第29話 ロイヤル双子メイドの新しい役職

 なんともまぁとんでもなく面倒なことになってしまったな。


 英雄だの、王族との婚約を認めるだのなんだの……。


 いや、フーラとの婚約が嫌というわけではない。彼女はヴィエルジュと双子なだけあり絶世の美女である。性格も明るく、王族とは思えぬほどにフランクで、良き妻になってくれることだろう。


 でも、でもだよ。もしこのままフーラと結婚ってなったら、俺がアルバートの王になるってことだよね? 所謂、逆玉の輿ってやつ。


 無理無理無理! 魔法も使えない奴が魔法王国の王とかどんなネタだよ。そんなん無理に決まってるだろ。


 そもそも、俺の夢は子供部屋おじさんなんだ。王様になんかなったら真逆の人生になっちまう。そんなのはごめんだ。


 しかし、王様のゴリ押しでその場が終わってしまった。流石王様だよ。圧がえげつないよ。俺みたいな社交界にも出ていない侯爵家の三男如き、ゴリ押しで押し切られたよ。


「リオンくん♡」


 アルバート魔法学園の校門を抜け、教室に向かって校内を歩いていると、唐突に俺の左腕がギュッと握られる。


 ふわりと女の子特有の香りが鼻筋を通って来て、視線を送るとそこには絶世の美女がいた。


「おはよ♪」


 朝からお姫様の笑顔をこんなに間近で見られるのなんて俺くらいなのではないかという優越感と、ヴィエルジュが抱き着いてくれる時とは違ったちょっと固めの感触。絶世の美女は絶壁の美女だからな。仕方ない。しかし案ずるな、俺はラーメンはかため派だ。とか言うと右ストレートが火を纏って飛んでくるだろうから口が裂けても言えない。


「おはようなんだけど、朝からお姫様に腕を組まれると周りから白い目で見られるのでやめていただきたいです、はい」


 同じアルバート魔法学園の制服を着た周りの生徒達が俺達を、正確には俺を睨んでくる。


『なんであいつが……』


『英雄だが、なんだか知らんが……』


『たまたまのくせに』


 街を救った英雄と崇められても、由緒正しきアルバート魔法学園では魔法の使えない騎士の落ちこぼれって烙印は中々取れることはないみたい。いや、別にそれは良いんだけどね。


「フーラ様、離れてください。ご主人様が困っております」


 一緒に登校していたヴィエルジュが冷たくフーラに言ってのける。


 フーラは絶妙に可愛い角度で首を傾げる。


「迷惑、かな?」


「すぅ……。いやぁ……そういうわけでない……」


 なんとも回答に困っていると、フーラがご機嫌に言ってのける。


「ほら、別に困ってない。だって私達は婚約者なんだから」


 ええええええーーーーーー!!


 登校していた学生達、全員がフーラの声に驚きの声を上げた。


『なんであいつがフーラ王女と……!?』


『ありえない……。そんなのありえない……』


『俺達の姫様が……』


『殺すしかない』


『完全犯罪を実行委員を立ち上げる。みんな、後に続け』


 おおおおおおおーーーーーー!!


 あのー、物騒な実行委員を立ち上げようとしている人達がいるのですが……。本気ですか?


