第38話 実家(王家)に挨拶
アルバート城へと足を運んだ俺とヴィエルジュは、緊張した足取りで王様の部屋へと案内してもらう。
それにしても城なんてのはなんだかファンタジーゲームの世界に入ったって感じでテンションが上がるね。
「少々お待ちくださいませ」
俺達を案内してくれていた人が、数ある内の一つの部屋の前で立ち止まった。
見たところ普通の部屋っぽい。
謁見の間みたいなところで話をするのだと思っていたのだが、どうやら違うみたい。
コンコンコンとノックをすると、城の人が俺達を連れて来たことを中へ伝えると入ってもらうように指示が出る。
「それでは私はこれで失礼致します」
俺達を案内してくれた人は一つお辞儀をしてから持ち場に戻って行った。
はぁ。なぁんか緊張すんな。別になんにも悪いことしてないんだけど、一国の王と会うんだからなにもしてなくても緊張するよね。
いや、俺よりも緊張してんのはヴィエルジュの方か。
チラリと彼女の様子を伺うと、珍しく強張った顔つきをしていた。
そりゃそんな顔にもなるか……。
久方振りの両親との再会。
今回はあくまで俺がアルバート王に呼び出された。
ヴィエルジュは呼ばれてはいないため、無理をして付いてくる必要はないが、「私も連れて行ってください」とお願いしてきた。
それは彼女なりの覚悟と決意。ケジメなのだろう。
姉が魔人化した時、本当に別れることになってしまうのではないかという恐怖。
真実の名を語っていたらという後悔。
それがきっかけとなり、今回、彼女は父親と母親に生きていたことを自ら伝えに来たのだ。
「ヴィエルジュ。大丈夫か?」
「はい。申し訳ございません。本来はご主人様が呼ばれたのに出しゃばった真似をしてしまい」
「そんなことは気にすんな。王族以前にヴィエルジュの両親なんだ。言いたいこと言ってやれば良い」
「……はい」
ヴィエルジュへ励ましの言葉を送ってやってから、「失礼します」と部屋に入って行く。
ドアを開けた先には城の内部だってのにどこかで見たことのある応接室みたいな景色が広がっていた。
手前の方にソファーがあり、奥の方に書類が山積みの机がある。
学園長室に似ている景色だと思っているところで、三人の王族が俺達を出迎えてくれる。
「や、ふたり共」
一人は長いピンクの髪のアルバート第一王女、フーラ・アルバート。手を振って出迎えくれる。
「おお。よく来てくれたな。英雄リオンよ」
「よくぞいらしてくださいました。英雄リオン様」
プラチナの髪の厳格のある王様と、ピンクの髪の美しい王妃様がフランクに握手を求めてくる。
「お初にお目にかかります。リオン・ヘイヴンと申します」
ガシッとふたりと握手をする。
ふむ。フーラのフランク具合は両親譲りか。
「英雄リオンよ。せっかく来てくれたのだが、少々お待ちいただいてもよろしいかな?」
英雄って単語に引っかかりを覚えるが、今はそんなことはどうだっていいか。
王様と王妃様はヴィエルジュの方へ視線を向けた。
それが何を意味するか言うまでもなくわかる。
「ええ。いくらでもお待ちしております」
「恩にきる」
王様と王妃様はヴィエルジュの前へ立つ。
ジッと見つめ合う親と子。
何を言って良いのか、どう口火を切れば良いのかわからない。そんな雰囲気が出ている。
「あの……」
痺れを切らしたヴィエルジュが言葉を発しようとした時だった。
「ルージュ……!!」
我慢していた涙を流しながら王妃様がヴィエルジュを抱きしめた。
「またあなたに会えた。もうこうやって抱きしめることもできないと思っていたあなたをこうやってまた……」
ギュッと抱きしめる王妃様は泣きながら彼女へと思いを伝える。
「私は母親失格ですね。あなたを見つけるべきは母親である私の役目。それなのにあなたを見つけることができなかった。探しても見つからないと悲しむだけの涙を流すことしかできなかった。ずっと辛い思いをしておりましたね……。ごめんなさい。ごめんな、さい……」
「ルージュ」
王様がヴィエルジュへ声をかけた。
「私の……俺の判断がルージュの事件を起こしてしまった。フーラの事件を起こしてしまった。全ては俺の責任だ。不甲斐ない王で、父で……本当にすまなかった」
王様は国王としてではなく、彼女の父親として頭を下げた。
「ルージュのことを一日足りとも忘れたことはない。ずっと、ずっと再会の日を待ちわびていた」
「あなたは私達の宝物です」
「お、とうさん……。お、かあさん……」
「こんな俺を父と呼んでくれるのか?」
「こんな私を母と呼んでくれるのですか?」
両親の問いかけにコクリと頷くと、王様と王妃様は嬉し涙を流した。
ヴィエルジュも今はルージュとして、両親との再会に涙を流していた。
「あの輪に入らなくても良いのか? フーラも家族だろうに」
隣に立っていた姫様に問いかけると、ゆっくりと首を横に振る。
