第51話 転校手続きは面倒くさい(転校未経験者談)

 世界最悪の魔法、ウルティム。

 

 そんな二つ名が付いている彼女だからこそ、またいつバンベルガみたいな奴がウルティムを狙うやわからない。


 そんなわけで、アルバード城にて面倒をみるという話に落ち着いたと思うんだけどさ。


「うーい、みんな。今日は転校生を紹介すっぞー」


 カンセル先生の声に教室内がざわつく。


 そりゃ、転校生なんて由緒正しきアルバート魔法学園において、退学で人が減ることはあっても、増えるということはほとんどあり得ない。


 それに、転校の条件は入学試験よりも厳しいはず。それを乗り越えて転校ってなると、かなりの猛者が来るに違いない。


 クラスメイト達は固唾を飲んで転校生を待ち構える。


「ぃ……?」


 そんなクラスメイト達の反応をよそに、こちらはなんとも言えない反応をしてしまう。


 なんだか妙に久しぶりに見るチャラ男のカンセル先生の姿なんかどうでも良かった。


 問題はチャラ男の隣に立っている転校生だ。


「ほいほい。自己紹介」


「ウルティム」


 なんであのロリっ子が制服を着て、学園に来てんだ?


 チラリとフーラを見る。


「良いのかよ。城で見張ってなくて」


「あははー。ごめんねー。学園に行くって聞かなくてー」


「ですがご主人様。ウルティム様が人間だった場合、ずっと部屋に閉じこもるというのも息が詰まります。近くには私達もいるため、学園に通うくらいなら安全かと思われますよ」


