んでおりました。それを阻止するために勇者が現れ、魔王を倒しました」


 よくあるお伽話だ。この世界にも昔は魔王だの魔物だのってのがいたのは知っていたし、この話だって世界的に有名なものだ。


「勇者には仲間がおり、武闘家、賢者と共に魔王を倒した。というのが皆様の知っているお伽話ではないでしょうか」


 ですが、と抑制をつけて話す司教様。多分、この人ボランティアで子供達に紙芝居してるわ。非常に聞きやすい。


「勇者には四人目の仲間、魔女がいました。


 それがアリエスです。


 アリエスは強力な魔法を秘めており、実は魔王を倒したのもアリエスなのではないかと言われております。


 その莫大な力でアリエスは次の魔王になろうと企み、勇者に処刑されたとあります」


「なるほど……」


 司教様の話もお伽話の延長かも知れんが、もしかするとウルティムの本当の名はアリエスというのかも知れないな。


 まだなんの確証も得られていないからなんとも言えないがね。


 もう少し決定的ななにかがあれば良いんだけど。


「これ以上のことは私にも……。そういえばこの大聖堂の地下には開かずの扉があるのですが、その扉を開けるには剣が必要だと書かれておりました。もしかするとその剣が鍵になっているやも知れません」


「その開かずの扉を開けると、アリエスのことを知ることができますかね?」


「おそらく……」


 司教様は少し考えると、俺に提案してくる。


「リオン様。これは旧ステラシオンのことを知れるまたとないチャンス。私自身、もっと旧ステラシオンのことを知りたいのです。差し支えなければウルティムをこの場に呼んで頂けることは可能でしょうか?」


 あれ。俺、ウルティムの話をしたっけ?


 ……。


「少々時間がかかりますがよろしいでしょうか?」


「いくらでも待ちますよ」


 司教様に許可を得て俺はルベリア王女と大聖堂の外へと出た。


「リオン・ヘイヴン。一体、どうするのだ?」


「司教様のご要望に応えようと思いまして」


「ウルティムを呼んで欲しいと言っていたな。今はどこにいるのだ?」


「アルバートにいますよ」


「そうか。ここからアルバートまで往復するとかなりの時間がかかるな」


「大丈夫です」


 そう言って俺は剣に魔力を送った。


 大量の魔法陣がそこら辺に浮かび上がってくる。


「ウルティムを召喚できるのか?」


「まさか。ほら、南の空を見ていてください」


 バアアアアン!


 遠くの方で花火が打ち上がった。


「いやー。綺麗な花火ですねー」


「? 花火だった?」


「これで大丈夫。後はマッハでウルティムが来ますよ」


「???」







「リオンくん!! どういうつもり!?」


「ほら、マッハでやって来た」


 フーラがそりゃもうカンカンでステラシオン大聖堂にやって来る。


「考えていたんだ。フーラにどうしても会いたくて、どうすれば会えるか。それで考えついたのがこの作戦だ」


「めちゃくちゃな作戦考えないでよ! 会いたいならいつでも会えるんだから!」


「今すぐフーラに会いたかったんだ。ほんとだよ?」


「うっ♡」


 フーラは激しく首を横に振り、なんとか正気を保ってみせる。


「そ、そんな甘い言葉に騙されないんだからね!」


「来てくれてありがとうフーラ。会えて嬉しい」


「トゥンク♡♡」


「はーい、即落ち二コマ王女お疲れ様でーす」


 ヴィエルジュが呆れた様子で言ってのける。


「ヴィエルジュも来てくれたんだな」


「ご主人様のいるところが私の居場所ですのでマッハで来ました。シルバで」


『ヒ、ヒーン……』


 なんか知らんが、バンベルガの白馬がヴィエルジュの馬になっている件。そして、その白馬が勝手に死にかけている。


 美少女三人を背中に乗せて興奮ダッシュで限界ってところなんだろう。それにしてもえらい早いご到着だったな。安らかに眠れ。


「俺が無理くりに呼び出したから言えた身じゃないけどさ、学園は大丈夫そう?」


「カンセル先生がなんとかしてくれますよ。きっと」


 あ、この感じは黙って来たな。ま、なんとかなるだろ、うん。


「それにしてもよくここにいるってわかったな」


「ウルティム様がご主人様の居場所を当ててくださりました」


 ヴィエルジュがいつの間にか俺の目の前に立っていたウルティムに視線を向けて言ってのける。


「わたしはマスターの魔力を逆探知できる」


 使用者の魔力を追えるって意味だろうけど、なんかGPSを仕込まれてた彼氏みたいな気分だわ。


「むぅ。ご主人様の魔力を逆探知できるなんて羨ましいです」


 ヴィエルジュに逆探知されたらとんでもないことになりそうだな。


「……それで、どうしてご主人様はルベリア王女様とご一緒で?」


 ずいっと圧をかけながらヴィエルジュが迫ってくる。


「まさか、デート、していたとは言いませんよね? ねぇ?」


「はは。まさか。ね、ルベリア王女──」


 って、おい王女。何を頬を染めて俯いてんだよ。デートしてたって思われるだろ。


「デートしてたのですか? 私を差し置いて、ルベリア王女とデートしてたのですか?」


 殺気を感じる。このままだと俺は死ぬだろう。言い訳をしないと。


「違うから。ルベリア王女に、ここのことを聞いたんだっての」


 そこで俺はここまでの経緯をみんなに話す。


 三回目でようやくヴィエルジュが納得して大聖堂の中へと入って行く。


「わかりました。ほら、行きますよ、即落ちお姉ちゃん」


「……へへ♡ へ?」


 ヴィエルジュは機嫌悪くフーラを引きずって中に入って行く。それに続いて、俺達も大聖堂の中へと入って行った。

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