有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して一生親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった。こうなったら学園生活を謳歌してやるって思っていたのにどうやらそうはいかないらしい
第35話 小遣いをねだろうとする時は大体失敗する
第35話 小遣いをねだろうとする時は大体失敗する
ドナドナドナと俺を運ぶ馬車はヘイヴン家へと向かっている。
ため息一つ吐いてから壊れた剣を眺める。ほとんど柄だけになっている剣は皮肉にも持ち運びしやすかった。
剣を修理しろと学園長先生から言われて、たかだか剣の修理くらいすぐに終わるだろうと思っていたのが甘かった。
アルバート魔法王国に剣の修理をしてくれる所なんてない。
あ、うん。冷静に考えて魔法王国に剣を直せる場所なんてないよね。杖を修理してくれるところなら沢山あったんだがな。
父上の行きつけの鍛冶屋がステラシオン騎士王国にある。そこなら直せるはずだ。
そういう訳で、俺は学園が筆記試験期間に入ったのを機に、ステラシオン騎士王国へと旅立つことにした。俺は班別実技試験の班長勝利得点で筆記試験免除だからね。
道中にヘイヴン家を通るため、ついでに帰省するってわけだ。
ビックになるまで追放って言われたけど、頼りが必要なら言えって言ってたもんね。修理代をワンチャンもらうとしよう。
それに、レーヴェの様子も気になるからな。追放されてそこまで日は経っていないが妹の顔を見たい。ふっ我ながらシスコンよのぉ。
ちなみに、ヴィエルジュとフーラはお留守番だ。
彼女達は筆記試験があるからね。
ヴィエルジュなんか、
「筆記試験を実施できなくすればよろしいのですよね?」
なんて物騒なことを言ってやがった。なんとかフーラが宥めてくれたけどね。流石は双子の姉。空白の時間があろうとも、あの冷徹チート妹メイドを宥めることができるとは頼もしい。
しかしまぁ、いつもヴィエルジュと一緒に行動していたもんだから、ひとりで行動するのって寂しいよね。
ヴィエルジュの存在のありがたみを改めて噛み締みつつ、馬車はヘイヴン家へと向かって行った。
♢
「ただいまぁ……」
なんだかんだ言いながらも俺は追放されている身には変わりない。
帰っても怒られはしないだろうが、少し警戒しつつ、ちょっぴり久しぶりのヘイヴン家のリビングへ入る。
「あ、リオン兄様、おかえりー」
無駄に大きなダイニングテーブルから、いつも通りのおかえりを言ってくれる妹に手をあげて、「ただいま」を放つ。
「リオン。久しぶりだね」
「リーフ兄さん。久しぶり」
レーヴェの前に座っていたのは金髪のイケメンでヘイヴン家の長男、リーフ・ヘイヴン。
ステラシオン第三部隊の副隊長を若干二十歳で務めている天才騎士。噂ではレオン・ヘイヴンを超えるだろうとの声も上がっている。当の本人はあまりそういうのには興味がないのか、野心は見えない。
ヘイヴン家の家訓をあまり好んでおらず、父上がいない時は普通の兄弟のように接するように言われている。
そして、リーフ兄さんの隣に座っている、中年のクールでイケオジ風味な男が、わざわざ立ち上がり俺にお辞儀をしてくれる。
「ご無沙汰しております、リオン様」
「お久しぶりです。バンベルガさん」
彼はステラシオン騎士団三番隊隊長のバンベルガ・クロムウェル。男爵家から三番隊隊長まで実力だけで成り上がった剣の達人だ。見た目通りの堅物な人で口数は多くない。
俺がレーヴェの隣に腰掛けると、それに合わせてバンベルガさんも着席する。
「レーヴェ。父上は?」
「仕事で家を空けてるよ」
「そっかぁ……」
うーん。ワンチャン修理代をねだろうとしていたのに残念だ。
「リオン兄様こそ。ヴィエルジュちゃんは?」
「ヴィエルジュは筆記試験だから学園。ちなみに俺は免除だ」
「へぇ意外。ヴィエルジュちゃんなら試験を壊してでもリオン兄様と一緒しそうなのに」