「ま、ヴィエルジュの言う通りではあるけどさ」


『本当に同い年?』


『飛び級とか?』


『かわいい』


『おい。あれに手を出すとか犯罪では?』


『いや、年は近いだろ』


『かわいいは正義だもんな』


 クラスメイト達から様々な声が上がる中、ウルティムは無表情のままに俺の席までやって来て俺の膝の上に座りやがった。


「なっ……!?」


 隣のヴィエルジュの唖然とした声が上がるのを筆頭に、クラスメイト達から罵声が飛んでくる。


『騎士の落ちこぼれのくせに、ロリコンかよ!』


『え、姫様とメイドでは飽き足らずロリにも手を出してんかよ、ヘイブン家』


『きも……』


『おい! そこ代われ!!』


 あ、はい。もうね、なにしても言われるから慣れたものよ。こうなったらもうなにしても一緒なもんだから、ドヤ顔しておくに限るね。


 ドヤァ。


「ちょっとご主人様! なにを悠長にドヤ顔決め込んでいるのですか!」


「だってなにしても言われるし……」


「そんなことよりも、ウルティム様をどかしてください」


 ヴィエルジュの声にウルティムが返す。


「マスターとわたしは一緒でなければならない」


「はぁ!? だったらご主人様と私は一緒じゃないといけませんけど!?」


「ヴィエルジュはマスターの魔法?」


「嫁です!」


 即答でのヴィエルジュのその返しはもう定番になってしまったのね。


「だったら隣で十分。わたしはマスターと一心同体」


「ご主人様のことも考えてください。上に乗られたら重いでしょうが」


 ヴィエルジュ。きみは良く俺の上に乗ってきたのを棚に上げているよ。


「マスター。重い?」


 無表情のままに聞いてくる。


「重くはないけど、座りにくいかな」


「そう」


 そう言うと、ウルティムはフーラの方へ避けてくれる。


「フーラ。詰めて」


「はい? なんで?」


「ヴィエルジュはマスターの嫁。わたしはマスターの魔法。だったらフーラは関係ない」


「いやいやいや。私はリオンくんの婚約者ですけど」


「婚約者……?」


 ウルティムが俺を見つめて無表情に首を傾げる。


「すけこまし?」


「なんちゅう言葉遣いしてくんねん」


「ウルティム様、ご安心を。その方は自称婚約者を名乗る不届き者でございます」


「確かに。嫁のいる人に婚約者はおかしい」


「ちょっと! なんちゅうこと言ってくれるのヴィエルジュ! あんたの方こそ自称じゃない」


「自称なの?」


「自称ではございません。未来予知です」


「ヴィエルジュは未来予知ができる……。すごい」


 簡単に信じちゃったよ、この子。


「おーい! お前らー! さっさと席決めろー。授業すんぞー」


 いい加減、カンセル先生が注意してきたので、最終的にジャンケンで決めることになった。


 その結果──。


「城で面倒みてやってるのに、薄情者ー!」


 フーラが負けた。なんとなくフーラが負ける気がしていたがな。


「わたし、薄情者?」


「自称婚約者を名乗る不届き者の言葉に耳を傾ける必要はございません」


「わかった」


 フーラ、不憫だなぁ。




 ♢




 席も無事に決まった。というよりも、そもそもこの学園には指定席がないため、もしかすると明日もうひと悶着ありそうな気もするが、今は考えなくても良いか。


 授業が終わり、俺、ヴィエルジュ、フーラ、ウルティムは約束通りにウルティムのことを調べようと図書館にでも足を運ぼうとした時だ。


「おーい。お前らー」


 廊下でカンセル先生に呼ばれる。


「もしかして、そのウルティムってのは……」


 先生が俺を見ながら聞いてくるもんだから、俺が答えることにする。


「この前、先生の質問したウルティムです」


「やっぱかぁ」


 先生も薄ら気が付いていたけど、改めて俺達に聞いたんだろうな。


「そういえば、先生はどこまで知っているんですか?」


 こちらの質問に対して、先生は俺達がなにか関わっていることを察してくれたみたいで、迷いなく答えてくれる。


「ジュノーが使おうとしていた世界最悪の魔法ってとこまでは調べた。でも、中々忙しくて、それ以上は調べられてないんだわ」


 今のところ、先生の情報と俺達の情報は同じレベル。


 第二部隊隊長に教師の仕事。加えて調査部隊なんてやらされている割には仕事は早いと思うがね。


「俺達は今からウルティムのことを調べるつもりです」


「お、まじか。なんかわかったら俺にも教えてくれよ。最近、筆記試験が終わりやがって忙しさがブーストしてんだよ」


「わかりました。情報共有しましょう」


 先生にはなにかと助けになってもらっているからな。それくらいはしないと。


「じゃあ、早速と俺達は行くので」


 そう言って俺達は歩き去ろうとする。


「フーラ。どこ行くんだ?」


 フーラだけ呼び止められた。


「はい?」


「いやいや。筆記試験の補習があんだろ」


 あー。そういえばこの子、魔法の天才だけど勉強は苦手とか言ってたね。


「先生。私は今から世界のための調査に出るのです。補習なんてしょうもないことをしている場合ではありません」


「自分の勉強もできんやつが世界の調査なんてできるかいな。ほら、行くぞ」


「王族命令です。私の補習をなくしなさい」


「お前が王族なら俺は神様じゃい」


 有無言わず、カンセル先生は廊下にゴーレムちゃんを造り出し、強制的にフーラを連行した。


「私は本物の王女だぞおおおおおお!」


 フーラの職権乱用の言葉は、無残にも廊下に響き渡った。


「さて、ウルティム。お前も転校して来て色々と手続きが必要だ。一緒に来なさい」


「マスターは?」


「幼女にマスター呼びさせているそこの変態は来ない」


「おい待て。色々と誤解が生じているぞ」


「マスターが行かないなら行かない」


 俺の声は届かずに会話を続けてやがる。


「でも、今日行かないと、明日も明後日もマスターと一緒になれないぞ」


「それは困る」


「だろ。だったら行くぞ」


「うん」


 案外、聞き分けの良いウルティムはカンセル先生と共に行ってしまった。


「ふむ。結局、いつも通りにヴィエルジュとふたりか」


「最近、出番が少なかったので当然の報いですよね」


「少なかった、かな?」


「常に一緒だったことを思うと出番が激減で、ヴィエルジュ悲しんでおりました。さ、今からデートに行きましょう」


「調査だぞー」


「なに食べます? クレープ? タピオカ? それとも、わ・た・し?」


「クレープかな」


 久しぶりにテンションがバグったヴィエルジュと共に、クレープを食べてから図書館に出向くことにした。

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