二章
第32話 家宅捜索(カンセル先生視点)
俺──カンセル・カーライルは、同僚だったジュノー・ハーディングの住んでいた部屋を家宅捜索するため、部屋の前までやって来ていた。
魔法団が調査部隊を立ち上げると言い出した時には悪い予感がしたが、見事に的中しやがった。
そういう面倒な役回りは全部俺の隊に降りかかってくんだよな。俺、一応、第二部対隊長なんだけど、そこんところわかってんのかよ。
第二部隊隊長にアルバート魔法学園の担任に加えて調査部隊とか、どんだけ俺に仕事が押し寄せてくんのやら。
リオンに言われた便利屋って言葉が頭をよぎる。まさにその通りだよ、バカヤロウ。
俺は便利屋になるために上位の魔法を必死こいて覚えたわけじゃねーっつうの。
「隊長。中に入らないのですか?」
二番隊に所属する俺の女性部下が尋ねてくる。
「ばかやろ。今の俺は隊長じゃない。ホームズだ」
愚痴っても仕方ない。ここはテンションを上げるために探偵になりきって調査してやらぁ。
「はぁ。ではホームズ。早く中に入りましょう」
「さんを付けろ、このタコスケがっ」
「めんどくせぇなぁ。さっさと入りますよ、
「ねぇ? 今、パシリと書いてホームズと呼ばなかった? ねぇ? 便利屋はまだ許すけど、パシリはいかんよ?」
「もう開けますねー」
大家から預かったマスターキーでジュノーの部屋を開けた。
彼は一人暮らしで2LDKの部屋に住んでいる。流石は一番隊隊長なだけあり、結構稼いでいるみたいだ。広い部屋に住んでやがる。
見た目通りの綺麗好きか、リビングダイニングは綺麗に整理整頓されており、キッチンにゃ水飛沫一つありゃしない。
「パシリ!」
「おい、今、思いっきりパシリって言わなかった!?」
「そんなことよりもこっちに来てください!」
急かす部下へ、思いっきりパシリと呼んだことへの説教をどうするか考えているのが吹き飛んだ。
「なんだ、これ」
入ったのは寝室だった。
ここだけやたらと散らかっている。
血塗られたベッドのスプリングは飛び出し、布団の綿が露出している。サイドテーブルにも血痕の跡がある。
まるでここで誰かと争ったかのような……。
いや、違うな。
ベッドは剣のような物で斬られた跡がある。争いの最中で壊れた感じではない。なにか、隠し物を探しているかのような感じだ。
自分の家をこんな風にはしないだろう。すると他の誰かがここに侵入してなにかを探していた。
それはなにか──。
「ワトソンくん。チミはこの部屋を調査してくれたまえ」
「私はクレアです」
「わかってねーなー。雰囲気って大事じゃん」
「はいはい。わかりましたよ。早く次の部屋に行きたまえワトソンくん」
「はい。ホームズさん」
ビシッと返事をしてから振り返る。
「あれ? いつの間にか俺がワトソンになってない?」
「我々が探しているのは御託ではないぞ。早くしたまえ」
「そうですね! ホームズさん!」
確かに言われた通り、俺達が探しているのは御託ではない。そこに深い関心を覚え俺は書斎へと足を運んだ。
「なるほど。雰囲気って確かに大事かも。隊長めっちゃ面白いし」
とかなんとか聞こえて来た気がするけど、今はそこのツッコミはなしだな。
「おいおい。ここも酷いありさまだな」
書斎には高そうな椅子と机があったが、周りの棚が崩れて来ており酷い有様だ。本は乱雑に放置されており、ビリビリに破けていたりもしている。
「ふむ……」
リビングとキッチンは綺麗だったのを考えると……。
侵入した奴は書斎から攻めて、寝室に移動し、そこで探し物を見つけたと言ったところか。
だからリビングとキッチンは綺麗ってな。
ふっ、どうよ俺の名推理。ま、なにを探していたかまではわからんがね。
なにかのヒントでもないかと足元に落ちている本を拾い上げる。
それはどうやら日記のようであった。
『やはり処女が散る瞬間というのは何にも変え難い快感がある。ああ、早くフーラを破瓜したいものだ』
「うわぁ。無理だわー」
人の日記を見て引くのもいかがなものだとは思うが、流石にこの内容は無理だろ。
こんな気持ち悪いことばっかり書いているんか、あいつ。
『許せない。
リオン・ヘイヴン。
騎士の落ちこぼれの分際で、僕のフーラの処女膜を破りやがって……。
この怒りは普通になぶり殺すだけでは収まらない。学園に眠るウルティムを使用し、圧倒的に殺してやりたい。
しかし、あれは選ばれし者のみしか使用ができない。いや、僕が選ばれれば良いだけの話。
そうだ、僕は選ばれた存在なんだ。ウルティムも僕を選ぶだろう。
……待てよ。別にウルティムなどなくとも僕だけの力で世界を物にできるはずだ。
そうなると、あいつらも邪魔だな。血の研究は終わった。
ウルティム、ウルティムとうるさいあいつらも排除するか。
ふふ、そうさ、僕がこの世界の王となり、全ての処女を散らしてやる。処女は僕のために見事に散るが良いさ
その前に、リオン・ヘイヴン。お前から血祭りにあげてやる』
こいつ拗らせてるなぁ。
勘違いで殺さられそうになってるじゃんかリオン。フーラもこんなんの婚約者だったなんて大変だったな。
しかしだ……。この日記には少し気になることが書かれているな。
学園に眠るウルティム。
ウルティムとうるさいあいつら。
血の研究は終わった。
──ふむ、今回の事件と関係が深そうだな。
もしかしたら侵入した奴ってのは血を盗んだのか……?
「ワトソンくん。進捗はいかがかな」
クレアが俺の読んでいた日記を取り上げて読んでみせる。
すると、苦虫をか噛み潰したような顔をして俺を見た。
「男ってみんなこうなんですか?」
「ちょい待ち。勘違いすんなってんの。男全員がその思想持ちじゃないから。少なくとも俺はそうじゃない」
「ふーん」
ジト目で見た後にクレアが俺の耳元で囁く。
「私の処女、隊長にあげましょうか?」
「うっはっ!! まじで!?」
「うわー。飛んで喜んでる。サイテー。キモ過ぎ」
「ちょー! 今のはハニーなトラップ過ぎない!?」
「少なくとも隊長みたいなチャラいのに私の処女はあげません」
「え? クレアってマジで処女なん?」
「女性にそんなこと聞くとかサイテーです。クソチャラ男め」
「話題の提供者がよく言うわ」
「ほらほら。子供みたいなこと言ってないで調査を続けますよ」
「うぇーい」
俺達は引き続きジュノーの部屋を調べたが、あまり成果は得られなかった。強いて言うならば先程の日記が一番の手掛かりやもしれない。
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