第33話 疲労困憊

 学園内に朝の予鈴のチャイムが鳴り響く中、俺──リオン・ヘイヴンは一組の教室へと入り、へなへなぁといつもの席に座った。別に席は決まっていないが、クラスメイト達もなんとなくいつも座っている席へと腰掛けている。


「おはようございます。ご主人様」


 右隣に座っていたヴィエルジュが朝の挨拶をしてくれる。


「おはよう、リオンくん。朝からお疲れだねー」


 左隣に座っていたフーラが苦笑いで労いの言葉をかけてくれる。


「いや、ほんと、まじできつい……」


 そのまま机に突っ伏してしまう。


 俺が朝から疲労困憊なのには大きな理由がある。


 それはこの前、掲示板に貼られた内容が原因だ。


『英雄リオンと決闘(リオン対何人でも可)をして勝った者には褒美単位を。負けても罰はなし。この機会に是非とも彼をボコボコにしてくれ。絶対にだ』


 ほんと、なんのいじめなの?


 これを本気にした生徒がここ最近、朝から晩まで複数人で決闘を挑んできやがる。


 まぁ魔法使い相手だから俺の脳筋一族ダッシュで一目散に逃げるけどね。魔法使いのガリ勉なんて遅い遅い。


 でもね、流石に毎日毎日追い回されて疲労困憊ってわけだ。今朝も校門に入るやいなや、緑色と青色のロングコートを着た先輩達に追い回されていた。後輩いじめて楽しいのかよちくしょうが。


『あいつ朝から姫様に挨拶されやがって』


『連れているメイドも可愛いし』


『騎士の家系を追放された落ちこぼれがたまたま手柄を得ただけだろうに調子に乗りやがって』


『この後、全員で──』


 教室に入ればクラスメイトからの殺意を受ける。


 姫様と親し気に話しているし、連れているメイドは可愛いから殺意がマシマシになってやがります。


「ヴィエルジュー。助けてくれー」


 専属メイドのヴィエルジュを頼ると、綺麗なプラチナの髪を耳にかけながらクールに言ってのける。


「かしこまりました。今後、ご主人様へ決闘を申し込む輩は全員始末します」


「ヴィエルジュさん。目がマジなんですけど」


「ご主人様を脅かす存在には裁きの鉄槌を」


 その話を隣で聞いていたフーラが、苦笑いを浮かべながらもこちらに言ってくる。


「でもね、学園長の剣を折って逃げちゃったリオンくんも悪いと思うよ?」


「それは……。そうなんだろうけどさぁ」


「理由はなんであれ一度謝るべきだと思うな」


 フーラがなんだか年上のお姉さんっぽい、包容力のある顔で俺の頭に手を置いた。


「一緒に行ってあげるから、謝りに行こ。ね?」


「う、うん」


 流石はヴィエルジュと双子といえど姉というだけはある。普段はお転婆な感じなのにこういうところは凄くお姉さんっぽくて、ついついショタっぽい返事をしてしまった。


「では、私も行きます。ご主人様の罪は私の罪。ご主人様が謝るのであれば私が見事な謝罪を披露してみせましょう」


「参考までにヴィエルジュの見事な謝罪とやらを私に見してくんない?」


「では失礼しまして……」


 コホンと咳払いを一つすると、瞳を潤ませて上目遣いで俺を見てくる。


「申し訳ございません。ご主人様♡」


「ああ、もう、許すに決まってんだろー」


 ガシガシとヴィエルジュの頭を撫でると、ヴィエルジュはネコが撫でられたみたいに気持ち良さそうな顔をしてみせた。


「ちょーい、ちょい。なんであんたはリオンくんに謝ってんのよ」


「……? ご主人様以外に謝罪する相手などこの世にいませんけど」


 首を傾げるヴィエルジュに、「くっ……」と悔しそうな吐息がフーラから漏れた。


「言っていることが訳わかんないけど、妹ながらにこの絶妙な首傾げが可愛い過ぎて注意ができない」


「フーラさ。それって自分が可愛いって思っているってこと?」


「はあ!? なんでそうなるの!?」


「そうですね。フーラ様の発言は鏡を見て自分が可愛いと言っているのと同義です」


「いやいや。私ら二卵性双生児だから似てるだろうけど、パッと見はそこまでだから。髪の色も違うし」


 この双子って二卵性双生児なんだ。


 確かに髪の色が違うし、パッと見ただけでは双子ってわからないかもな。


「ではフーラ様。一度ご主人様へ謝罪をしてみせてください」


「なんで?」


「参考までに」


「なんの参考なんだか」


 呆れた様子ながらも、フーラはヴィエルジュ同様に瞳を潤ませて上目遣いで俺を見てくる。


「も、申し訳、ございません。ご主人様ぁ♡」


「普通に可愛いな」


「はい。流石はフーラ様です。可愛いが振り切っております」


「えへへ♡ そ、そうかなぁ」


 照れてふにゃぁって顔になっている。


「流石はお姫様。可愛い過ぎて世の中の人間を魅了できそうだ。まじで」


「ご主人様にそんなことを言わせるなんて嫉妬しますが、尊すぎで好きです。まじで」


「えへぇ。ふたりともー褒め過ぎだよー。ま、ヴィジュアルには自信あるからね。えっへん」


 ない胸を張ってドヤ顔一つ。


『おーい。お前らー。授業始めるから静かにしろよー』


 教壇に立つカンセル先生がこちらに注意をしたので、俺とヴィエルジュはフーラを指差した。


「「先生、このぶりっ子お姫様がさっきからうるさいです」」


「上げてからオとされたー!」

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