第27話 双子メイド爆誕
アルバート魔法王国が謎の化け物に襲われてから数日が経過していた。
街は住民達がそれぞれ協力し、復興を目指しながらも日常を過ごしている。
リオン・ヘイヴン──俺達学生も復興支援をしながら、いつもの学園生活を送っていた。
「んで、なんで先生は体に風穴が空いたってのに、普通に学園で授業なんかしてんすか」
カンセル先生の授業が終わった休み時間。一組の教室内。出席簿みたいなものをトントンと机で整えている先生へ呆れた声を出してしまった。
「俺を誰だと思ってんの。アルバート魔法団第二部隊隊長のカンセル・カーライルだぞ。風穴くらい余裕っしょ」
「あんた便利屋の不死身なの?」
「不死鳥って呼んでもいいよん」
この間、致死量の血を流していた人物とは思えないほどチャラいな、こいつ。
しかし、心配していたことには変わりない。彼が無事で良かった。
「リオン。今回の発端である王女誘拐事件なんだが、お前の容疑は完全に晴れたことになったぞ」
「や、ほんとに、晴れてもらわないと困ります。こちとらほんとに巻き込まれただけなんで」
「そりゃそうだ」
カンセル先生は苦笑いを浮かべた後に、真剣な顔をしてサングラスをクイっとしてみせる。
「今回の事件。首謀者であるジュノーと白衣の男が死んで表面上は解決となった。魔法団はジュノーの裏切りを重く受け入れ、体制を整える意向をみしている」
「第一部隊隊長の裏切りがあって、なにもなしじゃ示しがつきませんもんね。でもそれって、第二部隊隊長の先生も大変になるんじゃないですか?」
「あっはっはっ! 残業確定案件よいしょー!」
あ、逆に吹っ切れてる。その気持ちわかるわー。
先生は切り替えるようにサングラスをクイっとした。
「それと、事件はまだ完璧な解決じゃない。あいつらがどれだけの被害者を出したのか洗い出さないといけない」
「他にも色々と裏がありそうですもんね」
「そゆこと。そんなわけで、魔法団が調査部隊を立ち上げることになったわ」
「魔人化だの、なんだのと物騒ですもんね。首謀者はいなくなっても、調査はしておいた方が良いってのはわかります」
カンセル先生のサングラスの奥の瞳が少しばかり悲しそうに見える。
「ジュノーの奴。どうしてあんなこと……」
先生からすると、ジュノーは同僚で、しかも同じ隊長という役職。そんな仲間の犯行。
悔しい思い。
納得できない思い。
もっと相談して欲しかったという思い。
こちらから声をかけてやれば良かったという思い。
様々な思いが彼を渦巻いていることだろう。
「目的のために手段を選ばずに魔人化までしたのですから、相当な覚悟はあったのでしょう。狂った犯罪者の心なんて知りたくもありませんけどね」
「相当な覚悟か……。その覚悟を違う方向に向けることができていればな」
「選択肢が見えなかったのでしょうね。本来あるはずの無数の選択肢を、固定概念が邪魔をして一つにしか見えなかった。心が未熟だったんでしょう」
「なんかリオンって俺よりも年上みたいなこと言うな」
「少なくとも、精神年齢は上ですよ」
笑いながら言ってやると、カンセル先生は頭を下げた。
「リオン。ありがとう。担任のカンセルじゃなく、魔法団第二部隊隊長カンセル・カーライルとしてお礼を言わせてくれ」
「よしてください。その見た目で硬派なお辞儀は違和感しかないでしかないですよ」
「ありあとあしたああああああ!」
「なんでいきなり体育会系なんだよ!」
頭を上げた時、先生がチャラく笑っているのを見て、やっぱりこの人はチャラくないとダメだなと思った。
「ま、俺みたいなショボいのじゃなくて、ちゃんと礼が入るだろうし、俺はこんくらいってことで」
「ん? それってどういう──」
キーンコーンカーンコーン。
