第44話 ヘイヴン家を敵に回すと痛い目に合うだろう

 ライオ兄さんが元の姿に戻ったのは良いけどさ……。あんた、まだ寝る時に親指チュパチュパする癖が直ってなかったんだね。


 ヤンキーチックな兄さんの親指チュパチュパは見たくなかったわ。


 ま、まぁ魔人の呪いが解けたのは良いことなんだけどね。違う意味で兄さんは呪われてるよね。おっぱいチューチューの呪いってか。


 やや、今はそんなことは良い。


 俺は切り替えるように持っていたハルバートをリーフ兄さんに向ける。


「リオン。一体何の真似だ?」


「リーフ兄さん。あんたにルベリア王女誘拐の容疑がかかっている」


 そう。まだなにも解決しちゃいない。


 俺達はただ、兄弟喧嘩を止めただけに過ぎない。


「王女誘拐?」


 心底なにを言っているんだと言わんばかりに疑問の念を出している。


 この態度はシラを切っているって感じじゃなく、本当になにも知らないって感じの態度だな。


「バンベルガさんの話じゃ、兄さんが誘拐したことになっている」


「待ってくれ。話が全く見えない。そもそもの話だ。俺が王女を誘拐する意味なんてない」


「王女を誘拐するメリットってのは色々と考えられるからなー」


「仲の良い弟よ。このリーフ兄さんの言葉が信用できないかい?」


「いくら兄弟だからって、腹の中じゃなにを考えてるかわかったもんじゃないからなー」


「仰る通りだわ。オレだって、ライオやリオンにレーヴェの心の内はわかんないもんなー」


 悠長に肯定しているリーフ兄さんの前で、ブンブンとハルバートの素振りをしてやる。


「ほらほら早く吐いちまいなぁ。リオンくんの拷問が始まるぞぉ。本場アルバート流の拷問見せちゃるぞぉ」


「リーフ様を拷問しながら、私がご主人様を拷問致しますね」


「ヴィエルジュよ。なんでそんな流れになる?」


「新しい扉が開くかと」


 痛ぶりながら痛ぶってくれる。Sを出しながらMも可能。無限の可能性を感じるね。


「アリかも」


「でしょ」


「おい待て年下共。お前らの特殊な趣味にオレを巻き込むなよ。オレにそんな趣味はないぞ」


「リーフ様。お言葉ですが、爽やか系イケメン程に性格を拗らせております。あまり爽やか系イケメンを信用はできません」


 ジュノーの実績があるもんなぁ。俺達は爽やか系イケメンは信用できんよね。


「ヴィエルジュ。リオンも顔の系統はオレと同じだぞ?」


「ご主人様は無条件で信用できますので」


「なに、その羨ましい関係」


 ガックリと肩を落とす兄さんに敵意は感じない。こんなリーフ兄さんは中々見ることができないから、ちょっとレア感があるな。


「冗談は置いといてさ。レーヴェはリーフ兄さんのクッキーを食べて魔人の呪いにかかったんだ。残念だけど、リーフ兄さんが怪しいってのは間違いないんだよね」


「レーヴェが……!?」


 リーフ兄さんの顔色がみるみる青くなるのが見た目でわかった。


「レーヴェがライオと同じことになったのか!?」


 可愛い妹を心配する兄って感じの顔つきで俺に問いかけてくる。


「大丈夫。ライオ兄さんと同じで呪いは解いたよ」


「そ、そうか。良かった……」


 心底ホッとした様子を見せるリーフ兄さんは胸を撫で下ろした。


「あのクッキーはリーフ兄さんが用意したものなのか?」


「いや。実は、あのクッキーってのはバンベルガさんが買って来てくれたんだよ。『ここの有名なお土産です』ってね」


「バンベルガさんが?」


「ああ。まさかクッキーを食べてレーヴェとライオがそうなるとは……」


 ハッと思い出したようにリーフ兄さんは声を出す。


「ルベリア王女にもあげてしまったな」


「──なるほど」


 リーフ兄さんの話を整理すると──。


 バンベルガさんからもらったクッキーをレーヴェとライオ兄さん、そしてルベリア王女へあげてしまった。

 結果、レーヴェとライオ兄さんが魔人化の呪いにかかってしまった。

 そうなるとルベリア王女も魔人化の呪いにかかっている可能性が高いな。

 馬車に乗っていた二人の人影は、魔人の呪いにかかったライオ兄さんとルベリア王女だったら、魔力を感知できなかったのは頷ける。

 そしてその罪を王女誘拐という形でバンベルガさんがリーフ兄さんに擦り付けたってわけたか。


「リーフ兄さん。隊長に出汁にされてんじゃん」


「みたいだな」


 リーフ兄さんも察したみたいで、呆れた顔をして笑っていた。


「そうか。だからバンベルガさんはオレにアルバート魔法学園に行く日程をやたらと聞いて来たのか」


「そうだったの?」


「ああ。今日はここで騎士学園との交友を深めるための演説を、騎士学園の卒業生代表としてしていたんだ。その途中に天井からライオが降って来たんだ」


 そういう経緯があっての兄弟喧嘩だったわけね。


「リーフ兄さんの話も聞けたし、元々はバンベルガさんを追って来たんだ。俺はバンベルガさんを探して目的を聞くよ」


「オレも──っぅ……」


 リーフ兄さんが脇腹辺りを痛そうに押さえた。


「その傷で動くのは無理だ。リーフ兄さんはライオ兄さんを頼むよ」


「しかし……」


「俺の家族を魔人の呪いにかけた罪。リーフ兄さんへ冤罪をかけた罪。ヘイヴン家を敵に回した罪の重さを思い知らせてやるさ」


 そう言うとリーフ兄さんは納得したかのように頷いた。


「今のオレが行っても足手まといだな」


 ただリオン。そう言って真剣な眼差しで聞いてくる。


「どうしてリオンは魔人の呪いを解くことができるんだ? それを隠すために今まで実力を隠していたのか?」


「まさか」


 俺は大きく吹き出してから言ってやる。


「昔から言ってるだろ。俺は子供部屋で親のスネをかじって生きていきたいって。そんな大層な理由で実力なんて隠さないさ」


「ははっ。お前らしい」


 リーフ兄さんは拳を突き出してくる。


「あのムッツリスケベっぽいイケオジにヘイヴン家の恐ろしさを思い知らせてくれ」


「任せろ。ムッツリスケベは処刑だ」


「「オープンスケベこそ至高」」


 謎に息が合って拳をコツンと合わせてヴィエルジュへ視線をやる。


 彼女は察したみたいに、指笛を鳴らす。


『ヒヒーン!』


 パカラ、パカラと白馬がステージ前にやって来て、ヴィエルジュが飛び乗った。


「お乗りください。ご主人様」


「いつの間にここまで仕込んでんだよ」


「騎乗位は得意ですので」


「もう、なんでも良いや」


 とにかくヴィエルジュが凄いってことだけはわかり、俺達は白馬に乗って講堂を後にした。

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