第34話 意外と気が合うタイプ
授業が終わり、俺とヴィエルジュとフーラが学園長室へ向かおうと教室を出た時だ。
「おーい三人とも」
廊下でカンセル先生が声をかけてくる。
先程、授業が始まっているのに気が付かずにうるさかった注意だろうと思い、俺とヴィエルジュは真っ先にフーラを指差した。
「「このぶりっ子お姫様が全部悪いです」」
「あっれ。私、そういうポジション確約しちゃった?」
こちらのやり取りに先生は笑いながら言って来る。
「まぁそこはフーラがわりぃとして」
「ちょっと、担任まで私をそういうポジションに追い込む気?」
笑いながらフーラが言った後に、カンセル先生の顔色を伺う。
「先生? 大丈夫ですか?」
彼女の言葉に俺とヴィエルジュも先生の顔を見る。彼の目の下にはくまができていた。
「隊長が体調不良ですか?」
「ヴィエルジュ。この前の俺の部下達のいじりはやめろ」
先生の部下のいじり方、めっちゃ雑いな。
「まぁ体調不良っつうか、仕事が立て込んでてな。寝不足は寝不足なんだわ」
ははっと軽く笑い飛ばして先生は俺へと質問を投げてくる。
「リオン。少し聞きたいんだけどよ。ジュノーの奴と対峙した時にあいつ、『ウルティム』とか言ってなかったか?」
「ウルティム?」
聞いたこともない単語が聞こえてきて、つい聞き直してしまう。
「いや、そんなことは一言も言ってなかったですね」
そうか、と答えた後に先生はフーラを見た。
「フーラはどうだ? あんまり思い出したくはないだろうが、ジュノーの奴から聞き覚えはあるか?」
先生の問に彼女は首を横に振る。
「私も聞いたことはありません」
そうかそうかと頷いて、彼は手を上げる。
「わりぃな。時間取らせて」
そう言い残して先生は去って行った。
「ウルティムとはなんなのでしょうね?」
ヴィエルジュがなんとなしに呟くので首を傾げる。
「さぁな。でも、先生が生徒に尋ねるくらいだ。先生自体もなにもわかってないってこったろ」
先生の目の下のくまを見る限り、そいつのおかげでとてつもなくブラック残業をしているのだろう。俺も経験があるからわかる。
ありゃね、関わっちゃいかんやつよ。前世の記憶が現世の俺に忠告を促している。
ウルティム。こりゃ絶対に関わっちゃいけない。
♢
俺達三人は学園長室へと足を運んだ。
珍しく部屋にいるみたいで、すんなりと学園長とご対面できた。
「すみませんでした!」
「ダメよ」
即答だった。
「こんなに謝っても?」
「まだ一回しか謝ってない」
「申し訳ございませんでした」
「ダメダメ」
「そんな……」
もしかしたら学園にいる間、ずっと魔法使い共に追い掛け回されるのではないだろうか。
そんな絶望の中、俺の前にヴィエルジュが立ってくれる。
「学園長先生。このお方はレオン様の息子。よぉく目を凝らして見てください」
なんだか催眠術でもかけるのではないかと思われる声を出しております、ウチのメイド様。
「ほーら、段々と若い頃のレオンに見えてくる。見えてくるぅ」
そんなので引っかかるわけないだろうに。
「……きゃん♡ 若い頃のレオンだぁ♡」
こんなバカが由緒正しきアルバート魔法学園の学園長先生で良いのだろうか。
「レオンが許してと言っているのです。ほら、レオン。もう一度謝ってみてください」
ヴィエルジュが今の内に謝れって促してくるので、もう一度謝罪の言葉を放つ。
「すまない。許してくれ、シュティア(限界の低い声)」
ぷっと後ろでフーラが吹き出した。どうやら俺の低い声は笑われるらしい。ダンディには程遠いのかな。
「ああん♡ レオーン♡♡ 好きー♡♡♡」
いきなり告白すんなよ。
「でも、だめよ。私、ずっとレオンのことをいじめたかったの♡ 好きな人にはちょっかい出すタイプなのよー♡♡」
「わかりみが深いです学園長先生」
「ヴィエルジュもわかるかしら」
「はい。ですが、私はいじめられるのも好きです」
「わかるわー。すんごいわかる。その日の気分で変えたいのよね」
「ええ。ですが、好きな人への思いは変わりませんので悪しからず」
「ヴィエルジュとは良い酒が飲めそうだわ」
この二人、実は相性が良いのか?
「ちょっとリオンくん。もしかしてヴィエルジュとそういうプレイしたの?」
ボソッとフーラが尋ねてくるので、この間のプレイを思い返す。
「あれは中々どうして……。うんうん」
「しみじみ答えるなー!」
「だって本当のことだし」
「そんなのずるい! 私にもしてよ!!」
二卵性双生児でパッと見は違うとか抜かしていたけど、やっぱり双子の姉妹だなぁと思いました。
「フーラも変態か……」
「い、いや、そうじゃなくて……。ヴィエルジュばっかり可愛がってずるいよ」
「なるほど。いじめて欲しいのね」
「……ち、違います!」
今の間は怪しかったね。
「というか!」
フーラは話を誤魔化すように大きな声を出して学園長先生に言ってのける。
「今回の件はリオンくんだけの問題ではございません。剣が壊れたのは私の責任でもあります」
フーラは頭を深々と下げる。
「申し訳ございませんでした」
フーラはなにも悪くないのに宣言通りに一緒に謝ってくれる。
王族の謝罪に学園長先生もふざけた態度はやめて、真剣に取り合ってくれる。
「フーラ様にそう言われては仕方ありませんね」
ですが、と柄だけになった剣を俺へと渡してくる。
「修理はしてもらうぞ、リオン・ヘイヴンよ」
「それは、そうですよね。すみません。わかりました」
俺が使って壊したのだから修理くらいは俺がしないとね。
とか甘い考えだったことをこの時の俺は知らない。
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