第37話 ロイヤル双子メイド爆誕
「ただいま、っと」
学生寮の自分の部屋を開けた時だった。
「「おかえりなさいませ、ご主人様♪♪」」
「メイドが増えている、だと」
いつも出迎えてくれるヴィエルジュに追加して、フーラが出迎えてくれた。
なんか知らんがヴィエルジュと同じメイド服を着ているし。
「ふふ。どう? リオンくん。似合うでしょ?」
フーラへ疑問の念を込めた視線を送ると、答えの代わりにその場で一回転してみせた。
「えっと……」
「あ、メイド姿のフーラちゃんが可愛い過ぎて照れちゃった? 惚れちゃった? ふふ、リオンくんってば、かわいー♡♡」
「胸元がスカスカでは?」
「なっ……!?」
フーラはすかさず手で胸元を確認する。
スカスカだった。
「申し訳ございません、ご主人様。こちらのメイド服は私の予備でして。サイズが合わないと何度も申したのですが、絶対大丈夫だと聞かなくて」
「ヴィエルジュのサイズじゃ仕方ない。ヴィエルジュは男子の夢の体型だから」
「勘違いしないでください。ご主人様を悦ばすためだけに作り上げた体型です」
「ぐぬぬ……」
悔しそうにしているフーラの肩に、ポンっと手を乗せてやる。
「安心しろフーラ。ヴィエルジュが凄過ぎるだけだ。フーラは──」
胸元に視線をやると、俺の妹のレーヴェを彷彿とさせる。
「なんか、うん。これから、これから!」
「リオンくんのばかあああ!」
「うぎゃあああ!」
浄化の右ストレートでぶっ飛ばされた。
♢
「んで、フーラはなんでメイド服を着てんだ?」
改めて三人で部屋に入り、彼女へと問う。
「リオンくんに助けられたらメイドになる決まりじゃないの?」
「そんな決まりはないぞ」
「そうなんだ。てっきりそうかと思っちゃった。でも、このメイド服、可愛いから別に良いよね」
胸元スカスカだけどな、とか言うとまた怒られるから黙っておこう。
「リオンくん。今日は改めてお礼が言いたくて」
フーラはその場で大きく頭を下げる。
「助けてくれてありがとう。ずっと探していた妹にもようやく会えたよ」
「お姉ちゃん……」
ヴィエルジュがこちらを見つめてくる。
「ご主人様。私はご主人様へヴィエルジュとして一生を捧げると誓っております。ですが、魔人化したお姉ちゃんと対峙した際、お姉ちゃんへ真実を告げていれば良かったと後悔してしまいました。ヴィエルジュとして生きると、ご主人様へ一生を捧げると誓ったのに、ルージュの名を──」
「なにを小難しいこと言ってんだよ」
ポンっとヴィエルジュの頭に手を置いてやる。
「お前がヴィエルジュだろうが、ルージュだろうが、俺の大事なメイドに変わりない。名なんてなんでも良い。俺が大事にして欲しいのは自分の気持ちだ。俺は姉さんに真実を話したくないのなら、その気持ちを尊重する。話したいのなら、その気持ちを尊重する。俺は無条件でいつまでもお前の味方だからな」
だけど、とウィンク一つ投げてやる。
「今のヴィエルジュはどこかスッキリして見えるぞ。良かったな」
「ご主人様ぁ……」
目をうるうるとさせてヴィエルジュが抱きついてくる。
「一生お側に仕えさせてください……」
「おー、よしよしー。俺のメイドはやっぱり甘えん坊だなぁ」
「リオンくん。この御恩は一生忘れないから」
「クラスメイトを助けるのは当然だろ」
「ちっちっちっ」
フーラが指を振って否定してくる。
「私達はただのクラスメイトじゃないでしょ?」
「はい?」
こちらの疑問の念は通じず、彼女は俺の腕にしがみついてくる。
「恋人、なんだから♡」
「いや、あれは──ってヴィエルジュさん? 急に泣き止んで殺気を立てながら頸動脈をクイっとするのはやめてくれませんか?」
「お姉ちゃん。ご主人様から離れて」
「ごめんね。私達恋人同士なの。メイドの方こそ離れなさい」
「あっれー? 姉妹仲良しエンドになったんじゃないの?」
なんか双子の姉妹がバチバチと火花を散らしているんですけど。
「恋人ってなに? それってそっちが一方的に作った設定でしょ?」
「きっかけは一方的だったかもね。でもリオンくんは受け入れてくれたから。ね? リオンくん♡」
「俺、受け入れました?」
「『またなにかあったら相談に乗るぞ。俺達付き合ってるみたいだし』って」
それは受け入れたことになるのだろうか。
「私はリオンくんに熱いものを沢山中に注いでもらって、もうリオンくんなしじゃ生きていられない体になっちゃった」
「おい姫様。発言が卑猥だぞ」
「そんなことなら、私は幼い頃からご主人様に注いでもらってますー。築き上げた時間が違いますー」
「おいメイド。対抗すんな。色々と誤解が生まれるだろ」
「時間なんて関係ない。大事なのは過去より現在。理由はどうであれ、私達は付き合ってることになっているんだからね。リオンくんと私は恋人。そっちはメイド。関係性は明白だよ」
「王族なんだから、さっさと違う公爵家の人間とでも婚約してください」
「リオンくんって侯爵家だよね。じゃ決定♡」
「公爵と侯爵の聞き違い! ちっ。同じ読み方だからややこしいですね」
「あの、ヴィエルジュさん。そろそろ頸動脈が限界なんですが」
「あらあら。好きな人を気遣えないメイドなんて存在するんだねー」
「ふっ。なにも知らない王族風情ですね。ご主人様はMなんです。これくらいが丁度良いんです。ね? ご主人様」
「俺はいつからM設定になった?」
あ、あれか。拷問されてた時からか。
「ムチで打つのも楽しかったな」
「ご主人様!?」
「あれ? メイドなのにご主人様の好み把握してなくない?」
「今すぐにヴィエルジュへムチを打って! ヴィエルジュ、ご主人様の拷問ならそれは拷問ではなく、ただのご褒美ですから!」
「うわー。このメイド変態だわー」
「逆に恋人を名乗っているのにご主人様の好みに合わせられないなんて滑稽です。これだからプライドの高い王族は困ります」
「言っとくけど、あんたも王族だからね?」
「あのー、ふたりとも? そろそろ喧嘩はやめようぜ。仲良くしろっての。それとヴィエルジュ、本気で頸動脈が逝くんだけど」
俺の言葉にふたりは素直に離れて、互いに見合う。
「「仲良く……」」
ふたりして呟くと、互いに手を取り合ってから何かを閃いたみたいに提案してくる。
「じゃふたりでリオンくんのお嫁さんになろっか」
「うん。それで解決」
「双子議案が可決したところで水を差すが、俺の意見は?」
「「私達の裸を見たのに意見するの?」」
「俺の意思じゃなくない?」
こちらの言葉は無視されて、両腕にロイヤル双子メイドが抱きついてくる。
「「これから末長くよろしくお願いします♡」」
いや、素直にうんって言いたいけど、この世界って一夫多妻制だっけ? どうだっけ?
「あ、そうそう」
そんな贅沢なことを考えていると、フーラが思い出したかのように言ってくる。
「お父様がリオンくんを連れて来てって言ってたから一緒に
王様の呼び出しを無視はできないですよね。
あ、カンセル先生が言ってたちゃんとした礼ってこれのことかな。
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