第55話 行けたら行くって奴は来ないけど、行くって言ってた奴も来ない場合がある

「リーオーンくーん!」


 アルバート魔法学園。一学年一組の教室。


 いつもの席に座っていると、朝からプリプリとした様子のフーラが絡んで来る。


「どうした?」


「どうしたもこうしたもないよ! わかるでしょ!?」


 腕をピーンと真下に伸ばして、私は非常に怒っているアピール。


 はて……。思うところがあり過ぎて逆にわからん。


「席を強制的に変えたことか。それとも強制補習連行をスルーしたことか。もしくは最近の扱いが雑なことか……」


「私、怒るところめっちゃあるじゃん!」


 自分でも気が付いていなかった様子。これがアルバートが誇る天才魔法使いってんだから笑えるね。


「いや、そのどれもが怒ることなんだけど、今回のはまじでやばかったから。ほんと、どう責任取るのってレベルだったから」


 ビシッと俺を指差して言い放つ。


「なんでウルティムを発動させたのよ!」


「あ、やっぱ発動してたのか」


「かるーい! 軽すぎるよー! 私がどんだけ怖い思いしたのか知らないでしょ!!」


「痛い、痛い……」


 ポコポコ叩いてくるフーラ。


「うう……。反省しろー!」


 ちょっと涙目なフーラを見ると、申し訳なくなり、彼女の手を取り引き寄せて耳元で囁く。


「昨日はありがと。やっぱりフーラは頼りになるな」


「トゥンク♡」


 この子、口で擬音を発しちゃったよ。


 ちなみに、このくらいのことは昨日のヴィエルジュで経験済みなので恥ずかしくもなんともない。キザ上等。中二病万歳だ、このやろー。


「べ、別にー……。リオンくんが? まぁ、そうやって言うなら? あれくらいのこと……」


 くるくると自分の髪をいじりながらモジモジしている。


「フーラ。簡単」


 その間にウルティムがしれっと俺の膝の上に乗っかる。


「おい、元凶。あんたはいつの間にリオンくんの上に乗ってるのよ」


「グッドモーニング」


「無表情なのにどこか陽気に聞こえるわね」


「朝の挨拶は大事」


「じゃなく。そこをどきなさい。今、私はリオンくんボイスで脳内を焼かれてドーパミンが爆発してんのよ。リオンくんだけを視界に入れたいの」


「流石マスター。魔力だけでなく、精神攻撃も得意とは」


 なんかウルティムに感心された。


「んで、このやり取りを一切無視して、ヴィエルジュはなにを黄昏てんのよ?」


「ああ。ヴィエルジュは今朝からこんな感じなんだ。ソッとしておいてやれ」


 フーラが首を傾げる。


「魅了の魔法があれば……あんなことやこんなこと、ああ、そんなことまで……。くっ……」


「リオンくんのメイドが悔し涙を流している件」


「放っておけ。それは悔し涙じゃなくて、ただの欲望だから」


 魅了の魔法なんてこいつの手に渡ったらどうなっていたか、考えるだけで恐ろしい。


「つか、ちょっとまじな話なんだけどよ」


 切り替えるように言うと、フーラだけが反応してくれる。ヴィエルジュは黄昏てるし、ウルティムは無表情だから、自ずとフーラだけになるな。


「どうやらメインベルトって組織のベスタってのが俺を狙っているらしい。ヴィエルジュに魅了の魔法を使って俺に襲い掛かって来たんだよ」


「魅了の魔法!?」


 やっぱりこいつら双子だわぁ。反応するところが同じだよ。ジト目をプレゼントすると、苦笑いで返される。


「えへへ。ごめん、ごめん」


 話の腰を折ったことを詫びたフーラが質問を投げてくる。


「それってウルティム絡みってこと?」


「おそらくな」


「メインベルトって、バンベルガって人も言ってた組織よね。どこからかリオンくんがウルティムを使えることを知って襲いかかって来たって感じ?」


「俺もフーラと同じ考え。昨日のは捨て駒を使って探りを入れて来たってとこかな」


「だったら、またいつ襲って来るかわかんないよね」


「そうなんだよ。そこでさ、俺はウルティムと一緒にいた方が安全なのか、それとも別々にいた方が安全なのか問題が発生すんだよな」


 正直、どちらに転ぶかはその時の運って感じがするんだよね。


「答えは簡単」


 それまで、ポケーっと聞いてたウルティムが口を挟んで来る。


「マスターとわたしは一緒」


 そのままギュッと俺にしがみついてくる。


「答えは簡単です」


 それまで黄昏ていたヴィエルジュが、ネコを掴むようにウルティムの首根っこを持ち上げて俺からどかし、俺の上に乗って来る。


「ご主人様と私は一緒」


「圧倒的体重差」


「これが愛」


「重いからどいて」


「はぁ……。魅了の魔法があれば言う事聞かせれたのに」


 まだ言ってやがる。そんなに欲しかったのかよ。ぶつぶつと呟きながらも素直に俺の上からどいてくれる。


「うーん……」


 茶番を繰り広げている間にもフーラは腕を組んで真剣に考えてくれていた。案外真面目なんだね。


「正直、どっちが正しいとかはないと思うな」


「無難な回答どうも」


「おーい! 真剣に答えたらこれだよ!」


「ちょっとウルティム絡みで気になることがあるからステラシオンに行きたいんだよな。みんなで行った方が良いか。それともひとりで行った方が良いか」


 俺が真剣に悩んでいるとフーラが、「そんなの簡単だよ」って言ってくれる。


「全員で行こっ☆」




 ♢




 とかなんとか抜かしやがったフーラは補習で行けず終い。


 ウルティムも授業日数が足りていないとかなんとかでフーラと一緒に補習。


 そんなわけで、俺とヴィエルジュはステラシオンに行くためにカンセル先生へ相談したんだけど。


「事情はわかったけど、なんとかできても一人だなぁ」


 って言われてしまった。そりゃ俺達はあくまでも学生だもんな。この前は筆記試験が免除だったからプラプラできたってだけだし。一人でも自由が効けるようにできるだけでもカンセル先生は凄い人だよな。あ、あの人二番隊隊長だし凄い人か。


 結局、俺ひとりでステラシオンにやって来た。


 相談した意味は全くなかったね。


 ま、ひとりである方が良いのか、みんなでいる方が良いのかはその時によるし、どっちでもいいか。


 それにしたって、この前来たばっかりだから懐かしさは皆無だな、ステラシオン。


 相変わらず、その辺を脳筋が歩いているんだけど。


 目的は懐かしさを感じに来たわけじゃなくて、ウルティムを封印していた剣を見てもらうこと。


 封印の剣にはエスコルさんの店に似たマークが印されている。


 ただ似てるだけだろうが、この剣を詳しい人に見てもらえば、ウルティムのこともちょっとはわかるだろう。


 早速とエスコルさんの店のドアに手を置く。


「「あ……」」


 手と手が触れ合う。図書館で本を取ろうとしたら手が重なったアレに近い感じ。


 いやいや。鍛冶屋でそんなフラグが立つかいな。どうせガチムチでしょ。


「お、お前は、リオン・ヘイヴン!」


「ほらぁ。やっぱりガチムチだった」


「誰がガチムチだ!」


 俺と手が触れ合ったのは、ルべリア王女だった。

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