鐘の音が鳴り響いた。
「やっべ、次の教室行かねーと。じゃまたな、リオン」
「はーい」
先生はまるで友達みたいに言ってのけると、いそいそと教室を出て行った。
♢
「ただいま、っと」
学生寮の自分の部屋を開けた時だった。
「「おかえりなさいませ、ご主人様♪」」
「メイドが増えている、だと」
いつも出迎えてくれるヴィエルジュに追加して、フーラが出迎えてくれた。なんか知らんがヴィエルジュと同じメイド服を着ているし。
「ふふ。どう? リオンくん。似合うでしょ?」
フーラへ疑問の念を込めた視線を送ると、答えの代わりにその場で一回転してみせた。
「えっと……」
「あ、メイド姿のフーラちゃんが可愛い過ぎて照れちゃった? 惚れちゃった? ふふ、リオンくんってば、かわいー♡♡」
「いや、胸元がスカスカでは?」
「なっ……!?」
フーラはすかさず手で胸元を確認する。
スカスカだった。
「申し訳ございません、ご主人様。こちらのメイド服は私の予備でして。サイズが合わないと何度も申したのですが、絶対大丈夫だと聞かなくて」
「そりゃ仕方ない。ヴィエルジュのサイズじゃ仕方ない。ヴィエルジュは男子の夢の体型だから」
「ご主人様を悦ばすためだけに作り上げた体型です」
「ぐぬぬ……」
ポンっとフーラの肩に手を乗せてやる。
「安心しろフーラ。ヴィエルジュが凄過ぎるだけだ。フーラは──」
胸元に視線をやると、俺の妹のレーヴェを彷彿とさせる。
「なんか、うん。これから、これから!」
「リオンくんのばかあああ!」
右ストレートでぶっ飛ばされた。
♢
「んで、フーラはなんでメイド服を着てんだ?」
改めて三人で部屋に入り、彼女へと問う。
「前にも言ったかもだけど、着てみたかったの」
また胸元スカスカとか言うと怒られるから黙っておこう。
「それから、それからね」
フーラはその場で大きく頭を下げる。
「助けてくれてありがとう。リオンくん」
フーラは頭を上げて俺を見つめる。
「魔人化する時ね、まるでブラックホールに吸い込まれるみたいに怖くて、寂しくって。その時、リオンくんの顔が浮かんだんだ。リオンくんが助けてくれるかもって思った」
彼女は胸に手を置いた。
「ふと気が付いた時、太陽みたいに暖かくて、優しい光に包まれてね。そこでわかったんだ。あ、リオンくんが助けてくれたって。すぐにわかったよ」
それに、と彼女は視線をヴィエルジュに送る。
「ずっと探していた妹にもようやく会えた」
「お姉ちゃん……」
ヴィエルジュがこちらを見つめてくる。
「ご主人様。私はご主人様へヴィエルジュとして一生を捧げると誓っております。ですが、魔人化したお姉ちゃんと対峙した際、お姉ちゃんへ真実を告げていれば良かったと後悔してしまいました。ヴィエルジュとして生きると、ご主人様へ一生を捧げると誓ったのに、ルージュの名を──」
「なにを小難しいこと言ってんだよ」
ポンっとヴィエルジュの頭に手を置いてやる。
「お前がヴィエルジュだろうが、ルージュだろうが、俺の大事なメイドに変わりない。
名なんてなんでも良い。
俺が大事にして欲しいのは自分の気持ちだ。
俺は姉さんに真実を話したくないのなら、その気持ちを尊重する。
話したいのなら、その気持ちを尊重する。
俺は無条件でいつまでもお前の味方だからな」
だけど、とウィンク一つ投げてやる。
「今のヴィエルジュはどこかスッキリして見えるぞ。良かったな」
「ご主人様ぁ……」
目をうるうるとさせてヴィエルジュが抱きついてくる。
「一生お側に仕えさせてください……」
「おー、よしよしー」
このメイドはやっぱり甘えん坊だなぁ。
「リオンくん。本当にありがとね。この御恩は一生忘れないから」
「クラスメイトを助けるのは当然だろ」