「お父様とお母様も私と同様にルージュが行方不明になってからずっと悲しんでいた。私は既にルージュと感動の再会を果たしたから、今はお父様とお母様の番だよ」
フーラの言う通り、感動の再会って表現がピッタリである。
「お父さん。お母さん」
涙が少し落ち着いた頃、ヴィエルジュが真剣な声で両親を呼んだ。
「ふたりが私のことをずっと思ってくれており、とても幸せです。ですが……」
瞳を閉じて、一呼吸を置くと、両親に自分の思いを告げる。
「私はもうルージュ・アルバートではございません。ヘイヴン侯爵家に仕えるリオン・ヘイヴン様の専属メイドのヴィエルジュです」
ですから……。
「もう、私がルージュ・アルバートを名乗ることはございません」
はっきりと自分の意思を伝えると、王様と王妃様は互いの顔を見つめ合い、そして頷いた。
「あなたがどんな名で、誰の下で働くことを私達に止める権利などございません。ですが、これだけは覚えておいてください。例えどうなろうとも、あなたは私達の大事な娘です」
「なにがあっても俺達の娘なんだ。ここはお前の家だし、いつだって帰って来て良い。なにか頼りが欲しいのなら遠慮なく言いなさい。どんな形だろうとも、俺達は家族だ」
「ありがとう、ございます」
ヴィエルジュの思いを受け取ってくれた王様と王妃様が俺の方へと視線を配る。
「リオン。ルージュを……。ヴィエルジュをここまで育ててくれてありがとう。勝手な頼みだが、このままヴィエルジュをメイドとして側に置いてはくれぬだろうか」
「リオン様。勝手な頼みとは承知の上ですが、ヴィエルジュの望みです。よろしくお願い致します」
「これほど頼りになるメイドなどヴィエルジュを置いておりません。責任を持ってお預かりさせていただきます」
「じゃあ、私も責任を持って預かってもらおっかな」
そう言いながらフーラがいきなり俺の腕にしがみついてくる。
「ちょっと姫様? ご両親の前でなにをしているんだよ」
「この間言ったでしょ? リオンくんのお嫁さんになるって」
そりゃなんか言ってたけどさ。それ、まじなの? つうか、この子の両親はどうしてこの状況で止めに入んないの?
「英雄リオンよ」
コホンと咳払いをして切り替えるように言ってくる。
つうか、さっきからちょこちょこ英雄ってのが気になるな。
「此度は我がアルバート魔法王国を救ってくれたことを誠に感謝する。この功績は英雄と称するに値するほどの働きであった。褒美とし、我が娘、フーラ・アルバートとの婚約を認めよう」
「はい?」
「不束な娘ではございますが、よろしくお願い致しますね」
あの、王妃様? 頭を上げてくださいよ。なんかまじっぽくなるじゃないですか。
「いや、あの、どうして俺がフーラと婚約することに?」
「此度の貴殿の活躍は我がアルバートを受け継ぐに相応しい功績だからな」
「いやいやいや。そんな、そんな、滅相もないです。はい」
「我が娘では褒美として不相応か……?」
王様が申し訳なさそうに尋ねてくるのが逆に気まずいんだけど。
「すぅ、いやー、フーラの気持ちも……」
「私はリオンくんとなら婚約じゃなくて今すぐ結婚でも良いんだけど?」
「まじ?」
「まじ♡」
ニコッと天使のスマイルを見してくると、反対の腕にヴィエルジュが抱き着いてくる。
「ちょっと、お姉ちゃんだけ婚約ってなんですか? そんなの許すわけないでしょ」
「むむ。ヴィエルジュもリオンと結婚したかったのか」
「ええ。それはもう小さな頃からご主人様と結婚することしか考えておりません」
「リオン様。ヴィエルジュも私達の大事な娘。ヴィエルジュがリオン様との結婚を望むのなら国をあげて祝福致します」
話がでかくなってきてんだけど。
「はい。両親から許しをもらいました。なのでいきなり現れたちょい役はご主人様から離れてください」
「ちょい役じゃないから。リオンくんの婚約者だから」
「それは私ですー」
「まぁまぁ落ち着け娘達。ふたりでリオンの嫁になれば良い」
「はい?」
王様がサラッと簡単に言ってきやがるのですが。
「そうですね。ふたりとも私達の可愛い娘達。ふたりともリオン様に相応しい娘達です。ふたりとも貰っていただければなにも問題ありませんね」
王妃様も存外ノリの良い人なんだね。
「お父様とお母様のお許しを貰っちゃった♡」
「まぁ、やはりそれで折れるしかないみたいですね」
あっれ。これ、このロイヤル双子と本気で結婚しちゃうパターン?
「ふふふ、ふはははは」
「うふふ、あはははは」
こちらの様子を涙を流しながら見守ってくれる、王様と王妃様。
行方不明になっていた娘が見つかった嬉し涙を見ながら、今はなにか言うなんて野暮だよな、なんて思う。
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