第43話 脳筋に磨きがかかっちゃったね

 講堂のステージで年甲斐もなく兄弟喧嘩をしている上の兄貴達の間に割って入ってやる。


 右向けばリーフ兄さん。


 リーフ兄さん愛用のレイピアは折れており、体もボロボロになってしまっている。

 しかしまぁ、爽やかイケメンってのはボロボロでも絵になるってのを思い知らされるな、ちくしょうめ。


 左向けば、ライオ兄さん?


 語尾に『?』が付くのも許して欲しい。


 ライオ兄さんは禍々しい姿をしている。でも、その姿の奥にヤンキーになりきれていないヤンキーチックな顔付が見られるので、間違いなくライオ兄さんだ。


 そんな禍々しい姿のライオ兄さんは、ハルバードなんて武器を使ってやがる。斧と槍を合わせた長柄武器だね。そういえばライオ兄さんが一番得意な武器は剣じゃなく、斧とか槍とかの長柄武器だったな。


「リオン。そいつはライオであって、ライオじゃないぞ」


 流石はリーフ兄さんだ。こんな化け物になった弟と対峙し、武器を失くして体はボロボロでもまだ大丈夫って感じだ。三番隊副隊長の名は伊達じゃないね。


「そりゃこの見た目じゃあねぇ」


 人は見た目で判断するなと言われているが、この状況下でどちらが悪だなんて一目瞭然だな。ライオ兄さんは完全に魔人化の呪いにかかっちまってる。


 魔人化の呪いを自ら受けたのか、それとも誰かから強制的に受けさせられたのか。どちらにせよ、兄弟喧嘩にドーピングを使用なんて怖いお兄ちゃんなこって。


『り、おん……? ぐ、GYAAAAAAA!』


 あっちゃー。喧嘩に割って入ったのがいけなかったのか、それとも元々俺が嫌いだったのか。完全に俺がロックオンされちゃった。


『UOOOOOO!』


 ライオ兄さんはハルバートに魔力を乗せた強烈な一撃を放ってくる。


 喧嘩を止めるために突き刺したエスコルさんの剣を引き抜いて、ライオ兄さんの一撃を受け止めた。


 ドオン!


「ぐっ……。なんちゅう、威力だよ」


 ビルでも落ちてきたのかって思うほどの重い攻撃に手が痺れてしまう。


『KUSO、GAAAAAAA!』


「魔人化の呪いにかかっても口癖は一緒なのね」


『GAAAAAA!』


 筋肉バカが魔人化しちまって更に筋肉に磨きがかかったみたい。


 ハルバートなんて大きな武器を、ナイフを振り回すみたいに扱って来やがる。


 なんちゅうバカ力だ。


 おかげで間合いに入ることができない。


 長柄武器のデメリットは接近戦。なんとか間合いに入りたいが、あんなにブンブン振り回されちゃ入れないな。


 チラッと白馬に乗ったヴィエルジュに視線をやる。


 流石はヴィエルジュ。あの白馬を手懐けてやがる。つうか、あの白馬ちょっとデレてない? あんな美少女に乗られて嬉しいってか。本当にバンベルガさんが乗ってた馬かよって思っちまうな。変態白馬め。


 そんなことよりも、ヴィエルジュへアイコンタクトを送る。


 彼女は察してくれたみたい。コクリと頷いてくれた。


「リオン!」


 よそ見をしていると、リーフ兄さんが大きく俺を呼んだ。視線をライオ兄さんに戻すと、さっきまで目の間にライオ兄さんの姿がない。


「上だ!」


 リーフ兄さんが教えてくれて上を見えると、頭上高くからハルバートを振りかざそうとしている。


『UOOOOOO!』


 ガッ!!


「……」


 ハルバートが天井に突き刺さった。


 あ、うん。そりゃね。室内での戦いで長柄武器をジャンプして大きく振りかざしたら天井に刺さるってもんだ。知能が脳筋とかのレベルじゃないぞ。


『UGA、UGA!』


 ハルバートを必死こいて取ろうとしているけど、中々取れなくて、空中でジタバタしている。


「……ぷっ。だっさ」


『MUKAッ』


 こちらの態度が伝わったのか、筋肉を最大限まで膨張させてパワーでハルバートをパワーで引っこ抜いた。


「うそん」


『KUSOGAAAAAAA!』


 笑われた怒りを文字通りパワーに変えて、頭上からハルバートを振り下ろしてくる。


 こりゃやばい。


 バンッ!!


 エスコルさんから譲り受けた剣が折れるというか、破裂したみたいに壊れた。


「えっぐ」


 壊れた剣をそこら辺に捨てて相手を見る。


『GAGAGA』


 あの野郎。なぁんか満足気な顔をしているように見えるぞ。禍々し過ぎて真相は明らかじゃないけどよ、絶対ドヤ顔をしとるわ、あれ。


 しかし、今の強烈な一撃でリーフ兄さんのレイピアも壊したってんなら納得がいくってもんよ。あの一撃を耐えられる武器なんてそうそうないわ。


 でも、武器を壊したからと言って勝負が決まるわけではない。


『凍れ』


『E……?』


 いつの間にかライオ兄さんの背後に回っていたヴィエルジュが、氷の魔法でライオ兄さんを凍らせた。


『GAAA! GAAAAAA!』


 持っていたハルバートを落としながら、こちらになにかを訴えるように叫んでやがる。


「なに? 卑怯とか言いたいの? それ言い出したらドーピングしてる脳筋兄貴の方が卑怯だと思うぞ」


『KUSOGAAAAAAA──!』


 最後の最後まで口癖を放つライオ兄さんは、見事に氷漬けになっちまった。


「ヴィエルジュ。伝わったみたいで助かったよ」


「はい。『大好きなヴィエルジュの力が必要だ。凍らせてくれないか。後でいっぱいイチャイチャしような』と、アイコンタクトで理解できました」


「あ、うん。なんだろう。ほぼ正解だからそれで良いや」


 適当に返事をしながら、ライオ兄さんが落としたハルバートを拾う。


 ライオ兄さんにどういう経緯があったかわからないが、魔人化の呪いにかかっているのは間違いないだろう。だったら俺の魔力を送れば元に戻るはず。


 今までのことを思うと粉々にしてやっても良いけど……。ま、腐っても家族だ。助けてやらないとね。


 ハルバートに魔力を込めて、氷漬けになったライオ兄さんを斬る。


 パリンッ!


 氷が砕ける音と同時にライオ兄さんの魔人化の呪いが解かれた。禍々しい姿はいつものヤンキーになりきれていないヤンキーチックな見た目に戻っちゃった。

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