「ちっちっちっ」
フーラが指を振って否定してくる。
「私達はただのクラスメイトじゃないでしょ?」
「はい?」
こちらの疑問の念は通じず、彼女は俺の腕にしがみついてくる。
「恋人、なんだから♡」
「いや、あれは──ってヴィエルジュさん? 急に泣き止んで殺気を立てながら頸動脈をクイっとするのはやめてくれませんか?」
「お姉ちゃん。ご主人様から離れて」
「ごめんね。私達恋人同士なの。メイドの方こそ離れなさい」
「あっれー? 姉妹仲良しエンドになったんじゃないの?」
なんか双子の姉妹がバチバチと火花を散らしているんですけど。
「恋人ってなに? それってそっちが一方的に作った設定でしょ?」
「きっかけは一方的だったかもね。でもリオンくんは受け入れてくれたから。ね? リオンくん♡」
「俺、受け入れました?」
「『またなにかあったら相談に乗るぞ。俺達付き合ってるみたいだし』って」
それは受け入れたことになるのだろうか。
「私はリオンくんに熱いものを沢山中に注いでもらって、もうリオンくんなしじゃ生きていられない体になっちゃった」
おい姫様。発言が卑猥だぞ。
「そんなことなら、私は幼い頃からご主人様に注いでもらってますー。築き上げた時間が違いますー」
おいメイド。対抗すんな。色々と誤解が生まれるだろ。
「時間なんて関係ない。大事なのは過去より現在。理由はどうであれ、私達は付き合ってることになっているんだからね。リオンくんと私は恋人。そっちはメイド。関係性は明白だわ」
「王族なんだから、さっさと違う公爵家の人間とでも婚約してください」
「リオンくんって侯爵家だよね。じゃ決定♡」
「公爵と侯爵の聞き違い! ちっ。同じ読み方だからややこしいですね」
「あの、ヴィエルジュさん。そろそろ頸動脈が限界なんですが」
「あらあら。好きな人を気遣えないメイドなんて存在するんだねー」
「ふっ。なにも知らない王族風情ですね。ご主人様はMなんです。これくらいが丁度良いんです。ね? ご主人様」
俺はいつからM設定になったのだろうか。
あ、あれか。拷問されてた時からか。
「ムチで打つのも楽しかったな」
「ご主人様!?」
「あれ? メイドなのにご主人様の好み把握してなくない?」
「今すぐにヴィエルジュへムチを打って! ヴィエルジュ、ご主人様の拷問ならそれは拷問ではなく、ただのご褒美ですから!」
「うわー。このメイド変態だわー」
「逆に恋人を名乗っているのにご主人様の好みに合わせられないなんて滑稽です。これだからプライドの高い王族は困ります」
「言っとくけど、あんたも王族だからね?」
「あのー、ふたりとも? そろそろ喧嘩はやめようぜ。仲良くしろっての。それとヴィエルジュ? 本気で頸動脈が逝くんだけど」
俺の言葉にふたりは素直に離れて、互いに見合う。
「「仲良く……」」
ふたりして呟くと、互いに手を取り合ってから何かを閃いたみたいに提案してくる。
「じゃふたりでリオンくんのお嫁さんになろっか」
「うん。それで解決」
「双子議案が可決したところで水を差すが、俺の意見は?」
俺の意見は無視されて、両腕に双子の王族が抱きついてくる。
「「これから末長くよろしくお願いします♡」」
いや、素直にうんって言いたいけど、この世界って一夫多妻制じゃなかったよな。
「あ、そうそう」
そんな贅沢なことを考えていると、フーラが思い出したかのように言ってくる。
「お父様がリオンくんを連れて来てって言ってたから一緒に
王様の呼び出しを無視はできないですよね。
あ、カンセル先生が言ってたちゃんとした礼ってこれのことかな。
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