 フーラは周りの目なんておかまいなしに俺の腕をギュッと強く握ってくる。


「ね♡ リオンくん♡♡」


 あははー。もう何言っても止まんねーや。このお姫様。


「婚約者(笑)でしょ」


 言いながらヴィエルジュが俺の右腕を掴んでくる。


「私はご主人様のメイドであり、両親からの結婚の許しを得ている許嫁です。はい。許嫁メイドです。許嫁でメイドなのです」


 右腕からは左腕とは段違いの柔らかい感触がある。実家のような安心感。


 でもヴィエルジュさんやい。役職が増えているのですけど。いつから許嫁になったよ。


「許嫁なんて勝手なことを言わないでよ」


「勝手ではございません。私はご主人様のお義父様である、レオン・ヘイヴン様より結婚の許しを得ております」


 ヴィエルジュは蚊が鳴く程の小さな声で、「多分」と付け加えていた。


「お義父様、だと……?」


「ふふふ。ふははは!」


 なんだかヴィエルジュが悪役みたいに笑い出した。


「お姉ちゃんはお父さんとお母さんの許ししか貰ってないけど、こちとらお義父様とお義母様に許しを得ておりますので。アドバンテージが違うのですよ。あっはっはっは!」


「うう……。でもでも! 私は王位継承者だもん! 私と結婚したら王様になれるんだよ!」


 この子、権威を振りかざしている。


「浅はか、ですね」


 ふっと嘲笑うとヴィエルジュは勝ち誇った顔をして言ってのける。


「ご主人様は王様になどなりとうございません。ご主人様はヴィエルジュと末永くふたりでコソコソイチャコラセッセするのが夢なのですよ」


 最後の方は、ヴィエルジュの都合良く改ざんされているぞ。


「そ、んな……」


 ガクッと項垂れるフーラへヴィエルジュは勝利の大笑いを披露していた。


 ヴィエルジュって、ヒロインも悪役もできる超万能な美少女だね。


「私、全然リオンくんのこと知らないや……」


 瞳をウルっとさせてこちらを見つめてくるフーラ。


「私、もっときみのこと知りたい。私、きみ色に染まりたいよ」


 おっふ。顔面偏差値高すぎ。なんなのこの姫様。うっかり付き合ってくださいって言いたくなるくらいに愛らし過ぎるだろ。


 うわー。お姫様を俺色に染めて良いとか背徳感がえぐいんだけど。


「既にご主人様色に染まっている専属メイドのヴィエルジュがいますので間に合っております」


「メイド……。あ、そうだね。それが良い」


 フーラはコクコクと自分の中で自己解決をして答えが出たとスッキリした様子であった。


「一旦ね、一旦リオンくんのメイドとしてリオンくんをお世話すれば私も簡単にリオンくん色に染まるってわけだ。私、あったま良い♪」


「なにを勝手なことを言っているのですか。メイドは私ひとりで十分です。フーラ様は必要ありません。というか、王族風情にメイドという仕事がこなせるはずがありません」


「ヴィエルジュも王族だよ? ヴィエルジュにできて私にできないなんてことはありえないかな」


「むむ」


 ヴィエルジュは怒った顔をしてフーラを嘲笑う。


「それに、ご主人様を悦ばせることはできないでしょうしね」


 勝ち誇った顔をしてフーラの胸元を見ながら嘲笑う禁忌に出るヴィエルジュ。当然、フーラが怒り出した。


「リオンくんは別に巨乳派じゃないし!」


「ご主人様は巨乳派です」


 勝手に決めるなよ。


「リオンくんは面食いだし! 私のこの綺麗な顔が好きだし!!」


 勝手に決めるなよ。


「私達は双子です。よって私は巨乳で美人のチートメイドです」


 自分で言うなよ。否定できないし。


「ガッデム!! 確かに同じ綺麗な顔!」


「おいおい。お前ら。いい加減姉妹仲良くだな……」


「「ご主人様リオンくんは黙って」」


「はい。すみません」


 両手に花状態だが、両手の花が争っていて怖い。


「そんな。ヴィエルジュはめちゃくちゃ綺麗で可愛くて巨乳でなんでもできるメイド……」


「それを申しましたら、フーラ様はめちゃくちゃ綺麗で可愛くて天才な姫様です」


 いきなり褒め殺しが始まったんだけど。


「そんな、そんな。私はただの、ロイヤル婚約者メイド」


 新しいフーラの役職がここに誕生した。


「いえいえ。私はただの、ロイヤル許嫁メイドです」


 新しいヴィエルジュの役職がここに誕生した。


「「ご主人様リオンくん……」」


 ふたりが俺を見つめてくる。


「「どっちを選ぶの!?」」


 あの両親め!


 ふたり仲良く嫁になるってことで落ち着いたのに、再発させやがって、こんちくしょうがっ。


 天国のような地獄みたいな言い争いの中心にいると、助け船が入る。


『リオン・ヘイヴン。至急、学園長室に来なさい』


 泥船の助け舟だった。

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