妹よ。それは正解だったのだが、今回は抑止力が存在するのだよ。
「オレも久しぶりにヴィエルジュに会いたかったが残念だ」
リーフ兄さんが残念そうな声出しながらも、話題を変えてくる。
「そういえば聞いたぞリオン。アルバート魔法学園に入学したんだってな」
リーフ兄さんが思い出したように言ってくるのを苦笑いで答える。
「あはは。まぁね」
「そうだよー。リオン兄様ったら、自堕落な生活していて、お父様のお冠をもらって追放なんだって」
「あの生活をしていたら父さんも怒るだろうな」
「あわよくば大人になっても続けたかったんだけどね」
「そりゃ無理な話だ」
「夢を持つことは良いことでしょ?」
「違いない」
あはは! とリーフ兄さんと見合って笑い合うと、レーヴェが可愛いらしく手を合わせてニタニタした顔で言ってくる。
「でもさぁ、リオン兄様はアルバートに通って良かったんじゃない?」
「なんで?」
「だってお姫様と婚約したんでしょ?」
父上から聞いたみたいだな。レーヴェは年頃の女の子だから、他人のそういう話が気になるようだ。
「オレも聞いたぞリオン。王族と婚約者なんて凄い出世じゃないか」
ふゅーふゅーと兄と妹が囃し立ててくるが、状況が状況なだけに素直に喜べない。
「リオン様」
そこまで黙っていたバンベルガさんが口を開く。
「アルバートにて魔人が暴れたというのは本当なのでしょうか?」
唐突な質問に、「本当です」と答えると質問が続いてくる。
「それをリオン様が倒したのも本当でしょうか?」
そこまで噂が流れていたか。別に父上にもバレているんだから良いんだけどね。
「はい。運良く俺が魔人を倒すことができました」
アルバート魔法王国でもフーラが魔人化していることは伏せ、魔人は倒されたことになっている。ここでも同じ設定を説明することにした。
「運良くと申しましても、実力もございましょう。流石はレオン様のご子息。その日のために実力を隠していたのですね」
「いや、まぁ、その日のために実力を隠していたとかでは……」
子供部屋おじさんになるためとか言ったら、バンベルガさんはどんな反応をするのやら。
「ご立派な功績でございましたね」
「あ、ありがとうございます」
バンベルガさんからお褒めの言葉を頂くと、彼は立ち上がる。
「リーフ様。そろそろと行きましょうか」
「はい」
リーフ兄さんが立ち上がったところでレーヴェが少し駄々をこねる。
「ええー。リーフ兄様、久しぶりに帰って来たのにもう行っちゃうの?」
「ごめんよレーヴェ。今日は任務の途中でバンベルガさんに無理を言って寄っただけなんだ。今度の休みは帰って来るよ」
「むぅ……」
「弱ったなぁ」
駄々っ子の妹へ困り果てたリーフ兄さんは、「そうだ」と思い出したかのように手土産をレーヴェへと渡した。
「この間の任務で行った
「……わかった。今度の休みは一緒にお出かけしてよね」
「好きなもの買ってあげるよ」
「わーい。やたー」
無邪気に笑うレーヴェを見て、微笑むリーフ兄さん。ほんと、あの父上の長男とは思えないほどに甘い男であるな。
「じゃあね、リオン、レーヴェ」
「失礼致します」
二人がヘイヴン家を出て行ったところでレーヴェが俺の胸元を見た。
「ところでリオン兄様」
「なんだ、妹よ」
「私のあげたネックレスはどこかね?」
「あ……」
やっべ。忘れてた。
入学試験の時に壊したっていうのを手紙にも書いてなかったな。
「なにかな? その思い出したかのような声は」
「え、ええっと」
「正直に言ってごらんなさい。この最高の妹、レーヴェ・ヘイヴンはそっとやちょっとじゃ怒らないよ」
「入学試験の時に壊しました」
「リオン兄様のばかあああ!」
放たれる左アッパーがクリティカルヒット。
「フラグ回収早過ぎだろ!!」
流石はヘイヴン家長女。その拳の威力は半端じゃなく効く。
俺はその場で倒れてしまった。
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